生物系特定産業技術研究支援センター

《こぼれ話16》藻類からバイオ燃料や化粧品成分生産

2020年11月2日号

SDGs目標2.飢餓をゼロに SDGs目標3.すべての人に健康と福祉を SDGs目標7.エネルギーをみんなにそしてクリーンに SDGs目標9.産業と技術革新の基盤をつくろう SDGs目標13.気候変動に具体的な対策を

化石燃料を救う救世主の可能性

海や池など水の中で生きる小さな藻類が石油に似た成分の油 (オイル) をつくっているのを知っていますか。藻類のひとつの「ボトリオコッカス」を大量に培養し、航空機や車の燃料、化粧品や栄養補助サプリメント、プラスチックなどの原料に活用する研究開発が進んでいます。すでに藻類から抽出されたオイルを使った化粧品が誕生し、販売されています。いずれ藻類が化石燃料の枯渇を救う救世主になる可能性も秘めています。

4~5日で周年収穫できるボトリオコッカス

藻類は太陽光を利用して光合成を行い、オイルを蓄積する能力をもっています。その藻類を大量培養し、石油代替燃料の原料化を目指す研究を行っているのは渡邉信・筑波大学特命教授 (藻類バイオマス・エネルギーシステム開発研究センター長) です。

このような藻類は一般的に細胞の中にオイルを作って蓄積しますが、渡邉教授が沖縄で発見したボトリオコッカスという藻類は、細胞の外側にオイル (写真1) の約9割を蓄積する特徴をもっています。大きさは 100分の1mm 程度です。

写真1 : 細胞の外側に丸い粒のオイルを作るボトリオコッカス

ボトリオコッカスなどの藻類からバイオ燃料をつくる工程は「培養」「濃縮・収穫」「オイル抽出」「燃料への変換」の4つのプロセスに分かれます。

渡邉教授はボトリオコッカスから細胞を壊さずに生かしたまま、炭化水素を抽出することに成功しました。

ボトリオコッカスの細胞は炭化水素抽出後も生きているため、光合成を行い、4日で再び同量の炭化水素を蓄積します。このため、4~5日ごとに炭化水素オイルを連続的に抽出していくことができます。

仮に1haの休耕農地に水深 20cm の培養プールを設置して、細胞を壊さずに周年培養できたとすれば、年間 90t 以上の炭化水素オイルがとれる計算になります。ボトリオコッカスが増殖する期間は暖かい時期に限定されますが、それでも通常の藻類のオイル生産量の最高値とされる45t程度は期待できます。

一方、自然界に生育する多様な藻類 (雑藻) を原油に直接変換する「水熱液化」といわれる画期的な技術も開発 (写真2) されました。その製造法は、処理前の下水の中で雑藻を混合培養し、濃縮した雑藻を高温・高圧下で処理することで原油に変換します。

写真2 : 水熱液化装置(A) で藻類ペレット(B) を高温高圧下で反応させてできたバイオ原油(C)

※写真1、2は渡邉教授提供

この技術は4つの特徴をもっています。

  • 下水を使って、周年の藻類生産が可能になる
  • 藻類向けの肥料を購入する費用が節約でき、同時に下水処理費用も削減できる
  • オイルを抽出することなく、直接、藻類を原油化できる
  • 培養プールは水深 1.5m 以上に設定することが可能なため、1ha の面積で年間 約1000t の原油生産が見込め、石油と同程度のコストにできる可能性がある

渡邉教授は「低いコストで大量に効率よく培養できるかどうかが最大の課題です。下水処理水をうまく活用できれば、将来的には 1L あたり 50円 台のオイルも夢ではない」と語っています。

藻エキス配合のハンドクリーム誕生

一方、筑波大学と共同研究を行う大手自動車部品メーカーのデンソー (愛知県刈谷市) は、ボトリオコッカスがつくる炭化水素オイルを化粧品の成分に応用し、藻エキス配合のハンドクリーム「moina (モイーナ)」(写真3、デンソー提供) を開発、2014年から販売しています。ボトリオコッカスから取り出した炭化水素オイルの成分は深海ザメの肝油に似ていて、保湿性に優れていることから、自社施設での培養に挑み、成功しました。1kg のボトリオコッカスから 約300g のオイルがとれるそうです。製品開発の特命を受けた女性プロジェクトチームが女性の声を聴きながら容器のデザインにも工夫をこらし、人気のハンドクリームを開発しました。主にネットで販売されています。

藻類とバイオ燃料

藻類は約4万種類が知られていますが、実際はもっと多いと言われています。ワカメやコンブも藻類ですが、大半は微細な藻類です。トウモロコシや大豆、菜種など植物からもバイオ燃料ができますが、1ha あたりの生産量で見ると、藻類が数十倍~数百倍も多いのが特徴です。藻類は、人が食べる食料と競合しないことや休耕地を有効利用して大量に培養できる点が大きな強みだと言われています。
写真3 : 人気ハンドクリームの「モイーナ」

事業名

イノベーション強化推進研究事業
(旧農林水産業・食品産業科学研究推進事業 (発展融合ステージ))

事業期間

平成25年度~平成26年度

課題名

耕作放棄地を活用した大規模スケールでの藻類バイオマス有効利用技術の確立

研究実施機関

筑波大学 (茨城県つくば市)、デンソー (愛知県刈谷市) など


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こぼれ話の①~⑱は日本語と英語で読めます。その18話を冊子『日本の「農と食」 最前線-英語で読む「研究成果こぼれ話」』にまとめましたのでご覧ください。