生物系特定産業技術研究支援センター
《こぼれ話17》焼酎をおいしくする高アミロース米
2020年11月16日号
香気豊かな焼酎をつくる米麹
米の成分が焼酎の発酵や味に影響することは意外に知られていません。宮崎県と鹿児島県で焼酎醸造に適する麹用米品種が生まれました。デンプン成分のひとつであるアミロースが多く含まれる高アミロース米品種の「み系358」(宮崎県) と「たからまさり」(鹿児島県) です。これらの品種を多肥栽培して米のタンパク質を高めることで良質な米麹ができ、焼酎の香り、風味も豊かになることが分かりました。これらの米を使った地場ブランド焼酎が普及すれば、酒造メーカー、稲作農家の双方にメリットが生まれ、地域の活性化だけでなく、焼酎需要の掘り起こしや輸出促進にもつながりそうです。
良質の米麹は原料米の選定がカギ
焼酎の代表的な原料には、米、麦、ソバなどの穀類やサツマイモがあります。これらの原料を発酵させるときに必要なのが麹で、米麹や麦麹があります。 米麹では、水分に浸した米を蒸したあと、冷やし、種麹をふりかけて、温度と湿度が管理された「麹室 (こうじむろ)」で寝かせます。そのあと、米麹に水と焼酎酵母を混ぜて酵母を増やし、さらにサツマイモなどの原料を加えて一定期間発酵させます。こうしてできた「もろみ」を蒸留することでアルコール度数の高い焼酎ができあがります。 米麹作りでは、どんな成分の米を使うかで焼酎の品質が変わるだけでなく、仕込みの作業性も変わってきます。粘り気のある一般的な炊飯用の米を麹用米に使用すると、米がべたつき、麹菌が米粒の一つひとつに万遍なく生育できなかったり、米を蒸すときに水分を過剰に与えて麹作りを失敗したりするケースがあります。こうしたことから、焼酎用の麹米に適した米の開発を求める酒造メーカーからの声が以前から強くありました。 |
鹿児島県提供 |
こうした期待に応えて登場したのが「高アミロース米」(写真1) です。粘り気が少なく、さらっとした食感をもち、カレーライスなどの用途に向く米です。この高アミロース米を用いると米の一粒ひと粒に麹菌が十分に生育でき、デンプンやタンパク質を分解して、うまみ成分などを作り出す酵素活性の高い良質の焼酎用米麹ができます。
米麹に使う米の量は意外に多く、芋焼酎の醸造で芋を 1万t 使う場合、米はその 5分の1 の 2千t も必要です。焼酎の需要が増えれば、それに伴って麹用米の栽培面積が拡大し、米を作る農家の所得も増えることにつながります。
宮崎の「み系358」
「み系358」は、焼酎麹用米としての利用、多収性、いもち病抵抗性を目的に宮崎県総合農業試験場が育成した品種で、2018年に品種登録されました。宮崎県や酒造メーカーによる評価試験では、芋の風味や甘みがうまく醸し出され、高い評価が得られました。さらに高密度育苗技術で10aあたりの収益も増えることも分かりました。家畜の糞尿を活用した堆肥を肥料とすることで多収が期待できるなど稲作農家の所得向上にもつながる研究結果も出ています。 2019年度の作付面積 (図1) は 701ha まで拡大しましたが、まだ酒造メーカーの需要を満たすほどの量には届かず、さらなる栽培面積の拡大が求められています。 |
鹿児島の「たからまさり」
高アミロース米品種として注目されている「たからまさり」は、焼酎麹用を主目的に鹿児島県農業開発総合センターで育成された品種です。2018年7月に品種登録の出願が公表され、2020年から本格的な種子供給が始まり、普及はこれからです。
「たからまさり」は穂数が少ない特性のため、株間を狭める密植栽培と多肥栽培を組み合わせることで多収になります。鹿児島県工業技術センターが行った官能評価試験では、米のタンパク質を高めることで麹の酵素活性が高くなり、フルーティな風味が増すことが分かりました。また、出穂前後に追肥する実肥 (みごえ) が焼酎麹用米の生産に有効なことも分かり、今後、焼酎麹用米に適した施肥法の普及が期待されています。
南九州は日本一の焼酎どころ
日本酒造組合中央会の調べによると、焼酎の出荷量 (2019年7月~20年6月) は宮崎県が6年連続で日本一となっています。2位は鹿児島県、3位は大分県です。全国の焼酎の出荷量は年間 40万 kL で減少傾向にあります。「み系358」や「たからまさり」のような焼酎麹用米品種を使った本格焼酎やブランド焼酎の認知度をもっと上げるなど、需要回復への取り組みが期待されています。
事業名
革新的技術開発・緊急展開事業 (うち地域戦略プロジェクト)
事業期間
平成28年度~平成30年度
課題名
南九州地域に適した焼酎麹用米専用品種の普及及び省力・低コスト栽培技術の確立
研究実施機関
宮崎県総合農業試験場、鹿児島県工業技術センター、鹿児島県農業開発総合センターほか
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こぼれ話の①~⑱は日本語と英語で読めます。その18話を冊子『日本の「農と食」 最前線-英語で読む「研究成果こぼれ話」』にまとめましたのでご覧ください。