生物系特定産業技術研究支援センター

《こぼれ話18》マルドリ方式で高収益のブランドみかん

2020年12月1日号

SDGs目標2.飢餓をゼロに SDGs目標3.すべての人に健康と福祉を SDGs目標7.エネルギーをみんなにそしてクリーンに SDGs目標9.産業と技術革新の基盤をつくろう

全国にみかんをはじめカンキツ類の産地はたくさんありますが、どうしたら味の良いブランド品を築くことができるのでしょうか。そんな夢をかなえる方法の一つとして、「マルドリ方式」(周年マルチ点滴かん水同時施肥法) と言われる画期的な生産技術体系があります。生産者の高齢化やカンキツ園地の減少が進む中、高品質で収益性の高いカンキツの安定的な生産を実現させたいという研究者たちの熱意が実った成果です。栽培管理の省力化技術でもあり、若い世代がカンキツ経営に参入するきっかけにもなりそうです。

高い糖度と適度な酸味のカンキツが実現

マルドリ方式は、みかんの園地をシートで覆う「マルチ被覆」(写真1) と液体肥料を少しずつ点滴のように土壌にしみこませて与える点滴かん水 (ドリップ) を組み合わせた技術です。かん水や施肥作業の煩雑さや乾燥による樹体の衰弱を解決する方法として、農研機構西日本農業研究センターが開発しました。

園地の地面を透湿性に優れ、太陽光を反射するシートで覆い、その中にホースのような長い点滴チューブを配置し、きめこまかく水分と養分を供給して樹体を管理するのが特徴です。水源がない場合は貯水タンクのほか、井戸や溜めた雨水、沢の水をポンプでくみ上げて水源にできます。電源が確保しにくいところでは太陽光発電を用いることも可能です。

タイマー付き電磁弁、フィルター、液肥混入器の設置で水や液体肥料を精密にタイミングよく与えることができるほか、土壌の水分を測る簡易土壌水分計なども活用すれば、適切なかん水量の調節が可能になり、糖度が高く、適度に酸味もある品質の高いカンキツができます。根元付近はシートで覆われ、除草作業も軽減できます。

マルドリ方式のみかん畑の写真
写真1. 園地をシートで覆ったマルドリ方式のみかん畑
(農研機構西日本農業研究センター提供)

マルドリ方式を苗木の定植に合わせて導入すれば、早期多収も可能になります。主なメリットとして

  • 糖度の高い高品質のみかん
  • 収量の安定化
  • 低コストの実現
  • 農業所得の改善
  • 集団での導入で産地のブランド化の実現

などが見込めます。今後、若い世代の間で収益の高い魅力的なカンキツ経営の広がりが期待できそうです。

イノベーションネットアワード2020で優秀賞受賞

各県の農業試験場および生産者団体との連携によって、栽培管理マニュアルの作成や講習会を通じた技術移転も進み、これまでに三重県、愛媛県、山口県、福岡県、長崎県、和歌山県、広島県、香川県など19府県で導入されています。

最近は、技術導入コストの削減や地域全体のブランド化を目指し、複数の生産者グループが共同で施設や水などを利用管理する「団地型マルドリ方式」も開発され、普及しつつあります。

こうしたマルドリ方式の実用化に向けた一連の活動が高く評価され、2020年9月、西日本農業研究センターは、地域産業振興で優れた取り組みを表彰する第9回地域産業支援プログラム表彰事業 (イノベーションネットアワード2020・主催「全国イノベーション推進機関ネットワーク」) で優秀賞を受賞しました。

マルドリ方式の講師派遣もあります

生研支援センターは革新的農業の推進を支援するため、農協や自治体などが行う技術講習会への研究者等の派遣にかかる旅費等を支援しています。2020年2月には、農研機構の専門家2人を講師に大分県津久見市でマルドリ方式を学ぶ講習会 (写真2) が行われました。

生研支援センターに講師を依頼できるのは地方公共団体、協同組合、農業法人、公益・一般法人、民間企業など法人格を有する方が対象です。講師を派遣するための旅費・日当は生研支援センターが負担いたします。講師派遣をご希望の方はぜひ当センター企画課にご連絡ください。

講習会の様子
写真2. 大分県津久見市のみかん園で行われたマルドリ方式の講習会
  • 派遣事業の詳細はこちらを参照してください。

事業名

攻めの農林水産業の実現に向けた革新的技術緊急展開事業 (うち産学の英知を結集した革新的な技術体系の確立) ほか

事業期間

平成26年度~平成27年度ほか

課題名

マルドリ方式・ICTなどを活用した省力的な高品質カンキツ生産技術体系とその実現のための園地整備技術の実証

研究代表機関

農研機構近畿中国四国農業研究センター (現西日本農業研究センター)


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