生物系特定産業技術研究支援センター
《こぼれ話20》色彩で誘い 害虫を捕殺するシート
2021年1月15日号
"虫の写真を含みます"
ハウス内につり下げておくだけで害虫を効率よく捕殺する画期的な防除シートが、兵庫県立農林水産技術総合センター、浜松医科大学、大協技研工業株式会社 (神奈川県座間市) によって開発されました。昆虫が明暗や色彩の差で生じる境界 (エッジ) を目標にして飛んでいく視覚行動特性の研究成果を活用して生まれた発明です。すぐれた実用性が高く評価され、「2020年超モノづくり部品大賞」(「ものづくり会議」と日刊工業新聞社主催) で「ものづくり生命文明機構 理事長賞」を受賞しました。
害虫の行動特性を巧みに利用
昆虫の多くは視覚に頼って生きています。その視覚行動特性を巧みに利用して生み出されたのが、この色彩シートです。小さな害虫は、やみくもに飛んでいるわけではなく、姿勢を制御しながら、特定の目標に向かって飛んでいきます。兵庫県立農林水産技術総合センターの八瀬順也研究員らは、模様のあるシートのどの部分に害虫が多く飛んでくるかを観察し、模様の周辺に多く集っていることを見出しました。害虫は模様のある色彩部と背景 (下地) でつくられる境目 (エッジ) を視覚目標として使っていることが分かったのです。この現象を「視覚的エッジ効果」と言います。 そこで、大協技研工業株式会社の協力を得て、斜線で濃淡をつけたひし形模様 (写真1) を数多く印刷した黄色のシートとひし形模様のない黄色のシートをトマト栽培ハウスに設置して、どちらのシートがより多くの害虫を捕殺できるかを調べました。ひし形のエッジ模様は植物の葉を模したものです。どちらのシートにも、虫が張りつく粘着剤が塗られています。実験の結果、エッジ模様のあるシートは模様のないシートに比べて、コナジラミ類(写真2)の捕獲数が多くなりました。従来のシートにエッジ模様を加えるだけで害虫の誘引効果が高くなったのです。 では、シートに描くエッジ模様の数はどれくらいあればよいのでしょうか。コナジラミ類での試験の結果、長さ260mm、幅115mm のシートに 26個 のエッジ模様がある場合に最も捕虫率が高いことがわかりました。模様の色彩は、反射される波長と捕虫効率の関係から、黄色を下地にしたシートに特定の緑色系の模様を描くのがよいことも分かり、最終的に捕虫性能は従来の約1.6倍になりました。 |
超モノづくり部品大賞を受賞
こうして誕生したのが、大協技研工業株式会社が2019年から販売している黄色粘着捕虫シート「ラスボスRタイプ」です。扱いは容易でハウス内で天井からつるすだけです (写真3)。使用時に表面をはがす剥離紙タイプのため、粘着物が手につかず、紙のため、廃棄も容易です。
これらの実用的な利点が高く評価され、この製品は「2020年超モノづくり部品大賞」(ものづくり生命文明機構理事長賞) を受賞しました。この賞は、日本のモノづくりの競争力向上を支援するため、産業・社会の発展に貢献する「縁の下の力持ち」的存在の部品・部材を対象に表彰するものです。 コナジラミ類の防除効果を調べた八瀬研究員は「エッジ模様シートを設置することでコナジラミ類の親が捕殺されるため、シートなしに比べ、ハウス内での幼虫の発生数は4分の1に抑えられた」と話しています。 この捕虫シートはハモグリバエ類 (写真4) アザミウマ類 (写真5)、ネギコガネ類などの捕獲にも適用可能です。設置数は10アールあたり200~500枚が最適で、1枚あたり55~60円程度で販売されています。防虫ネットや光照射、忌避剤などと併用して使える点も大きなメリットといえます。 |
写真1、3 : 大協技研工業株式会社提供
写真2、4、5 : 八瀬順也さん提供
事業名
SIP (戦略的イノベーション創造プログラム)「次世代農林水産創造技術」
事業期間
平成29年度~平成30年度
課題名
持続可能な農業生産のための新たな総合的植物保護技術の開発
研究実施機関
兵庫県立農林水産技術総合センター、浜松医科大学、大協技研工業株式会社ほか
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こぼれ話は毎月1日、15日に更新予定です。
こぼれ話の①~⑱は日本語と英語で読めます。その18話を冊子『日本の「農と食」 最前線-英語で読む「研究成果こぼれ話」』にまとめましたのでご覧ください。