生物系特定産業技術研究支援センター
《こぼれ話21》乳酸菌H61で女性の肌の乾燥を抑える
2021年2月1日号
農研機構畜産草地研究所 (現・畜産研究部門、茨城県つくば市) が発見した乳酸菌H61がヒトの試験で「中高年女性の肌の水分減少を抑える」などの作用があることが分かりました。この研究成果をきっかけとして「肌の潤いが気になる方に適した食品」と表示できる機能性表示食品が生まれ、さらに茨城県や岩手県では地域特産品のヨーグルトなどが誕生しています。加えて、マウスの実験ながら、老化に伴う聴覚機能の低下を抑える作用も分かり、高齢者の難聴予防に向けた今後の研究が大いに期待されています。
産官学の連携で数多くの製品が登場
乳酸菌H61 (写真1) は農研機構がチーズを作る際に用いられる各種乳酸菌の中から選び出した乳酸菌です。正式名を「ラクトコッカス ラクチス サブスピーシーズ クレモリス」と言います。農研機構が各種試験を続けてきた結果、老化抑制にかかわる作用をもっていることが分かりました。 そうした研究成果をきっかけとして、さらに科学的根拠となる論文が発表され、2020年にサプリメントの原料「乳酸菌H (エッチ) 61トーア」(写真2) が機能性表示食品として消費者庁に届出受理されました。当食品は東亜薬品工業株式会社が農研機構のライセンスを得て独自に製造したものです。この原料を活用したサプリメントがすでに数社から販売されています。 茨城県では、産官学の協力でヨーグルトが誕生しました。小美玉市の第三セクター「小美玉ふるさと食品公社」は茨城県、つくば市、筑波大学の協力を得て、乳酸菌H61を配合したヨーグルト「からだ想い」(写真3) を販売しています。JA常陸もチーズの味わいのある飲むヨーグルト「Lilia (リリア)」を売り出しています。 岩手県雫石町では手作りアイスクリームで知られる松原農場が「牧舎のヨーグルト」とのネーミングで乳酸菌H61使用ヨーグルトを販売し始めました。活用の輪は東北にも広がっています。 乳酸菌H61はペットフードなど幅広い加工食品に活用できることから、菌体に関する特許を所有している農研機構では民間企業における積極的な有効利用を期待しています。 |
肌の水分減少を抑える
こうした製品の機能性につながる最初の研究が、農研機構畜産研究部門の木元広実・畜産物機能ユニット長らが行ったヒトでの試験です。
30代~60代の女性を2群に分け、一方には加熱処理した乳酸菌H61 (1日 60 mg・乳酸菌 約400億 個) を含むバレイショデンプン、もう一方にはバレイショデンプンだけ (プラセボ) を、肌の乾燥が進む秋から冬にかけて8週間食べてもらい、肌の状態に差が生じるかを調べました。この試験は、だれが本物の乳酸菌を摂取しているかが分からないようにした信頼性の高い二重盲検比較試験です。
その結果、20代~40代では両群に差は見られなかったものの、50代~60代では8週間後にH61摂取群で前腕の皮膚の季節的な水分量の減少が有意に抑制されていました。アンケートによる自己評価では、H61摂取群の30代で「肌のはり」がよくなり、同様に50代~60代で「毛穴の目立ちが改善された」「のどの乾きが減った」との評価が高いことも分かりました。
また、乳酸菌H61を用いて作られた飲むヨーグルトを30代~60代の女性に飲んでもらう試験でも、「肌の弾力」「きめ」「くすみ」が改善されたとの自己評価が高いことが分かりました。
加齢性難聴の予防になるか
農研機構食品研究部門の大池秀明・上級研究員らは、乳酸菌H61の乾燥粉末 (死菌) を混ぜたえさをマウスに与え、加齢性難聴への作用を調べました。半年後に聴力を測定したところ、乳酸菌H61を摂取したマウスは、H61を含まないえさを食べたマウスに比べて、聴覚神経細胞の死滅が抑えられ、聴力の低下が抑制されることが分かりました。大池さんは「年をとって難聴になると他人とのコミュニケーションが減り、認知症が進む恐れがあります。乳酸菌H61が難聴の予防を通じて認知症の予防につながるかをさらに研究していきたい」と話しています。
事業名
イノベーション創出強化研究推進事業(旧農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業(発展融合ステージ)
事業期間
平成22年度~平成24年度ほか
課題名
生体防御作用に関する健康機能性解明と有効利用技術の開発ほか
研究実施機関
農研機構食品研究部門、農研機構畜産研究部門ほか
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こぼれ話の①~⑱は日本語と英語で読めます。その18話を冊子『日本の「農と食」 最前線-英語で読む「研究成果こぼれ話」』にまとめましたのでご覧ください。