生物系特定産業技術研究支援センター
《こぼれ話25》もち小麦で地場産業を活性化
2021年6月21日号
小麦なのに、もちっとして、しっとり感のある「もち小麦」をご存じでしょうか。農研機構東北農業研究センター(岩手県盛岡市)が世界で初めて育成したもち小麦「もち姫」は高級食パンやラーメンなど、その特徴を生かしたブランド商品がいくつも生み出され、各地の地域振興に大きく貢献しています。悩みは、もち小麦を栽培する生産者が少ないことです。商品の需要に手応えを感じる地域や製粉企業からは、もち小麦の栽培と生産拡大を求める声が強く出ています。
おいらせ町(青森)の観光農園でもち小麦満喫
青森県東部の「おいらせ町」にある観光農園「アグリの里おいらせ」。広い農園には農産物直売所やレストラン、果樹園などがあり、週末は大賑わいです。直売所では「姫っこもち」(写真1)や「もち小麦粉」、パン工房ではもち小麦で作られた食パン(写真2)が売られています。レストランや物産館ではもち小麦の「すいとん」(写真3)も提供されています。これらもち小麦商品の原料が「もち姫」です。地元の農家3人が栽培しています。
姫っこもち(冷凍品)は、すいとん、鍋物、おしるこ、カレーなど幅広い料理に使え、人気を博しています。もち小麦粉は焼き菓子や揚げ菓子、お好み焼き、パンや洋菓子に活用でき、地元の学校給食でも使用されています。県外からも注文が来るそうです。
観光農園でもち小麦商品の加工・開発や広報を担当する浅水亮さんらは、10年前、もち小麦の機能性と加工性を研究していた藤田修三・梅花女子大学教授(当時・青森県立保健大学教授)の指導を受けて、もち小麦100%の冷凍もち「姫っこもち」などユニークな商品を開発しました。もち小麦は団子状にして食べるとうどんのように高齢者でも食べやすい利点があります。粘り気のあるグルテンと食物繊維によって、ゆっくりと消化されるため、食後の血糖値が上がりにくいことも魅力です。ただ生産者が少なく、現在、栽培者を募っています。
岩手県では高級ブランド食パン誕生
藤田教授から、もち小麦の紹介を受けたパンメーカー「白石食品工業」(岩手県盛岡市)は、6年前から、パン工房「PanoPano」でもち姫を主原料にした高級食パン(写真4)を販売しています。この食パンはネットでも販売され、今年春に東京の百貨店で販売されるとすぐに完売するほどの人気を博しました。もち姫を使用した同社のロールパンとデニッシュは今年5月から青森や宮城など東北6県のスーパーでも販売が始まりました。もち姫の栽培面積(2020年)は岩手県が80haで最も多く、紫波町を中心に栽培されています。次いで三重県5ha、青森2haとなっています。
大阪では梅花エレガンスクッキング
藤田教授が梅花女子大学(大阪府茨木市)に移ったことから、関西でももち小麦の利用が広がっています。梅花女子大学は、大阪ガスとのコラボでもち小麦の料理法を学ぶエレガンスクッキング(写真5、6)を昨年から4回行っています。5月には「水野真紀の魔法のレストラン」(MBSテレビ)でもち小麦製品が取り上げられました。著名なシェフの安倍竜三さんがオーナーの「パリゴ」(大阪市)でも、もち姫を原料にした食パンが売られています。一方、三重県桑名市でも、生産者、小売店、パン製造販売業者が一体となった「桑名もち小麦プロジェクト」が始まり成功しています。
将来は医福食農連携へ
藤田教授はもち小麦の食品機能性を生かした商品や精麦法、幼児からお年寄りまで食べられる「食のバリアフリー」をめざす研究をしてきました。また、もち小麦ならではの「粒食」を実現させました。もち小麦の将来について、藤田教授は「もち小麦は、おもちのモチモチ感とうどんのツルツル感を併せもち、食べやすさ、のどごしの良さが特色です。まさに医福食農連携にふさわしい食材です」と話しています。今後の夢として、老人福祉施設でもち小麦の食生活を楽しんでもらうこと、そして、農家の間でもち小麦への関心が高まり、栽培生産者がもっと増えることを期待しています。
事業名
農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業(実用技術開発ステージ)
事業期間
平成25年度~平成27年度
課題名
これまでの事業/ヒト介入試験に基づく、もち小麦からの新食感食品開発
研究実施機関
青森県立保健大学、アグリの里おいらせ等
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こぼれ話の①~⑱は日本語と英語で読めます。その18話を冊子『日本の「農と食」 最前線-英語で読む「研究成果こぼれ話」』にまとめましたのでご覧ください。