生物系特定産業技術研究支援センター

《こぼれ話26》「はかた地どり」の胸肉が記憶機能をサポート

2021年7月20日号

SDGs目標3.すべての人に健康と福祉を SDGs目標9.産業と技術革新の基盤をつくろう

福岡県産ブランド地鶏の「はかた地どり」の胸肉に含まれる成分に記憶機能を改善する機能性があることが東京大学や九州大学などの試験で分かりました。2019年には「新しい出来事に関する記憶をサポートする機能が報告されている」と表示できる機能性表示食品として消費者庁に受理されました。生鮮の肉類では全国初の機能性表示食品です。今後、高齢者の認知機能改善への期待も高まっています。

生鮮肉類では初めての機能性表示食品

福岡県内のスーパーには全国でも珍しい鶏肉が販売されています。「機能性表示食品」と表示された「はかた地どり(胸肉)」のことです(写真1)。機能性表示食品は、事業者が科学的根拠など必要な情報を消費者庁に届け出ることで健康の維持や増進に役立つ機能性を表示できる食品です。製品の「はかた地どり(胸肉)」には「加齢により衰えがちな認知機能の一部である、個人が経験した比較的新しい出来事に関する記憶(近時記憶)をサポートする機能がある」と表示されています。生鮮の肉類では全国初の機能性表示食品となりました。

写真1 : 機能性表示食品として販売されてい
る「はかた地どり(胸肉)」
(農事組合法人福栄組合提供)

福岡県だけで生産

「はかた地どり」を生産・販売しているのは、生産者で組織した農事組合法人「福栄組合」(福岡県久留米市)です。現在、同組合に加盟する福岡県内の10カ所の農場で約54万羽(2020年度)が飼育・出荷されています。同組合は食鳥処理場まで保有しています。

国内在来種の「はかた地どり」は、味のよさで知られる福岡県産の軍鶏(シャモ)とうま味成分の多いサザナミを祖父母にもち、肉づきのよい白色プリマスロックをかけ合わせて、1987年に誕生しました。ほどよい歯ごたえとコクのあるうま味が魅力です。出荷数は年々増えていますが、福岡県以外では生産されていません。

福岡以外では埼玉県志木市の明治屋産業志木店でも販売されていますが、ネット販売を利用すれば、全国どこでも入手は可能です。福栄組合の通販サイトでは、「水炊きセット」や「手羽元カレー」などさまざまな製品(写真2)を扱っています。

写真2 : ネットでも入手可能な水炊き
の食材(農事組合法人福栄組合提供)

機能性成分はイミダゾールジペプチド

近時記憶機能の改善にかかわる機能性があると分かってきた成分は、胸肉に含まれるイミダゾールジペプチドと呼ばれる2つのアミノ酸がつながった化合物です。抗酸化・抗炎症機能があり、これまでは筋肉の疲労を和らげる効果が良く知られていました。動物や魚の筋肉組織に含まれ、代表的なものにアンセリンとカルノシンがあり、鶏肉では3対1の割合で含まれています。「はかた地どり」の胸肉には、100gあたり約1.8gのイミダゾールジペプチドが含まれています。これはブロイラーに比べて約4割も多い量です。

2つのヒト試験で有効性を証明

イミダゾールジペプチドの効果を調べるため、久恒辰博・東京大学大学院新領域創成科学研究科准教授らは2つの試験を行いました。試験法は無作為(ランダム)化比較試験といわれる信頼度の高い試験です。ひとつ目の試験では、高齢者のグループを2つに分け、一方の19人(試験食摂取群)に1gのイミダゾールジペプチドを含む顆粒状食品、もう一方の20人(プラセボ対照群)にイミダゾールジペプチドを含まない顆粒状食品を3カ月間食べてもらい、記憶や認知機能に差が出るかを比べました。

記憶は、25個の単語から成る簡単な物語を聞いてもらい、30分後にいくつの単語を記憶しているかを評価しました。認知にかかわる会話能力や情緒の安定性も調べ、さらに脳画像検査で脳の血流量なども調べました。その結果、イミダゾールジペプチドの摂取群はプラセボ群に比べて、記憶機能が有意に高く、記憶にかかわる脳の部位で血流量が増えていました(写真3)。

写真3 : イミダゾールジペプチド含有食品による
脳血流の増加(赤い部分)=久恒ら、Aging & Dis, (2018)

2回目の試験も同様に試験食摂取群(42人)とプラセボ群(42人)に分けて6カ月間行ったところ、やはりイミダゾールジペプチド摂取群の記憶機能が有意に高くなっていました。 こうした人の試験で有効性を示す結果が出たことが機能性表示食品の届出につながりました。久恒准教授は「肉類の消費は年齢とともに減りますが、鶏肉はあっさりした味なので食べやすい。鶏の胸肉は高タンパクで低脂肪のため、生活習慣病の予防にも適した食材です。日々の食生活で鶏の胸肉をほどよく摂取することが脳の老化予防につながることが期待できます」と食品摂取を通じた認知症の予防の可能性を語っています。

事業名

農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業(シーズ創出ステージ)

事業期間

平成25年度~平成27年度

課題名

鶏肉に含まれる高機能ジペプチドを用いた中高齢者の心身健康維持に関する研究

研究実施機関

東京大学大学院、九州大学、日本ハム株式会社等


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