生物系特定産業技術研究支援センター
《こぼれ話27》麹菌を活用した国産チーズが誕生
2021年8月20日号
麹菌と酒粕を使って発酵・熟成させた世界で初めての国産ナチュラルチーズが誕生しました。その名は「麹チーズ蔵(KURA)」(写真1)。麹と酒粕が醸し出す独特の味わいが特色です。日本酒にも合い、「和」の風味も楽しめます。日本獣医生命科学大学が中心となって、蔵王酪農センター、樋口松之助商店、農研機構など7つの機関でコンソーシアムを立ち上げ、産学連携の共同研究を進めてきた大きな成果です。地域の酒蔵の酒粕を配合すれば、その地域特有の「ご当地麹チーズ」ができるため、特産品による町おこしも期待できそうです。 |
宮城県の蔵王酪農センターで販売 うまみ成分も豊富
宮城県蔵王町にある一般財団法人蔵王酪農センターは今夏、麹菌と酒粕で熟成させた世界初の「麹チーズ蔵」(写真2)の販売を始めました。1個(100g)1620円(税込み)の高級チーズです。蔵王工場に隣接する直売店(写真3)とオンラインショップで販売されています。
2020年6月に専用の製造施設をつくり、試作を重ねてようやく完成しました。ドーナツ型のソフト系チーズで、見た目はカマンベールに似ていますが、麹菌で熟成させていること、さらに酒粕も加えられていることから、和と洋の融合した独特な味わいが楽しめます。
麹チーズの原料は生乳、乳酸菌、麹菌、酒粕、食塩だけです。うまみ成分のひとつのグルタミン酸がカマンベールの5倍近く含まれ、他のチーズでは味わえない風味が楽しめます。
熟成期間が短く、収益性高い
カマンベールのようなソフト系白カビチーズの熟成期間が3週間~4週間とされるのに対し、麹チーズの熟成期間は10日程度と短く、生産効率が高いので、高い収益性も望めます。麹菌を使ったチーズは海外にはないため、輸入チーズと差別化でき、価格競争に巻き込まれるおそれが少ないことも強みです。
約2000種類の麹菌から選抜
麹菌は古来、みそ、しょうゆ、日本酒などの発酵に欠かせない微生物です。麹菌を用いたチーズは以前から試みられていましたが、麹菌がチーズの表面にうまく定着せず、実用化には至りませんでした。麹菌の働きで生乳中の乳脂肪が過度に分解され、風味が低下する課題もありました。 日本獣医生命科学大学の佐藤薫教授らは、麹菌の製造販売で知られる株式会社樋口松之助商店(大阪市)や農研機構畜産研究部門・食品研究部門の協力を得て、約2000種類の麹菌株の中から、乳タンパク質が分解されやすく、熟成が速いなどの特徴を有する麹菌を12株選び出しました。それらを用いて、麹チーズを試作し、その中から風味がよく、脂肪分解活性が低いなどの特徴をもつ麹菌「KC43」株(KCはKoji Cheeseの頭文字の略)を選びました。 さらに、麹菌は直径10μm以下の微細な粒子なので、飛散を抑え、扱いやすいようにカプセル化(写真4)して提供することにも成功しました。 |
酒粕の利用でご当地麹チーズが誕生
多様な麹チーズを開発する中で「酒粕」を配合するアイデアも生まれました。創業100年の歴史を誇る八海醸造株式会社(新潟県南魚沼市)の協力を得て、麹チーズの風味と組織に適した酒粕を選び、酒粕の風味が感じられる独自の麹チーズが誕生しました(図1)。日本国内には酒蔵が1300軒以上あります。それぞれの地域の酒蔵の酒粕を使用すれば、風味の異なるご当地麹チーズを生み出すことができます。佐藤教授は「日本で消費されるチーズの約9割は輸入品です。輸入チーズに負けない日本独自のチーズがようやく誕生しました。うまみ成分の多いソフト系チーズは世界初です。和食にも合うため、料理への応用は無限大です。新しいチーズの普及で日本の酪農生産基盤が強化されることを期待しています」と語り、ご当地麹チーズの普及に取り組んでいます。 |
事業名
革新的技術開発・緊急展開事業(うち経営体強化プロジェクト)
事業期間
平成30年度~令和2年度
課題名
国産発酵微生物を活用した日本独自のナチュラルチーズ製造技術の開発
研究実施機関
日本獣医生命科学大学、蔵王酪農センター、株式会社樋口松之助商店、八海醸造株式会社、農研機構畜産研究部門・食品研究部門、共立女子大学大学院、山梨大学等
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こぼれ話の①~⑱は日本語と英語で読めます。その18話を冊子『日本の「農と食」 最前線-英語で読む「研究成果こぼれ話」』にまとめましたのでご覧ください。