生物系特定産業技術研究支援センター

《こぼれ話32》発電細菌を利用した排水処理監視システムが実用化

2022年1月31日号

持続可能な養豚経営を実現するには、養豚地帯の水環境の保全が重要であり、養豚場の排水を効率的に浄化処理する技術が求められています。その解決策の一つとして、発電細菌を活用した画期的な排水処理監視システムが農研機構畜産研究部門や山形東亜DKK株式会社などによって開発されました。排水の汚れ具合を短時間で測定しながら浄化処理装置を制御でき、しかもその情報をスマートフォンで閲覧できます。年々厳しくなる窒素の排水基準にも対応可能です。今後、全国の養豚場への普及が期待されています。

BOD測定は5日間から6時間へ短縮

畜舎の排水を河川などに放流できるように浄化処理する方法として、活性汚泥法が普及しています。これは、排水に空気を送り込むばっ気操作で、微生物の働きを活発にし、窒素などの汚濁物質を除去・分解する方法です。この処理法で課題となっているのが、排水の汚れ具合の指標となるBOD(生物化学的酸素要求量)の測定に従来の方法では5日間程度かかるため、日々変動する排水の汚れ具合に合わせて、効率良くばっ気する方法がないことです。

農研機構畜産研究部門や山形東亜DKK株式会社は、BODの測定時間を6時間程度と大幅に縮め、効率的な排水処理を実現する「BOD監視システム」を開発しました。

発電細菌の発電量とBODは相関

このシステムで大きな役割を果たすのが発電細菌です。発電細菌とは有機物を分解する際に電流を発生させる細菌群の総称で、畜舎の排水のほか、土の中や動物の腸内など自然界に広く生息しています。

農研機構畜産研究部門の横山浩上級研究員は、発電細菌が発生する発電量とBODが相関することを解明し、発電量からBOD値をモニタリングする装置を考案しました。その装置を養豚場の排水処理現場で実際に使えるシステム(写真1)として製品化したのが山形東亜DKK株式会社です。排水をこのシステムに流し入れて、その中の発電細菌の発電量からBOD値を測定する仕組みです。これにより6時間程度でBOD値が分かるようになりました。しかも、BOD値に応じて、ばっ気操作のオン・オフ制御を自動的に行ってくれます。

写真1 : 発電細菌を利用したBOD監視システム
(山形東亜DKK株式会社提供)

1日1回、スマートフォンへ通報

このシステムはインターネットと接続しており、変動するばっ気槽内のBOD値を1日1回サーバーに保存し、スマートフォンで確認することができます。このため、いちいち現場に出向く必要が減り、たとえ管理を外部事業者に委託した場合でも、巡回管理費の節減になります。

実証試験で電気代約3割削減

排水処理にかかる使用電力を節約できることも大きなメリットです。ばっ気にかかる費用は排水処理のランニングコストの半分を占めますが、BOD監視システムは無駄なばっ気時間を減らしてくれます。山形県農業総合研究センターなど4カ所の養豚排水処理施設で試験したところ、ばっ気時間は従来に比べて約3割減り、電気代は母豚100頭当たり月に約13,000円削減できました。トータルの維持管理費用でも約3割のコスト削減が実証されました。

今後予想される厳しい排水基準もクリア

年々厳しさを増す排水規制に対応できることも魅力です。2019年7月、畜産業の排水について、湖沼の富栄養化につながる窒素(硝酸性窒素等)の暫定排水基準値が従来の600mg/Lから500mg/Lに下げられました。この値はいずれ一般排水基準値の100mg/Lまで下げられるものと予想されています。BOD監視システムは適正な管理条件が整えば、100mg/L以下の達成も可能とされています。

山形東亜DKKが「TOHOKU DX大賞」優秀賞

BOD監視システムを開発した山形東亜DKK株式会社は、2021年11月、経済産業省東北経済産業局が主催する「TOHOKU DX大賞」で優秀賞(製品・サービス部門)を受賞しました。「IoTの活用によって、遠隔監視・制御を可能とする畜産排水処理監視システムを開発した」のが受賞理由です。モノ同士が双方向でデータをやりとりするIoT(Internet of Things) を活用することにより、コロナ禍にあってテレワーク対応を可能とする技術という点も評価されました。

このシステムは2021年7月から発売され、既存の浄化処理施設にも設置できます(写真2)。価格はIoTなどの機能が付いて260万円程度(設置工事費は別)です。小規模の飼育で維持管理コストが月に数万円程度削減できたという報告もあり、装置の償却期間を10年とみても、十分に導入可能な価格と考えられます。すでに幾つかの養豚場から受注があり、今後のさらなる普及が期待されています。

写真2 : 鳥取県中小畜産試験場におけるBOD監視システムの設置調整作業
(山形東亜DKK株式会社提供)

事業名

革新的技術開発・緊急展開事業(うち経営体強化プロジェクト)

事業期間

平成29年度~令和元年度

課題名

BODバイオセンサーを利用した豚舎排水の窒素除去システムの開発

研究実施機関

農研機構畜産研究部門、山形東亜DKK株式会社、丸山株式会社、株式会社リセルバー、山形県農業総合研究センター、千葉県畜産総合研究センター、熊本県農業研究センター、宮崎県畜産試験場、沖縄県畜産研究センター


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