生物系特定産業技術研究支援センター

《こぼれ話36》天敵を活用して果樹を害虫から守る<w天>防除体系

2022年5月31日号
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リンゴやミカンなど果樹の大敵であるハダニ類の防除方法としては、主に殺ダニ剤(化学農薬)が使われています。しかし、薬剤抵抗性を発達させやすいハダニ類の特徴から、新しい薬剤の開発を前提とした殺ダニ剤主体の防除方法は限界に近づいています。こうした中、果樹園にもともと生息している土着の天敵を増やし、不足する場合はさらに製剤化された天敵(生物農薬)を放つ<w天(ダブてん)>と言われる天敵活用防除体系が注目されています。この防除体系は、重労働である殺ダニ剤の散布回数を抑え、土着天敵など農業に有用な昆虫類の多様性維持や環境保全の面でも優れています。

気候変動アクション環境大臣表彰

天敵を活用して果樹の害虫(ハダニ類)を防除する方法を開発した研究グループ「<w天敵>コンソーシアム」が環境省主催の「令和3年度気候変動アクション環境大臣表彰」で気候変動アクション大賞(開発・製品化部門)を受賞しました。

天敵の活用がなぜ気候変動対策になるのでしょうか。今後、地球の温暖化が進むと、ハダニ類(写真1)の増殖が活発になり、発生期間も長くなるため、果樹の被害拡大が懸念されます。この技術は、土着天敵などの生物多様性を守りながら、害虫による被害拡大を抑える点が高く評価されました。


写真1 : ミカンハダニ(農研機構提供)

<w天>とは何か

<w天>は、ダブル天敵の略称で、2種類の天敵を利用することから名付けられました。2種類の天敵とは、もともと果樹園に生息している土着の天敵とその土着天敵の効力を補うために果樹園に放たれる製剤化された天敵(生物農薬)のことです。 主役となるのはカブリダニという捕食性のダニです。土着のカブリダニ類の中には、ハダニ類だけでなく、花粉や蜜もエサにする広食性のカブリダニ類がいます。これをジェネラリストカブリダニ(写真2)と言います。

<w天>防除体系では、これら天敵の生息環境を守るため、土着天敵の住み家やエサとなる果樹園の下草をできるだけ残すようにします(写真3)。同時に土着天敵を殺さないよう、病害虫防除においては、天敵に影響が少ない薬剤を選んで使用します。また、ハダニ類の増加とカブリダニ類の増加には時間的なズレが生じるため、ハダニ類の増殖率が高い場所や時期では殺ダニ剤の併用も検討します。


写真2: フツウカブリダニ、 ニセラーゴカブリダニ

ミチノクカブリダニ、コウズケカブリダニ

(農研機構提供)


写真3: 土着天敵の住み家となるリンゴ園のクローバ

(秋田県果樹試験場提供)

天敵製剤+バンカーシート

<w天>防除体系で用いる天敵製剤は、農研機構や石原産業株式会社が中心となって開発しました。この天敵製剤はカブリダニの入ったパック製剤を天敵保護資材(バンカーシート)に入れて使用します(写真4)。パック製剤を産卵場所となる黒フェルトで包み、バンカーシートに挿入し、そこへゼリー状の保水資材を数個入れるだけなので、30分で約100個組み立てられます。果樹園では枝などにぶら下げて設置します(写真5)。バンカーシートが雨や薬剤散布からパック製剤を保護し、増殖に適した環境を保持するため、約1~2カ月間、放出されたカブリダニがハダニ類を捕食します。


写真4 : 天敵製剤(システムミヤコくん)と天敵保護資材(バンカーシート)

(石原バイオサイエンス株式会社提供)


写真5 : ブドウ畑のバンカーシート

(島根県農業技術センター提供)

秋田、千葉、佐賀など各地で成果を実証

<w天>防除体系は、秋田県のリンゴ園、山形県のオウトウ園、千葉県のナシ園、島根県の施設ブドウ園、佐賀県のハウスミカン園など各地の実証試験で成果を上げています。

千葉県農林総合研究センターが行った試験では、土着天敵のカブリダニ類の定着が見られるナシ園で6~7月、ミヤコカブリダニの天敵製剤ミヤコバンカーを1樹当たり4パック設置したところ、殺ダニ剤を使用した場合と同程度にハダニ類の密度を抑えることができました。千葉県はこうした成果を基に「ニホンナシにおける天敵カブリダニ類を主体としたハダニ類のIPM防除マニュアル」を2020年に作成しました。

<w天>防除体系は、佐賀県のハウスミカン栽培でも威力を発揮しています。佐賀県上場営農センターの試験によると、スワルスキーカブリダニの天敵製剤スワルバンカーを1樹当たり1~2パック設置することでハダニ類の密度を抑えることができ、同時に重労働の殺ダニ剤散布を減らせることが分かりました。ハウスミカン栽培が盛んな同県のJAからつ管内では生産者の2割程度が<w天>防除体系を利用するまでになっています。

「<w天敵>コンソーシアム」は、今回開発した天敵活用防除体系を「新・果樹のハダニ防除マニュアル<w天>防除体系」(第三版)として2021年3月にまとめました。マニュアルが整備されたことで果樹産地への<w天>防除体系の普及が期待されています。

事業名

イノベーション創出強化研究推進事業(開発研究ステージ)

事業期間

平成28年度~平成30年度

課題名

土着天敵と天敵製剤<w天敵>を用いた果樹の持続的ハダニ防除体系の確立

研究実施機関

農研機構果樹茶業研究部門、秋田県果樹試験場、山形県農業総合研究センター園芸試験場、千葉県農林総合研究センター、島根県農業技術センター、佐賀県上場営農センター、石原産業株式会社、石原バイオサイエンス株式会社、大協技研工業株式会社、宇都宮大学農学部等


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