生物系特定産業技術研究支援センター
《こぼれ話37》食後の血糖値上昇抑制効果が期待される米「まんぷくすらり」
2022年6月30日号
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欧米型食生活の浸透等により20歳以上の5人に1人が糖尿病かその予備群と言われる中、秋田県立大学などによって血糖値上昇抑制効果の期待される米の品種が開発され、この米を使ったユニークな新製品も次々と生まれています。これらの米やその製品の利用が拡がることで、生活習慣病の予防、米の消費拡大、米産地の活性化という一石三鳥の効果が期待されます。
特長のある米が誕生
株式会社スターチテックは、秋田県立大学発のベンチャー企業で、秋田県立大学などが開発した特長のある米の新品種を販売しています。それは「あきたぱらり」、「あきたさらり」、「まんぷくすらり」の3品種で、普通の米に比べ難消化性澱粉を多く含むことが特徴です。
高アミロース米の「あきたぱらり」は、パラパラ食感で、油との相性がよい上に、インディカ米のように粉っぽくはないため、ピラフ、チャーハン、カレーなどに向いています。「あきたさらり」もジャポニカ米由来の高アミロース米で、米粉を麺、菓子、パンなどに混ぜると従来の米粉を用いた場合のベタベタ感が解消されます。「まんぷくすらり」(写真1,2)は、3品種の中で難消化性澱粉が最も多く、食後に満腹感が強く感じられます。
写真1 : 難消化性澱粉を多く含む「まんぷくすらり」(秋田県立大学提供)
写真2 : パエリアなどは「まんぷくすらり」100%でもおいしく食べられる
(秋田県立大学提供)
ヒトの試験で血糖値上昇抑制作用を確認
「まんぷくすらり」は難消化性澱粉の含有量が普通の米の10倍近く高い(加工形態により異なります。)ため、3品種のうち機能性の点で最も有望視されています。
秋田県立大学などは「まんぷくすらり」とほぼ同じ澱粉構造をもつ米を用いて試験を行いました。被験者(20人)を、この米を使った米菓・米飯を食べるグループと普通の米を使った米菓・米飯を食べるグループに分けて試験したところ、「まんぷくすらり」とほぼ同じ澱粉構造をもつ米を食べた人は食後の血糖値とインスリン分泌量が有意に抑えられることが分かりました。この成果は科学誌「Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry」(Vol.84, pp.365-371)で発表されました。
難消化性澱粉は消化酵素で消化されにくく、比較的高分子のまま小腸を通過して大腸に到達し、食物繊維に似た働きをします。このため、お通じをよくしたり、腸内細菌のエサになって有用菌の増殖を促したりする機能があると言われています。
また、難消化性澱粉は、通常の澱粉より小腸で吸収されるブドウ糖が少なく、カロリー摂取の低減も期待できます。カロリー計算の際、通常の澱粉が4kcal/gなのに対し、食物繊維や難消化性澱粉は2kcal/gで計算されます。
10年以上の歳月をかけて育成
「まんぷくすらり」は、秋田県立大学、秋田県農業試験場、国立研究開発法人国際農林水産業研究センターの研究グループが、難消化性澱粉の多い稲の系統と多収性の稲を交配させて選抜することで生まれました。
研究開発を主導してきた秋田県立大学生物資源科学部の藤田直子教授(写真3)は、2010年ごろから品種改良を重ね、ようやく「まんぷくすらり」の育成に成功したと研究を振り返っています。
「まんぷくすらり」は2019年12月に種苗法に基づく品種登録を出願し、現在、農林水産省で審査が行われています。栽培方法は従来の米とほとんど変わらないので、生産者は通常の稲作と並行して「まんぷくすらり」を栽培できます。
現在、藤田教授は、健康の維持や増進に役立つといった食品の機能性を表示できる機能性表示食品として届出できる商品開発を目指して、加工後も機能性に関する成分量を確保するために、「まんぷくすらり」よりも難消化性澱粉を多く含む品種の開発に取り組んでいます。
写真3 : 新品種を交配する藤田教授(秋田県立大学提供)
将来的には輸出を視野、機能性表示食品も目指す
「まんぷくすらり」は、既に秋田県を中心に生産者による栽培が始まっており、2021年度は12トンの米が収穫されました。また、前述の株式会社スターチテックでは、「まんぷくすらり」を使ったきりたんぽや味噌、「あきたさらり」を使ったうどん(写真4)などを開発し、通販サイトや秋田県内の道の駅などで販売しており、今後は米菓、ダイエットおこわなどの開発・販売も計画しています。
さらに最近では、麦に含まれるタンパク質の一種のグルテンを含まない「グルテンフリー」の食品として欧米でも米粉が注目されていることから、将来は「まんぷくすらり」を使った米粉の輸出にも期待が寄せられています。
研究を主導してきた藤田教授は「小麦粉の価格は、輸送費の高騰、国際情勢等を踏まえ、ますます高騰すると予想されます。その中で米粉の重要性がさらに増してくると思われます。ましてや従来の米粉と違い、機能性に富む米粉への期待度は大きいと思われます。健康に資する新しい米を開発し、世に出していきたい。」と将来を見据えた展望を熱く語っています。
写真4 : きりたんぽやうどんなど、新しい米を使った製品が続々登場
(秋田県立大学提供)
事業名
イノベーション創出強化研究推進事業(開発研究ステージ)
事業期間
平成28年度~平成30年度
課題名
難消化性澱粉を多量に含む変異体米を用いた低カロリー機能性食品の実用化
研究実施機関
秋田県立大学、秋田県農業試験場、秋田大学、亀田製菓株式会社
PDF版 [835KB]Click here for English version(英語版はこちら)
こぼれ話の1~18は日本語と英語で読めます。その18話を冊子『日本の「農と食」 最前線-英語で読む「研究成果こぼれ話」』にまとめましたのでご覧ください。