生物系特定産業技術研究支援センター

《こぼれ話38》麺が翡翠のように緑がかった「信州ひすいそば」

2022年7月28日号
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長野県のそば店では、「信州ひすいそば」という、麺の色が翡翠(ひすい)のように緑がかったそばを見かけることがあります。この「信州ひすいそば」は、長野県が開発した品種から作られますが、生産量が少ないため、増産が求められています。そこで、長野県は、品種の改良を進め、機械収穫も可能な、生産者が安心して栽培できる品種を開発しました。

翡翠のイメージから命名

長野県は北海道に次ぐそばの産地であり、最近は「ひすいそば」の看板を掲げた店が目立つようになりました。

「ひすい」は、半透明の緑色に輝く宝石、「翡翠」のことです。麺が翡翠のような色をしていることから、画家でエッセイストの玉村豊男氏が「信州ひすいそば」の名称を提案し、2013年に長野県の登録商標として認められました。

「信州ひすいそば」(写真1)は、「信州ひすいそば振興協議会」に加盟している店だけで提供されており、その加盟店は令和4年2月の時点で約50店とまだ少なく、希少価値の高いそばと言えます。

写真1 : 麺が鮮やかな緑色の信州ひすいそば
(長野県農政部提供)

長野S11号はより鮮やかな緑色に改良

「信州ひすいそば」には、第1世代と第2世代があります。第1世代の品種名は「長野S8号」と言い、長野県野菜花き試験場が10年の歳月をかけて育成し、2013年から長野県内で栽培されてきました。この「長野S8号」が「信州ひすいそば」として長く親しまれてきましたが、栽培面では草丈がやや高いために倒れやすく、機械収穫が難しいことや、年によって子実の緑色がくすんだりすることなどの課題がありました。そこで、機械収穫に適し、より鮮やかな色調の子実を目指して、背丈が伸びにくい性質をもつ品種と交配するなど、さらなる品種改良に取り組んだ結果、第2世代の新品種「長野S11号」(旧名称は桔梗11号、写真2)が育成され、2021年12月に品種登録されました。

写真2 : 子実の色がより鮮やかな緑色になった長野S11号
(長野県農政部提供)

食味評価で香りも上々

「長野S11号」は「長野S8号」に比べて、背丈が低く、倒伏しにくいため、機械で収穫しやすくなりました。その上、そば殻を除いた子実の色はより鮮やかな緑色になりました(写真3)。緑色が濃くなるのは葉緑素(クロロフィル)の含有量が増えるからです。ゆでた麺の色の比較でも、「長野S11号」は他のそばよりも、より鮮やかな緑色になりました(写真4)。

また、「長野S11号」のそばは、味にかかわるショ糖やアミノ酸が多いだけでなく、香りがより強いことが分かりました。食味評価では「長野S8号」と同等かやや上とされました。

写真3 : 「長野S11号」(左)と「長野S8号」(右)
(長野県野菜花き試験場提供)
写真4 : 左から順に「信濃1号」、「長野S11号」、「長野S8号」。
中央の「長野S11号」が鮮やかな緑色だと分かる
(長野県野菜花き試験場提供)

全生産者が長野S11号を栽培

「長野S11号」は、品質や栽培特性で優れていることが分かったため、ここ1、2年で長野県内の「信州ひすいそば」の栽培面積に占める「長野S8号」と「長野S11号」の比率は大きく変わり、2020年は「長野S8号」が74%、「長野S11号」が26%の比率でしたが、2021年は、「長野S11号」が100%を占めるに至りました。現在、「信州ひすいそば」を栽培する生産者は個人1、法人6、生産組合12の計19経営体で全生産者が「長野S11号」を栽培していますが、2021年の栽培面積は約85ha、収穫量は約34tで、長野県全体のそば生産量の1%程度しかありません。

長野県は産地形成に努めていますが、栽培面積がなかなか増えない理由の一つには、近くで既存のそばが栽培されていると、それらと交雑してしまい、鮮やかな緑色という「長野S11号」の特性が失われてしまう恐れがあるため、栽培適地を確保するのが難しいという事情もあるようです。

一方、もともとそばには多くのルチンが含まれていますが、松島憲一信州大学学術研究院教授らは、従来のそばよりルチンが約5倍も多く含まれる新品種の育成に成功しました(名称はHRD)と言います。ルチンは血管を強くするなどの機能性成分として知られるポリフェノールの一種です。HRDを基に実用的な高ルチン品種の開発を目指す松島教授は「長野S11号や高ルチン品種の拡大を遊休農地の有効利用や観光の発展などにつなげていきたい。」と将来に大きな期待を寄せています。

事業名

イノベーション創出強化研究推進事業(開発研究ステージ)

事業期間

平成26年度~30年度

課題名

機能性を有し機械収穫に適する高品質新品種の育成と「信州ひすいそば」ブランドの強化

研究実施機関

信州大学大学院農学研究科、長野県野菜花き試験場、農研機構北海道農業研究センター、筑波大学、長野県工業技術総合センター、日穀製粉株式会社、信州ひすいそば振興協議会


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