生物系特定産業技術研究支援センター

《こぼれ話43》輸入花粉に依存しない国産花粉の供給強化に向けて

2023年1月31日号
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修正 2023年9月11日※

ナシやキウイなど自らの花粉では実がつかない果樹では人工受粉が欠かせませんが、受粉に必要な量の花粉を得るためには、たくさんのつぼみを採取しなければなりません。この作業には多くの人手を要しますが、人手不足や生産者の高齢化により、自前で実施することが難しくなっており、ナシやキウイでは輸入花粉を使用する例も増えています。しかし、輸入花粉には価格の変動や病害虫汚染、不安定な発芽率などのリスクがあります。そこで、鳥取大学を中心とする研究グループは、ナシ、スモモ、キウイの3樹種で国産花粉の供給量を増やすための技術開発を行い、樹形の工夫や花蕾採取機の開発など大きな成果を得ました。さらに人工受粉に使用する花粉量を減らせる技術など、農家のコスト削減につながる成果も得ました。

低樹高のジョイント仕立て

ナシは、一般に棚仕立てで栽培されるため、花粉を得るためのつぼみ(花蕾)を採取する際は、上向きの作業を強いられ重労働です。そこで、埼玉県農業技術研究センターなどは、主幹を1m程度の高さで水平に誘引して主枝とし、隣の樹に次々とつないでいく「低樹高ジョイント仕立て」(図1)といわれる樹形において花蕾採取時間を調べたところ、通常の棚仕立ての場合に比べて作業時間は約4~6割短縮され、腕上げ作業も減り、労働負荷も軽くなりました。すでに埼玉県では花粉の採取ほ場で「低樹高ジョイント仕立て」を採用する農家が出てきています。


図1 : 低樹高ジョイント仕立てのイメージ図
(埼玉県農業技術研究センター提供)

花蕾採取機で大幅に省力化

農研機構では、花蕾の採取時間を大幅に短縮できる「手持ち式花蕾採取機」(写真1)を開発しました。この採取機は伸縮可能な棒の先端につけたゴム状のブラシを回転させて、花蕾をはたき落とすものです。群馬県農業技術センターや佐賀県果樹試験場などの試験では、花蕾採取の時間はスモモで約7割、ナシで約8割短縮されました。株式会社サンオーコミュニケーションズ(茨城県古河市)は2022年2月、この研究成果を生かした製品「花蕾採取アシスタント」を発売しました。

これらの研究成果を受けて、埼玉県などでは、花蕾採取機を利用し、花粉採取専用ほ場で花粉を生産して販売する計画も出てきています。


写真1 : 花蕾採取機(農研機構提供)

より少ない花粉で受粉させる受粉機

人工受粉に用いる花粉を自前で用意するためには労力を要し、購入するには経費を要します。このため、少ない花粉でも確実に結実する方法が求められています。静岡県農林技術研究所と株式会社ミツワ(新潟県燕市)は、先端に電極を取り付け、花粉に静電気を帯びさせ雌しべへの付着率を上げることで、花粉の使用量を減らしても十分に受粉させることができる「静電風圧式受粉機」(写真2)を共同開発しました。この受粉機を静岡県や埼玉県、福岡県などで試験した結果、ナシで約80%、スモモで約50%、キウイで約60%、花粉の使用量を減らすことができました。現在、同受粉機の実用化を目指しています。


写真2 : 静電風圧式受粉機の作業の様子
(静岡県農林技術研究所提供)

低温下でも花粉発芽の良い品種を選抜

近年、ナシは地球温暖化の影響で開花時期が早くなる傾向にあります。低温下では花粉が発芽しにくいため、気温が十分に上がっていない時期に開花すると、せっかく受粉しても、結実しなかったり、結実しても、種の入りが悪く肥大が不良となることがあります。

鳥取大学農学部の竹村圭弘准教授らは、ナシ130品種、スモモ19品種を対象に、寒天培地上での花粉発芽率に及ぼす温度の影響を検討し、多くのナシ品種の花粉は10℃以下になると発芽率は1割以下に落ちますが、「奈良吉野古木」、「土佐梨」、「今村夏」の花粉は同温度条件でも3割以上の発芽率を示すことを明らかにしました。同様にスモモでも、低温下で高い花粉発芽率を示す3品種を選抜しました。

竹村氏は「低温発芽性にすぐれたナシ品種の花粉は発芽率が安定しない輸入花粉よりも、気候変動に左右されることが少なく、商品価値が高い。このような品質の良い花粉が普及すれば、国内で花粉を供給するビジネスが育つことも夢ではありません。」と話しています。

事業名

イノベーション創出強化研究推進事業

事業期間

令和元年度~令和3年度

課題名

輸入花粉に依存しない国産花粉の安定供給システムの開発

研究実施機関

鳥取大学(代表機関)、埼玉県農業技術研究センター、佐賀県果樹試験場、群馬県農業技術センター、静岡県農林技術研究所、静岡県農林技術研究所果樹研究センター、福岡県農林業総合試験場、東京都農林総合研究センター、新潟県農業総合研究所園芸研究センター、農研機構農業機械研究部門、福島県農業総合センター、永嶺農園、株式会社サンオーコミュニケーションズ、株式会社ミツワ、一般社団法人食品需給研究センター

本研究課題は、農林水産省が運営する異分野融合・産学連携の仕組み『「知」の集積と活用の場』において組織された「果樹生産システム研究開発プラットフォーム」からイノベーション創出強化研究推進事業に応募された課題です。 『「知」の集積と活用の場』のURLは、https://www.knowledge.maff.go.jp

※輸入花粉に関する誤記を修正


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