生物系特定産業技術研究支援センター
《こぼれ話76》 緑肥の肥料効果の面的把握とすき込み方法の改善
2026年10月27日号
緑肥とは、後から栽培する主作物のために、圃場(ほじょう)に肥料成分を補充する目的で栽培される植物を指します。収穫せず、圃場にすき込むことで土壌を改良し、減肥や病害虫の発生抑制に役立つなど様々な利点があります(注*1、図1)。家畜糞尿、稲わら、落ち葉などに由来する堆肥(たいひ=土づくり資材)の圃場への投入は、運搬や散布に多くの労力が必要なため減少しています。一方で、原料の多くを輸入に依存する化学肥料は価格高騰が続いています。このような状況の中、伝統的な地力維持技術である緑肥をより有効に現代的に活用する方法が研究されています。

図1:緑肥を利用した土づくりと作物生産の流れ
=生成AIを利用して作成
農研機構を代表機関とする研究グループは、2020年に「緑肥利用マニュアル」(注*2)を公表、日本各地で様々な条件に合わせて緑肥を導入する道筋を示しました。
緑肥は生育の過程で、むら(ばらつき)が生じると、その肥料効果(肥効)にもむらが出る可能性があります。研究グループは本研究において、緑肥の肥効を面的に把握してスマート施肥マップを作成し、圃場内の緑肥生育のばらつきに応じて、主作物への追加施肥量を最適化した可変施肥を行うことで、効率的に減肥できることを実証しました。また、緑肥は栽培した植物をその場ですき込むことから、堆肥のような重量物を圃場まで運ぶ必要がなく輸送コストがかかりません。そのかわり、緑肥となる植物の播種やすき込みの作業が必要です。そこで、本研究では緑肥の播種、細断・すき込みの作業を省力化・高効率化する技術も開発しました。これらの成果は、環境負荷の低減と農業経営の安定化を通じて、持続的な農業生産に貢献することが期待されます。
ドローンで空撮し、緑肥の肥効を面的に把握
主作物の生育にむらを生じさせることなく、緑肥を効率的に化学肥料の代替とするために、緑肥に含まれている有効な養分量をドローンで圃場を空撮してセンシング(注*3)することにより面的に把握(図2)、それに基づいて主作物のための施肥マップを作成します。

図2: 緑肥の生育状況や肥効率のデータをドローンの空撮によるセンシングで面的に調べている様子
=以降の図、写真はいずれも農研機構提供
そのために、まず、緑肥を植えた圃場を、様々な波長の光を検出できるマルチスペクトルカメラを搭載したドローンで撮影して得た植生指数(NDVI、GNDVI=注*4)と、緑肥を採取して分析した養分吸収量の結果との関係を解析して、緑肥の窒素吸収量を面的に推定します(図3)。

図3: 緑肥の窒素吸収量マップの例。赤の濃いところは窒素吸収量が多く、黄色の部分は窒素吸収量が少ない。赤の濃いところほど緑肥からの養分供給が多いので、赤の濃いところでは減肥する量を増やします
緑肥などの有機物に含まれる養分は、化学肥料と比べて、効きやすさ(肥効率)が一定ではありません。緑肥の肥効率は、緑肥作物の種類のほか、緑肥の栽培期間(生育ステージ)や栽培する土壌の条件によっても異なります。本研究では、それぞれの緑肥のすき込み時の肥効率を推定し、それを緑肥の養分吸収量にかけ合わせることで、それぞれの場所で供給される養分量を把握し、それを慣行施肥量から差し引くことで主作物の施肥マップを作成しています。この施肥マップに従って可変施肥を行うことで、主作物の収量を落とすことなくトータルの施肥量を減らすことができること、主作物の生育むらが小さくなることを実証しました。また、様々な種類、生育ステージの緑肥の窒素肥効や土づくり効果をまとめたデータベースも作成しました。
細断・すき込み作業の効率化を図り、高速・低燃費な作業機を開発
研究グループは、緑肥導入のための作業の軽労化、省エネ化に向けて、播種、細断・すき込み(写真1)の新しい作業体系も構築しました。

写真1:左から、播種、細断、すき込み作業の様子
例えば、マメ科のヘアリーベッチは播種前の耕起を省略可能で、気象や土壌の条件によっては播種後の覆土も不要になるなど、緑肥の種類によって播種工程の一部を省略できるものがあることを確認しました。
すき込みの前作業の細断用「リボーンローラー」(写真2)は、より小さなトラクターでも使用できるように小型のプロトタイプを作製しました。また、すき込み作業を高速・低燃費で進められる表層混和機「ランドハロー」(写真2)を開発し、スガノ農機(株)より2024年から販売開始しています。細断については、リボーンローラーによる粗細断(細断後の長さ約20 cm)でも、従来の草刈り機「フレールモア」と同等の分解性・肥効・主作物の収量を確保できることを明らかにしました。すき込みについても、ランドハローやプラウ(すき)でもロータリー耕(注*5)と同等の効果が得られることを示しました。さらに、これらの導入により作業の高速化(細断で従来の5倍、すき込みで3~5倍)が可能となり、燃料も削減できることを実証しました。
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| 写真2:リボーンローラー(左)とランドハロー(右) | |
緑肥の普及で農業経営の安定に貢献
長野県などでは、春先の強風により土壌が飛散する風食が問題となっています。風食は、優良な作土の亡失、農作物への砂の混入を招き、さらには近隣住民の生活面にも影響することがあります。むき出しの土壌に緑肥を播種すれば、農地を被覆して風食や雑草を抑える効果があります。また、エンバク、ライムギ、マリーゴールド、クロタラリア、ソルガムなどには、センチュウ類をはじめとする病害虫の密度を抑制するものがあり、農薬使用量の低減に役立つ場合があります。
研究代表者の農研機構中日本農業研究センターの唐澤敏彦さんは「本研究では、緑肥のセンシングに基づく可変施肥により、化学肥料の削減と主作物の生育の斉一化を両立できることを実証しました。また、新たに開発した緑肥の細断・すき込み方法により、緑肥の効果を維持しながら、作業を高速・低燃費化できることを明らかにしました。本成果が、緑肥を活用した減肥・土づくりの普及と、環境負荷の低減、食料の安定供給につながることを期待しています」と話しています。緑肥は化学肥料や農薬の使用を減らすのに役立つ、環境にやさしい技術です。原料の面で輸入への依存が大きい化学肥料や農薬の使用を抑え、農業経営の安定化と農業生産の持続性の向上に貢献するものと期待できます。
注
*1 緑肥の役割 緑肥をすき込んだ後の田畑には主作物を植えて育てます。代表的な例としては、イネ科のソルガムやライムギの後にキャベツや白菜、レタスを育てたり、マメ科のヘアリーベッチの後に水稲やキャベツ、マメ科のクロタラリアの後にブロッコリーやサツマイモを育てたりします。イネ科の緑肥はカリウムや有機物の供給に役立ち、マメ科の緑肥は窒素供給の効果が大きいとされています。
*2 「緑肥利用マニュアル」 「緑肥利用マニュアル-土づくりと減肥を目指して-」は農研機構を代表機関とする農林水産省委託プロジェクト研究「生産コストの削減に向けた有機質資材の活用技術の開発」の有機質資材コンソーシアムが作成しました。
(https://www.naro.go.jp/PUBLICITY_REPORT/publication/files/ryokuhi_manual_carc20221007.pdf)
*3 センシング 温度や光、水など作物の生育において重要な要素をセンサー(検知器)を使って測定、数値化することです。緑肥をドローンでセンシングする場合、葉の色、草丈、被覆率などのデータを集めて生育状態や養分吸収量などを把握します。
*4 NDVI、GNDVI NDVI(正規化植生指数)は、赤色光と近赤外光を利用して植物の「生育の旺盛さ(活力)」や「圃場の地面がどれだけ緑で覆われているか(植被率)」を数値化した指標です。GNDVI(緑色正規化植生指数)は、赤色光の代わりに緑色光を用いて植物の生育や葉の窒素状態、クロロフィル量を評価する指標です。
*5 プラウ(すき)、ロータリー耕 プラウは土を裏返し深く耕し、ロータリー耕は回転爪で土を砕きながら混ぜる働きをします。
事業名
戦略的スマート農業技術開発・改良
事業期間
2023年度~2025年度
課題名
緑肥の肥料効果の面的把握とすき込み方法の改善に基づく減化学肥料栽培技術の開発
研究実施機関
農研機構(代表機関)、長崎県農林技術開発センター、新潟県農業総合研究所畜産研究センター、信州大学農学部、長野県野菜花き試験場、千葉県農林総合研究センター、秋田県立大学、スガノ農機株式会社


