生物系特定産業技術研究支援センター

《こぼれ話22》スマホで水田の水管理がらくらくに

2021年2月15日号

SDGs目標3.すべての人に健康と福祉を SDGs目標6.安全な水とトイレを世界中に SDGs目標8.働きがいも経済成長も SDGs目標9.産業と技術革新の基盤をつくろう

水田の水管理が重要なことはよく知られています。では、水管理は全作業時間の何割くらいを占めるのでしょうか。実は全労働時間の3割も占めています。この問題を解決する方法として、スマートフォン (スマホ) など携帯情報端末による遠隔操作や自動制御により、水管理時間を従来よりも8割も減らすシステムが農研機構農村工学研究部門を中心に開発されました。このシステムは農研機構のライセンスを得た株式会社クボタケミックス (本社大阪市浪速区) が「WATARAS (ワタラス)」の商品名で製品化し、株式会社クボタが販売しています。普及すれば、水管理の省力化が進み、農地の経営規模拡大も期待できます。

スマホ操作で給水・排水が可能に

水田の水管理は、田植えのあとは、朝、田んぼに行き、畦に設置されたバルブを開いて水を出し、夕方にまた田んぼに行き、バルブを閉める毎日が続きます。田んぼが自宅から遠かったり、あちこちに分散している場合は、水の給排水に要する時間だけでなく、ほ場間を移動するだけでも時間をとられます。

そこで、助っ人として登場したのが、スマホ利用の水管理システムです。田んぼにある給水バルブと排水口にインターネット通信機能と水位などを測るセンサー機能付き制御装置 (写真1) を設置し、そのあと、スマホで給水や排水を遠隔操作したり、自動制御するものです。

スマホの画面を見るだけで水田の水位や水温も分かるため、たとえば、夜間に水温が上がる高温障害が起きそうだと分かれば、あらかじめ夜間や早朝にスマホ操作で給水することもできます。また、スマホで一定の湛水深を事前に設定しておけば、バルブが自動で開閉され、農家がいちいち田んぼに行く必要もなくなります。

写真1 : 水田に設置されたセンサー付き制御装置 (農研機構農村工学研究部門提供)

水管理作業は手動に比べ8割も減少

農研機構農村工学研究部門が2016年度と17年度の2年間、北海道、岩手、千葉、福井など8道県でスマホによる遠隔・自動制御方式と農家が自分の手でバルブを開閉する手動方式を比べたところ、10aあたりに必要な水管理時間が7~9割も減ることが分かりました。また、適正な水管理により、水稲収量が5%増収するという結果も確認されました。

スマホによる遠隔・自動制御システムの主なメリットは以下のとおりです。

  • 水管理に要する時間を約8割削減
  • 設定した時間に給排水可能
  • 適正な水管理により水稲の減収を抑制し、節水を実現
  • 水管理の履歴を確認可能
  • 太陽光発電を利用するため、電源が不要
  • 既存の給水バルブ、排水口に後付けで設置でき、大規模な工事が不要

初期導入費用は50万円

既存のバルブに設置が可能なため、大規模な土木工事は必要ありません。

システム導入に必要な主な機器は、基地局 (通信中継器)、ソーラーパネル付きの制御装置、水温などを測る各種センサーの3つです。

クボタケミックスのWATARASの初期導入費用は50万円程度です。主な内訳は給水の制御装置が15万円 (センサー付き)、40台まで共用が可能な基地局が約30万円、残りが設置費用などの諸経費です。サーバーの利用料金は年間3万円ほどです。

スマホの操作が苦手な人でも扱いやすいよう、画面に出てくる情報はイラストや絵情報が多く使われています。この遠隔・自動制御システムの普及は農産物の経費節減や若い世代の担い手確保にもつながりそうです。

図1 : 水管理の遠隔・自動制御システムのイメージ(農研機構農村工学研究部門提供)

事業名

SIP (戦略的イノベーション創造プログラム)「次世代農林水産創造技術」

事業期間

平成26年度~平成30年度

課題名

稲作水管理を遠隔・自動制御できるシステムの開発

研究実施機関

農研機構農村工学研究部門、同農業環境変動研究センター


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