生物系特定産業技術研究支援センター
《こぼれ話47》1年育成フェザー苗を用いたリンゴの高密植栽培
2023年6月7日号
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果樹は、苗木を植え付けてもすぐには実がつかないため、できるだけ早く結実させ、目標収量に到達する(成園化と呼びます)時期を早めることが重要です。リンゴでは、この成園化までの期間を短縮する技術として、鳥の羽根のような形から「フェザー苗」と呼ばれる苗木を高密植し、樹を小型に仕立てる、わい化栽培が導入されています。しかし、「フェザー苗」の育成には2年を要するため、苗木供給量の拡大を図る上で障害となっていました。そこで、長野県果樹試験場は、「フェザー苗」を1年で育成できる技術を開発するとともに、高密植栽培における1年育成フェザー苗の実用性を実証しました。
フェザー苗とは
一般的なリンゴのわい化栽培では、1本の棒状の苗木を植え付け、木を一度短く切る、切り戻しを行うことで果実をつけるための枝(側枝)を発生させます。フェザー苗とは、側枝となる枝を育苗段階で発生させたもので、これを利用すれば、定植時点で側枝となる枝がある程度確保できているため、結実を早められます。これまで、フェザー苗育成には2年かかりました。
具体的には、わい性台木に「ふじ」などの穂木を接ぎ木して1本の棒状の苗木を育成し、翌春の発芽前に地上50~60cmまで切り戻します。切り戻した枝(幹のもと)から新たに発生した新梢を1本だけ残し、伸長に合わせて、植物成長調整剤のベンジルアミノプリン液剤を散布すると、新梢の腋芽(葉の付け根にある芽)からも新梢が発生します。この新梢をフェザーと呼びます。次の年、つまり接ぎ木から数えて2年目に、十分なフェザーを持った2年育成フェザー苗(写真1、右)を高密度で植え付けることで早期成園化を実現できます。
写真1 : 1年育成(左)と2年育成(右)
のフェザー苗(長野県果樹試験場提供)
フェザー苗育成期間の短縮
これまでは、接ぎ木の翌年に発生した新梢にベンジルアミノプリン液剤を散布することでフェザー苗を育成していました。これに対し、接ぎ木した当年に発生した新梢にベンジルアミノプリン液剤を散布することでも、2年育成フェザー苗と同等のフェザーを発生させた苗を育成できることが明らかになりました。高密植栽培では、早期に結実する質の良い苗木を大量に必要とします。育成期間を従来の半分にできたことは、フェザー苗の大量安定供給に大きく貢献する成果です。すでに、長野県で供給されるフェザー苗の大半が1年育成フェザー苗になっています。フェザー苗等を用いたリンゴの高密植栽培はもともと海外で開発された技術ですが、長野県果樹試験場は、いち早くこの技術を取り入れ、10年ほど前から実用化を目指す試験に取り組んできました。
1年育成フェザー苗を用いた高密植栽培
長野県果樹試験場は、早生の県育成品種「シナノリップ」の1年育成フェザー苗と2年育成フェザー苗を高密植栽培し、収量や果実の品質を比較しました。
その結果、1年育成フェザー苗木樹は苗木育成から3年目で10a当たり186kgの収穫があり、4年目には2年育成フェザー苗木樹の苗木育成5年目と同等の1,344kgの収穫がありました(図1)。また、果実の色づきや糖度、酸度などの品質にも差はありませんでした。
図1 : リンゴの新品種「シナノリップ」で比較した1年育成フェザー苗木樹と
2年育成フェザー苗木樹の収量の推移(長野県果樹試験場提供)。
※定植は、1年育成フェザーは接ぎ木後2年目(赤色△)、2年育成フェザーは接ぎ木後3年目(青色△)に実施。
1年育成フェザーの接ぎ木後5年目のデータはまだない。
導入コストと苗木確保
リンゴの高密植栽培に必要な苗木は10aあたり285本程度になります。1年育成フェザー苗を苗木業者から買う場合の価格は2年育成フェザー苗と同程度ですが、育成期間の短縮で高密植栽培に必要な多数の苗木を確保しやすくなりました。
また、生産者が、種苗法を踏まえたうえで自ら苗木を育成する場合、育成期間が短縮されるため、苗木育成のための労力や病害虫防除等のコストを抑えることができ、大きなメリットが得られます。
長野県果樹試験場は将来に向けて、「品質のばらつきが少ない1年育成フェザー苗の安定生産に向けた研究、さらに効率的なわい性台木の生産技術の開発に取り組んでいきたい。」と意欲的に語っています(写真2)。
写真2 : 1年育成フェザー苗の育成場(長野県果樹試験場提供)
導入可能な地域は
この1年育成フェザー苗は長野県以外の産地にも適用できます。特に新規に高密植栽培に取り組もうとする産地に推奨できます。ただし、雪害に対する耐性が明らかになっていないため、積雪が少ない地域が望ましく、比較的平坦で、農作物に水を与える、かん水設備が整っている産地が適するとされています。
リンゴの早期成園化に関する技術は他にもあります。山形県農業総合研究センターをはじめとする公的研究機関などで組織した「経営体(リンゴ早期成園化)コンソーシアム」と農研機構果樹茶業研究部門は、1年育成フェザー苗の技術も含め、早期成園化のための各種技術を紹介したパンフレット「各地域に適したリンゴ早期成園化技術の開発と経営体における実証」(写真3、QRコード)をつくり、ホームページで紹介しています。
写真3 : リンゴの早期成園化技術を紹介したパンフレット(農研機構提供)
事業名
革新的技術開発・緊急展開事業(うち経営体強化プロジェクト)
事業期間
平成29年度~令和元年度
課題名
各地域に適したリンゴ早期成園化技術の開発と経営体における実証
研究実施機関
農研機構果樹茶業研究部門(代表機関)、長野県果樹試験場、つがる弘前農業協同組合、岩手県農業研究センター、紅果園(高野豪)、宮城県農業・園芸総合研究所、秋田県果樹試験場、山形県農業総合研究センター園芸試験場、福島県農業総合センター果樹研究所、農研機構東北農業研究センター、弘前大学
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こぼれ話の1~18は日本語と英語で読めます。その18話を冊子『日本の「農と食」 最前線-英語で読む「研究成果こぼれ話」』にまとめましたのでご覧ください。