生物系特定産業技術研究支援センター

《こぼれ話46》木造高層耐火ビルがCLTで実現

2023年5月15日号

東京農工大学を代表機関とする研究グループは、高い耐火性能を持つCLT(直交集成板)部材の開発に取り組み、CLT構造の外壁について2018年11月に2時間耐火構造の国土交通大臣認定を我が国で初めて取得しました(申請者:日本CLT協会)。これにより、CLT外壁が中高層ビルに利用可能となりました。2022年には本外壁を用いた11階建ての木造高層耐火ビルが株式会社大林組により建設されました。また、本研究成果を活用し、既存のものよりも被覆層を薄くしたCLT間仕切壁についても2018年8月に2時間耐火構造の認定を取得しており、これを用いた15階建ての木造高層マンションが株式会社東洋ハウジングにより建設中です。国は、「CLT活用促進に関する関係省庁連絡会議」を設置し、CLTの幅広い積極的な活用に取り組んでいます。今後、CLT部材を利用した木造高層耐火ビルの建設が増えることで、国産材の新たな需要や新しい産業分野が創出されるものと期待されています。

CLTは大規模建築の壁や柱にも利用できる構造部材

CLTは、cross(交差)・laminated(積層された)・timber(木材)の略です。日本農林規格(JAS)では直交集成板として規格が定められています。

板材(ひき板)を繊維方向を揃えて並べ、大きな面材をつくり、その上に板材の繊維方向が直交するように別の面材を積み重ねて接着・圧縮する操作を繰り返すと、厚くて丈夫なパネルができあがります。これがCLTです(図1)。

CLTは工場内で一部の材料を組み立ててから現場に搬入するプレハブ化による施工工期短縮が期待でき、接合具がシンプルなので熟練工でなくとも施工が可能です。

1990年代にオーストリアを中心に研究開発が始まり、海外では10階建て以上のビルが竣工するなど、鉄やコンクリートに並ぶ建築材料として認知されています。しかし、我が国でCLTを中高層建築物に利用するためには、厳しい防火規制をクリアする必要があり、木造高層ビル建築を普及する上でのネックとなっています。


図1 : CLTの構造(提供:森林総合研究所)

我が国で初めて2時間耐火のCLT外壁が建築基準法の認定

これまでは1時間耐火構造のCLT外壁しかなかったため、使用できる建築物の階数に制限がありました(※)。そこで、本研究グループでは、CLT外壁の表面を耐水性強化石膏ボードと軽量気泡コンクリートパネルで被覆することで、2時間の火災でも内部のCLTが焦げたり燃えたりしない耐火性能を持たせることに成功しました(写真1)。

あわせて、この技術を活用してCLTの間仕切壁についても、既存の認定よりも被覆の薄い仕様で、建築基準法に基づく2時間耐火構造の国交大臣認定を取得しました。


写真1 : 耐火試験の様子。試験中の炉内温度は加熱開始
2時間後に約1050℃に達します。(提供:森林総合研究所)

CLT外壁を用いた11階建て木造高層耐火ビルが完成

本研究グループで開発されたCLT外壁を用いた木造高層耐火ビルの建築事例を紹介します。

株式会社大林組では、独自に開発したCLTと、今回ご紹介したCLT外壁などを組み合わせて、柱・梁・床・壁といった全ての地上構造部材を木造とした、純木造の11階建て木造高層耐火ビルを2022年に横浜市に建設しました(写真2)。

このビルは、木造耐火建築物として、国内最高となる高さ44mです。

写真2の左右の1~11階の外壁が本研究グループが開発した2時間耐火仕様CLTとなっています(両側面の壁に適用)。


写真2 : 開発されたCLT外壁を用いた11階建て木造高層耐火ビル
(提供:大林組「Port Plus」、外観撮影:株式会社エスエス 走出直道)

CLT間仕切壁を用いた15階建て木造高層耐火マンションが建設中

次に、CLT間仕切壁を用いた木造高層マンションの建築事例を紹介します。

株式会社東洋ハウジングでは、「東洋木のまちプロジェクト」として、鎌ヶ谷市において、15階建て高さ約45mの木造高層耐火マンションの建設を進めています(写真3)。


写真3 : 開発されたCLT間仕切壁を用いた15階建て
木造高層マンション(イメージ)(提供:東洋ハウジング)

将来的にはよりコストを抑えた仕様の認定取得へ

2時間耐火構造の認定を取得したCLT構造の外壁、間仕切壁は、防火上の階数制限なく建築物に使用することができます。また、どなたでも、日本CLT協会が実施する講習会を受講し、資格要件等を満たせば使用可能です。

研究グループの代表機関である東京農工大学の服部順昭名誉教授は、本研究について「(CLT外壁等の)コストダウンに加えて、環境負荷が大きい部材の代替品に成果を広げることで環境負荷の削減を進めて行かなければならない。」と語っています。

今後、さらなる研究開発や実用化に向けた検討が進み、低コスト化や様々な用途への活用が広がることで、木材の温かみを感じられる建築物が増加し、国産材の需要の拡大、ひいては国内林業の活性化につながることが期待されます。

※現在、日本でCLT壁を中高層建築物に使用するためには、基本的に最上階から数えて4階までの建物では1時間耐火構造認定品であることが、5階以上9階以下の建物では1時間半耐火構造認定品であることが、10階以上の建物では2時間耐火構造認定品であることが必要です。

事業名

革新的技術開発・緊急展開事業(うち経営体強化プロジェクト)

事業期間

平成29年度~令和元年度

課題名

CLTを使った構造物の施工コストを他工法並みにする技術開発

研究実施機関

東京農工大学、森林研究・整備機構、日本CLT協会、建築研究所、株式会社竹中工務店、清水建設株式会社、三井住友建設株式会社、有限会社平子商店、東京大学、立命館大学


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