生物系特定産業技術研究支援センター
《こぼれ話49》サクラ・モモ・ウメに脅威、外来カミキリムシの防除法開発
2023年7月31日号
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クビアカツヤカミキリは、サクラ、モモ、ウメといったバラ科の樹木を加害する外来の昆虫です。幼虫が樹皮下を食い荒らし、ひどい場合は枯死させてしまいます(写真1)。森林総合研究所を代表機関とする11機関による研究グループが、2018年から4年がかりで日本では不明だったクビアカツヤカミキリの生態や生活サイクル、有効な薬剤、処理方法などを明らかにし、いつどのような対応をすれば被害を抑えられるのかを防除マニュアルとしてまとめました。この活用により、春に咲き誇るサクラの景観や、モモ、ウメなどの果樹を守ることが期待されています。
写真1 : 枯死したモモの木の幹の中に潜んでいたクビアカツヤカミキリ
の幼虫。幹の穴は幼虫が食い荒らした痕=森林総合研究所提供
クビアカツヤカミキリとは
もともとは中国、モンゴル、朝鮮半島、台湾、ベトナムなどに分布(※)し、体長2~4cmの黒くてツヤのある体のカミキリムシで、首のように見える前胸部の背中側が赤いのが特徴です(写真2)。中国ではモモの害虫として知られ、樹皮の隙間に産み付けられた卵から孵化した幼虫が樹木の内部を食い荒らし、時には枯死させてしまいます。雌1匹が1,000個を超える卵を産むことがあり、強い繁殖力を持っています。
日本では2011年に埼玉県で侵入が確認され、2012年には愛知県のサクラで初めて被害が分かり、現在までに茨城、栃木、群馬、東京、神奈川、三重、大阪、奈良、和歌山、兵庫、徳島の計13都府県で見つかっています。2018年には、生態系、人の生命・身体、農林水産業に被害を及ぼす恐れのある「特定外来生物」に指定されました。
写真2 : 成虫の雌(上)と雄(下)
防除法を公開、情報共有化のシステムも開発
研究グループは、国内では不明だった生活サイクルについて、幼虫が2年ほど樹木の中で過ごし、蛹となった後、6~8月ごろに成虫となって出現すること(図1)を明らかにしました。また、クビアカツヤカミキリは初めソメイヨシノなどで被害が広がりましたが、その後の研究で、サクラよりモモの方を好むことが分かりました。
研究グループでは、解明したクビアカツヤカミキリの生態や駆除の方法を4年がかりで防除マニュアルとしてまとめ、森林総合研究所のホームページで「クビアカツヤカミキリの防除法」として、公開しています。
防除マニュアルでは、樹木の伐倒や幼虫・成虫の捕殺などの物理的防除、有効な薬剤を使った化学的防除など、被害の状況や生活サイクルに合わせた処理方法が紹介されており、クビアカツヤカミキリ防除への活用が期待されます。
また、研究グループでは、複数の被害地域間で被害情報を共有できるリアルタイムオンラインマッピングシステムも開発し、運用を開始しました。被害を見つけた人が、その場でスマートフォンやパソコンなどから被害アンケートサイト(https://kubiaka.jp/home/)に送信すれば被害情報が集積されます。誰でもこのサイトで地域や日時を絞った被害情報を閲覧することができ、自治体の担当者らが被害情報を把握する地図作りにも役立てられます。
図1 : 栃木県のモモ園における生活サイクル(2年1化:産卵の翌々年に羽化すること)=森林総合研究所提供
幼虫の排出物が発見の手がかりに
研究グループは、防除で肝心なのは早期発見・早期駆除だといいます。クビアカツヤカミキリの幼虫は、木を食べた後の糞と木屑の混ざった「フラス」を排出します。木の内部へ坑道をつくるように侵入すると、邪魔になったフラスを樹木の表面に開けた穴(排糞孔)から太さ2~8mmほどの細く連なった形で押し出し、樹木の根元に落ちてたまっていきます(写真3)。これが被害木を見つける重要な手がかりになります。
サクラやモモの樹幹と根元にフラスの痕跡がないかを定期的に確認することが大切です。フラスの排出は春から秋に見られますが、特に夏の暑い時期に多くの樹木で見られるため、年に1回の見回りならお盆過ぎが効率的だといいます。
写真3 : クビアカツヤカミキリの幼虫が排糞孔から押し出した「フラス」
の連なり(左)、樹木の根元にたまった大量のフラス(右)
多くの人の協力が必要
研究代表者の森林総合研究所・加賀谷悦子氏は「クビアカツヤカミキリを駆除するには行政・自治体、果樹園主、一般の市民らが地域で一体となって、発見・駆除に取り組んでいくことが重要です。」と語っています。この『こぼれ話』をお読みになられた方も、サクラやモモ、ウメの樹木の近くを歩くときは、フラスがないかをぜひ気にとめていただき、フラスを見つけたら、被害アンケートサイト(https://kubiaka.jp/home/)へ送信したり身近な自治体へ連絡したりしていただければと思います。
※クビアカツヤカミキリの元の生息地については、国立環境研究所の侵入生物データベースによりました。 https://www.nies.go.jp/biodiversity/invasive/DB/detail/60560.html
事業名
イノベーション創出強化研究推進事業(開発研究ステージ)
事業期間
平成30年度~令和3年度
課題名
サクラ・モモ・ウメ等バラ科樹木を加害する外来種クビアカツヤカミキリの防除法の開発
研究実施機関
森林研究・整備機構(代表機関)、徳島県立農林水産総合技術支援センター、栃木県農業試験場、大阪府立環境農林水産総合研究所、日本大学、農研機構植物防疫研究部門、埼玉県生態系保護協会、株式会社マップクエスト、和歌山県、愛知県森林・林業技術センター、大日本除虫菊株式会社
本研究課題は、農林水産省が運営する異分野融合・産学連携の仕組み『「知」の集積と活用の場』において組織された「樹木類への生物被害に関する連携研究開発プラットフォーム」からイノベーション創出強化研究推進事業に応募された課題です。『「知」の集積と活用の場』のURLはhttps://www.knowledge.maff.go.jp/
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こぼれ話の1~18は日本語と英語で読めます。その18話を冊子『日本の「農と食」 最前線-英語で読む「研究成果こぼれ話」』にまとめましたのでご覧ください。