生物系特定産業技術研究支援センター

《こぼれ話50》さくらんぼの大玉生産技術で輸出拡大へ

2023年8月31日号

山形県農業総合研究センター園芸農業研究所を代表機関とする研究グループは、さくらんぼ「紅秀峰(べにしゅうほう)」(写真1)の大玉(3Lサイズ)割合を高める栽培技術を開発しました。研究成果を取りまとめた栽培マニュアルを作成し、県下への普及を図っています。「紅秀峰」は輸出量が伸びてきていますが、本技術によりさらなる輸出拡大が期待されます。

さくらんぼは海外では大玉が人気

山形県は全国一のさくらんぼ産地で、さくらんぼは山形県の「顔」ともいえる農産物です。

海外でも日本産のさくらんぼは、甘味、食味や風味の良さに加え、鮮やかな紅色の外観が高い評価を得ています。一方、大きさに関しては、外国産(主にアメリカ産)が3Lサイズ(果実横径28mm以上)であるのに対して、日本産はL~2Lサイズ(同22~28mm未満:「山形県青果物等標準出荷規格」)が中心であるため、やや見劣りしています。


写真1:「紅秀峰」
(提供:山形県農林水産部)

「紅秀峰」の大玉割合を高める技術を開発

そこで研究グループは、外国産に負けない3Lサイズの「紅秀峰」を生産するための栽培技術を開発しました。

栽培のポイントは、慣行栽培(通常の栽培方法)に比べて

1 土壌水分が多くなるよう、多めにかん水

2 果実を成らせる枝は横向き~上向きのものを主体に整理し、花芽を間引き

3 結実が判り次第、果実を多めに間引きし、成らせる数を少なめに調整

4 樹の勢いを強めに維持

の4点です。これらのポイントを押さえて栽培することにより、生産する果実における3Lサイズの割合が増加します。平成30年度に実施した実証試験では、「紅秀峰」の3Lサイズ果実の発生割合が通常の栽培方法で約16%であったのに対し、本栽培方法における3Lサイズの割合は約64%になりました。

併せて、輸出相手国の残留農薬基準をクリアできる農薬散布体系を確立しました。また、本技術を導入した場合の農業経営試算を行い、経営的なメリットも明らかにしました。

これらの成果を盛り込んだ「紅秀峰の生産者向け超大玉生産のための栽培技術体系マニュアル」を作成し、普及に努めています。

「紅秀峰」3Lサイズは台湾で高評価

研究グループは、台湾の消費者を対象に3Lサイズの「紅秀峰」に関するアンケート調査を実施しました。

その結果、アメリカ産と比べて、味は「美味しい」と「やや美味しい」で約88%、外観は「良い」と「やや良い」で約80%でした。大きさについては「ちょうど良い」が約70%でした。甘味と酸味のバランス、食感の良さ、外観の紅色が美しいこと等が高い評価につながっています。

現在、山形県から海外への「紅秀峰」の輸出は伸びていますが、果実は2Lサイズが中心です。輸出をさらに伸ばすには、アンケート調査で高い評価を得た3Lサイズの比率を高めることが重要ですが、量を確保することが困難な状況です。今後、本技術が普及し、3Lサイズの生産量が増えることで、輸出が一層拡大するものと期待されます。

本研究について研究者からコメント

山形県農業総合研究センター園芸農業研究所の工藤信研究主幹(兼)果樹部長は、本研究について「本技術を多くの生産者に活用していただき、「紅秀峰」の高品質生産と輸出の拡大につながることを期待します」と語っています。

事業名

「革新的技術開発・緊急展開事業」(うち地域戦略プロジェクト)

事業期間

平成28年度~平成30年度

課題名

国際競争力と輸出拡大のための超大玉オウトウ生産・加工技術開発

研究実施機関

山形県農業総合研究センター園芸農業研究所、山形県農業総合研究センター食品加工開発部、山形県最上総合支庁農業技術普及課産地研究室、山形県庄内総合支庁農業技術普及課産地研究室、全国農業協同組合連合会山形県本部


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