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《こぼれ話56》北海道の直播栽培に適した、業務用にも向く良食味の水稲新品種「えみまる」

2024年5月29日号
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北海道立総合研究機構を代表機関とする研究グループが育成し、令和5年に品種登録された水稲新品種「えみまる(写真1、2)」の名前には、省力化生産が可能で味もよいことから、生産者も消費者も笑顔になるという意味が込められています。「えみまる」は、実需者のニーズに対応し、炊飯後の時間が経過しても柔らかさと美味しさが変わりにくく、弁当向けなどの業務用にも適した品種として開発されましたが、北海道の直播(「ちょくは」「ちょくはん」または「じかまき」)栽培にも適した品種として、その普及が拡大しています。

北海道では、稲作の大規模化が進んでおり、従来の移植栽培から労力のかからない直播栽培の普及が進められていますが、従来の品種は、低温下では出芽が優れず生産量が不安定になりやすいという問題がありました。今回育成された「えみまる」は、低温でも出芽が良好で、いもち病にも強いため、直播栽培でも安定的に収量を得ることができます。

北海道における「えみまる」の栽培面積は、令和元年には約400haでしたが、令和4年には5倍近くの約1,900haまで拡大しており、そのほとんどが直播栽培されています。「えみまる」は北海道における移植栽培の主力品種である「ななつぼし」と同等の食味を持つことから、今後も普及拡大が期待されます。「えみまる」の普及により直播栽培の面積が拡大すれば、北海道の稲作農業の省力化につながります。


写真1:えみまるの栽培風景
(田に入水した直後の様子。苗立の揃いが良好)
提供:北海道立総合研究機構



写真2:えみまるのパッケージ
提供:ホクレン

「えみまる」とは

「えみまる」は、低温でも発芽後の初期の生育が良好である特性を持つ「緑系07216」を母、低温と病気に強い特性を持つ「上系06181」を父として育成された品種で、低温にも病気にも強い形質を受け継いでいます。食味評価は、北海道で最も多く食べられている「ななつぼし」と同等であり、また、炊飯後の時間が経っても柔らかさが持続し美味しさが変わりにくいため、コンビニ弁当やレストラン等の外食用仕向けといった業務用としての利用にも向いています。業務用の酢飯を扱う実需者からは、「もともと道産の他品種を100%使用していたが、「えみまる」をブレンドすることでシャリに酢のノリがよくなりました」等の評価を得ており、こうした業務用を含めた需要の増加が期待されています。

米の直播栽培とは

米の栽培といえば、春の田植えがイメージされるように、ハウスで育てた苗を田に植えて育てる移植栽培が一般的です。この栽培法を行うメリットは、1春先の気象の変化が大きい時期に、気温や水分の変化に弱い苗を環境制御可能なハウスで栽培できること、 2生育が進んだ苗を植え付けるため、雑草との競合に負けないこと等が挙げられます。しかし、苗の植え付け自体は機械化されているものの、育苗や重い育苗箱の持ち運び、田植え機への投入は省力化が難しく、人が行わなければならない重労働となっており、規模拡大の妨げにもなっています。

そこで注目されているのが、直播栽培です。種籾を直接、田に播くため、田植えはもちろん育苗の手間も省くことができます。水稲における直播栽培面積(全国)は、平成7年に7,505haだったのが、近年では令和4年に36,681haと増えてきています。北海道では一般に直播栽培は移植栽培と比べてほ場での栽培期間が1~2週間程度長くなることから、移植栽培と組み合わせることにより作業ピークを分散できることも、経営面積の拡大に有効です。

「えみまる」は北海道の直播栽培の救世主

北海道では稲作の大規模化が進んでいますが、従来の移植栽培では労力を要することなどから経営規模の拡大には限界があります。このため育苗・移植が不要な直播栽培への期待が高まっていますが、北海道で直播栽培に利用されていた従来品種は、低温下では出芽が優れないため年により生産量が不安定で、収量性も十分ではありませんでした。

このような背景から研究グループは、食味が良く、低温でも出芽が良好で、病気にも強い特性を持つ新品種「えみまる」で、直播栽培を試すことにしました。その結果、「えみまる」は低温でも出芽が良好であるのみならず、収量も直播栽培向けの従来品種より多くなることが分かり、従来品種に代えて北海道内で広く普及させる優良品種として認定されました。「えみまる」の北海道での栽培面積は1,927ha(令和4年)で、品種化当初の普及予定面積1,000ha(目標年:令和5年) を超えて、普及が進んでいます。

普及が始まった頃は、生産者から、低温でも出芽が良好で生育も旺盛となったため倒伏が多くなったとの話もありましたが、最近は播種量自体を減らすなど播種の方法を改良し、「えみまる」の特性が十分発揮できるようになりました。ある稲作農家では、令和2年に「えみまる」を導入し、水稲栽培面積の22haすべてを直播栽培に切り替えたことで、労働力1名での経営管理を可能としています。

本研究について研究者からのコメント

研究グループの代表機関である北海道立総合研究機構の宗形信也(むねかたしんや)氏は、「えみまる」について、「北海道の冷涼な気象条件下で安定した苗立確保が可能な品種育成には非常に長い間取り組んでおり、なかなか実用品種までは育成できませんでした。「えみまる」育成は北海道の直播水稲育種に携わった諸先輩方の努力がようやく実ったことになります。今後は「えみまる」の長所である低温苗立性を維持しながら、収量性等の農業特性を向上させ、より省力・低コスト栽培可能な品種育成に繋げていきたいと考えています。」と語っています。

「こぼれ話」シリーズのURLは
https://www.naro.go.jp/laboratory/brain/contents/fukyu/episode/index.html


こぼれ話

事業名

イノベーション創出強化研究推進事業 (開発研究ステージ)

事業期間

平成27年度~令和元年度

課題名

新たな簡易米飯評価法を用いた実需ニーズに対応した業務用多収品種の開発

研究実施機関

北海道立総合研究機構、農研機構北海道農業研究センター、北海道農政部


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