生物系特定産業技術研究支援センター

《こぼれ話57》消費者ニーズに応える食物繊維が豊富なもち性大麦の新品種

2024年7月17日号

長野県農業試験場を代表機関とする研究グループは、北陸等の寒冷地に適応するもち性大麦(以下、「もち麦」と表記)「ホワイトファイバー」と「はねうまもち」を育成し、これらは平成31年4月に品種登録されました。大麦には、食物繊維がサツマイモやゴボウよりも多く含まれますが、育成されたもち麦2品種は、もちもちとした食感の他に、機能性成分である水溶性食物繊維β-グルカンをうるち性大麦品種よりも多く含む特長があるので、注目の新品種です。

「ホワイトファイバー」は長野県、宮城県等で、「はねうまもち」は福井県、新潟県等で栽培されており、不足しがちな食物繊維がおいしく摂れるとして、大手コンビニエンスストアのおにぎり、弁当等、様々な商品に使われています。国産もち麦の需要は増加しており、今後、両品種の作付けが拡大することにより、国産もち麦の利用が更に拡大し、国内農業の活性化につながることが期待されます。

消費者ニーズに応え新たなもち性大麦を育成

大麦には、米と同様に、粘りが強いもち性の品種と、粘りが少ないうるち性の品種がありますが、消費者から好評である麦ごはんのもちもち感を出せる大麦は、もち性の品種です。スーパーやネット通販等では、パック麦ごはん、もち麦団子、大福、おはぎ、ケーキ、パン、麺などの多様なもち麦商品も販売されています。ゆでたもち麦をハンバーグやカレー等に混ぜることで、粒粒(つぶつぶ)食感を感じながら食物繊維を自然に摂取可能です。サラダのトッピング等の様々な料理にも合います。

一方、日本で栽培されている大麦の多くはうるち性の品種です。国内で流通するもち麦の多くは北米からの輸入であり、精麦会社や消費者のニーズを満たす国産のもち麦の生産量は限られていました。近年、うるち性大麦では"硝子化"といって、粒の内部が透明化することで外観の白さが劣ってしまう外観品質の低下が見られ、それによって生産者収益も減ってしまいますが、もち麦ではその現象が起こりにくいことから、生産者からも評価されつつあります。しかしながら、大麦の主産地である北陸等の寒冷地に適応するもち麦品種はなかったため、精麦会社からは早期育成が強く要請されていました。

このようなニーズと要請に対応すべく、本研究では寒冷地向けのもち麦として、「ホワイトファイバー」と「はねうまもち」の2品種を育成しました。「ホワイトファイバー」は長野県農業試験場が、「はねうまもち」は農研機構中日本農業研究センターが育成し、ともに平成31年4月に品種登録されました。両品種とも寒冷地で安定して栽培できる品種として、普及が進められています。

「ホワイトファイバー」の特性と普及状況

「ホワイトファイバー」(写真1)は、β-グルカンをうるち性大麦の1.5倍ほど多く含むほか、一般的な外国産のもち性大麦より(精麦粒の)外観が白く、また炊飯したときに茶色味が目立たないことも長所です。

消費者の中には、大麦の黒い筋を敬遠する方もいるので、大麦の粒を縦に半分に切って磨きをかけ、お米に似た形状に加工することで黒い筋を極力消した商品が開発されており、「ホワイトファイバー」はこうした商品にも適した品種として、精麦会社から評価されています。

「ホワイトファイバー」は、長野県、宮城県ではそれぞれ、県内で広く普及させる優良品種、奨励品種として認定されており、令和5年には長野県で235ha、宮城県で638haが栽培されました。加えて石川県、大分県でも栽培されており、令和5年には全国で約3,500トンが生産されています。

長野県では、信州大学が「ホワイトファイバー」を用いたレシピを公開しているほか、セミナーで「ホワイトファイバー」に関する講話や試食を行いました。また宮城県では学校給食の地産地消化に取り組んでおり、宮城県産「ホワイトファイバー」の学校給食への使用を検討中です。


写真1:ホワイトファイバー
提供:長野県

「はねうまもち」の特性と普及状況

「はねうまもち」(写真2)は、北陸地域の主要なうるち性大麦品種である「ファイバースノウ」のもち性突然変異で、β-グルカンを「ファイバースノウ」の1.4倍も含んでいます。

生産者にとっては、栽培特性が「ファイバースノウ」と同様であることから、栽培に取り組みやすいメリットがあります。また、もち性であるため硝子粒が発生しにくく、多肥条件にして多収栽培を狙いやすい品種です。更に、大麦生産者自らが精麦加工や直販を行って、収益性を大きく向上させている事例も多く、新たな麦作経営のかたちが生まれています。

「はねうまもち」は、令和4年産では福井県で631haの栽培があり、次いで青森県で95ha、新潟県で44haが栽培され、各地で栽培の取り組みが進められています。

福井県は全国一の大麦の生産県で、うるち性大麦「ファイバースノウ」の国内最大の産地でもありますが、「ファイバースノウ」の豊作年が続いた場合には精麦会社に前年の在庫が残ることもあり、その在庫調整によって買受けが難しくなって、生産にブレーキが必要な年もありました。しかし、ニーズの高いもち麦である「はねうまもち」の作付けが始まり、品種転換が進むことにより、「ファイバースノウ」の過剰生産の心配もなくなりつつあります。

新潟県では、新潟市の農業生産法人・(株)白銀カルチャーが、「はねうまもち」で644kg/10aの多収を実現し、令和2年度全国麦作共励会で「日本農業新聞会長賞」を受賞しています。また新潟市秋葉区では、行政、大学、福祉施設、生産者、飲食店等が連携した6次産業化、農福連携や健康増進を含めたもち麦のプロジェクトが進んでいます。28店舗でもち麦販売や食事を提供しており、学校給食でもち麦ごはんが提供され、小学校の総合学習ではもち麦の授業を行っています。

農研機構中日本農業研究センターは、もち麦「はねうまもち」栽培マニュアルを作成し、普及を進めています。
https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/pamphlet/tech-pamph/130016.html



写真2:穂揃い期の「はねうまもち」
遠くの妙高山に「はねうま(跳ね馬)」の雪型が現れると、「はねうまもち」は穂揃い期になります。
提供:中日本農業研究センター上越研究拠点

本研究について研究者からのコメント

研究グループの代表機関である長野県農業試験場の前島秀和氏は、「ホワイトファイバー」について、「長野県で初めて奨励品種に採用されたもち麦です。奨励品種になったことで、消費者の求める高品質な「国産もち麦」の栽培が普及拡大し、生産量が増えました。生産者、精麦会社、消費者にメリットがある現状を嬉しく思います。現在、「ホワイトファイバー」の改良版も育成中であり、今後さらに、高品質な国産もち麦の需要に応えていきたいです。」と語っています。

また、農研機構中日本農業研究センターの長嶺敬氏は、「はねうまもち」について、「パック麦ごはんやスイーツ類などいろいろな用途開発が進み、農福連携、6次産業化などこれまでの大麦品種とは少し違う需要を生み出す品種に育ってきました。これからも地域でいろいろな使い方をしていただけるとうれしいです。」と語っています。

「こぼれ話」シリーズのURLは
https://www.naro.go.jp/laboratory/brain/contents/fukyu/episode/index.html


こぼれ話

事業名

イノベーション創出強化研究推進事業 (開発研究ステージ)

事業期間

平成26年度~平成30年度

課題名

新たな実需ニーズに応える寒冷地・多雪地向け新需要大麦品種等の育成と普及

研究実施機関

長野県農業試験場、農研機構(中日本農業研究センター上越研究拠点、作物研究部門、東北農業研究センター、西日本農業研究センター)、愛知県農業総合試験場、新潟薬科大学、宮城県古川農業試験場、石川県農林総合研究センター


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こぼれ話は順次英訳版も出しています。英訳版はこちらhttps://www.naro.go.jp/laboratory/brain/english/press/stories/index.html