生物系特定産業技術研究支援センター

《こぼれ話72》アスパラガス「枠板式高畝栽培」で省力・安定栽培を確立

2026年5月19日号

アスパラガス(以下「アスパラ」と略す=写真1、用語*1)は、みずみずしく歯切れの良い食感に特徴があり、消費者から広く支持されている野菜の一つで、その収益性の高さから営農上も有望な作物です。北海道で始まったアスパラの露地栽培は、1970年代には九州などでも本格的に広まりましたが、高温と多雨で茎枯病(用語*2)が広がりました。その対策として1980年代半ばから雨よけハウスを用いた「半促成長期どり栽培」(用語*3)が開始され、茎枯病を抑えるとともに10 aあたりの収量(以下、反収)を飛躍的に伸ばしました。ところが作業環境の面では、夏季のハウス内は高湿度となり悪化しました。半年以上にわたる収穫作業を狭い通路で行うため、生産者の身体的負担が大きくなったことが、作付面積拡大の大きな障壁となりました。


写真1:栽培中のアスパラガス
=農研機構提供

一方、香川県農業試験場では、2000年代初めに、アスパラ圃場(ほじょう)の植え替え(改植)技術として「枠板式高畝栽培」を開発しました。多年生のアスパラは、一度植えると同じ株で何年も収穫できる作物ですが、根腐れをはじめとする病気が蓄積すると収量低下に陥ります。また、香川県は水田転換畑が多いため降雨後に地下水位が高くなりやすく、湿害が起きやすいという難点がありました。改植時に収量の低下した圃場を耕起して株を植え替えると連作障害を起こす危険性が高まることから、古い株を掘り取らず、既存畝の上に新しい土(客土)を盛って既存株を埋没枯死させつつ新しい苗を育てる「不耕起客土栽培」が始まりました。その改善を進めていく中で、客土層がだんだん高くなり、高くなった畝を崩れにくくするために畝の側面を板で固定したのが「枠板式高畝栽培」の始まりです。高畝は根域が広くなることから生育が安定するほか、ハウス1棟あたり2畝の疎植栽培とすることでハウスの奥が見通せる明るさが生産者らの関心を集めました。

そこで農研機構を代表機関とする研究グループは、香川県で始まった「枠板式高畝栽培」が、気象条件と品種の異なる香川県以外の産地でも収益を上げられることを実証し、全国への普及を進めています。また、平畝用に開発された自動収穫ロボットを「枠板式高畝栽培」に対応できるように改良し、人とロボットの協働によるアスパラ生産の実現に向けた取り組みを続けています。

畝間の通路を広く取り、収穫姿勢を改善

香川県で始まった「枠板式高畝栽培」は他の地域でも有効なのかを実証するため、農研機構が呼びかけ、北海道、長野県、広島県、長崎県などが香川県の協力を得て各地に適した栽培管理技術を開発することに取り組みました。

一例を挙げると、長野県野菜花き試験場では、1棟2畝の「枠板式高畝栽培」に取り組み(写真2)、平畝に1棟3畝で定植した栽培と同等の収量が得られることを確認。その土地に合ったアスパラ品種を選び、慣行栽培に準じた管理をすれば10 aあたり3 tの収量性を発揮することが可能であることを実証しました。


写真2:間口5.4 mのハウスを用いた1棟2畝の枠板式高畝栽培の一例。奥が平畝植え
=長野県提供

間口5.4 mのハウスなら、従来の3畝から2畝に減らすことで二つの畝の間の通路幅を2 m取ることができます(図1)。これにより収穫時の作業スペースが広くなります。また畝の高さが40~60 cmとなったことで、しゃがみこんで収穫していたのが、台車に乗り背を伸ばして作業できるようになることを追認しました(写真3)。


図1:間口5.4 mのハウスを用いた1棟2畝の枠板式高畝栽培の一例 。通路幅が2 m取れます
=長野県提供



写真3: 平畝の若茎をしゃがみこんで収穫していたのが、台車に乗り背を伸ばしての作業になりました。
自動収穫ロボットの導入もしやすくなりました =長野県提供


また、畝間を広く取り、栽植密度を下げることで採光性や通風性の向上が図れ、摘心や側枝の刈り込み(用語*4)などの作業を省略できることも検証できました。総じて、「枠板式高畝栽培」はアスパラの健全な生育と労働生産性の向上を両立させる栽培法と言えます。

「枠板式高畝栽培」は排水性が高く、土壌が乾燥しやすいため、必要十分な土壌水分を灌水(用語*5)で補うことが重要です。研究グループはテンシオメーター(用語*6)を畝に設置することで、土壌水分を適切に管理する方法も提案しています。

自動収穫ロボットを枠板式高畝栽培用に改良

研究メンバーのinaho株式会社は、2017年に人工知能(AI)を用いてアスパラの親茎(立茎された茎)と若茎(収穫物)を識別して収穫する平畝用の自動収穫ロボットを発表しました。これは、収穫すべき若茎を選別してアームでつかみ、カッターで若茎の基部を切断し、収穫物を籠に入れるという独自の機能を多数持っています。

inaho社は、畝高60 cmの「枠板式高畝栽培」に対応する自動収穫ロボット(写真4)を開発し、2020年度から、香川県の圃場で実験と改良を繰り返し、2022年度には圃場での収穫率7割を達成しています。


写真4:枠板式高畝栽培用の自動収穫ロボット =inaho株式会社提供

枠板式高畝栽培の普及がアスパラ生産の安定化につながる

自動収穫ロボットを広く普及させるためには、ロボットを量産し生産者が取得しやすい価格にする必要があります。その前提として、「枠板式高畝栽培」が全国で広く行われるようになることが必要です。「枠板式高畝栽培」は2026年3月時点で全国に100 haほど普及しています。

研究グループの研究統括者・柳井洋介さん(農研機構 野菜花き研究部門)は「アスパラガスの枠板式高畝栽培は、雨よけハウスの設置と灌水用の水源を確保できれば各地で適用できる栽培方法です。栽培開始時に客土の搬入や枠板の設置に労力やノウハウを必要とするため、日本のアスパラ栽培と言えば枠板式高畝栽培、と言われるようになるには相応の時間を要するかもしれませんが、改植の難しさで経営継続を諦めていた生産者に朗報となればと期待しています」と話しています。「枠板式高畝栽培」が全国に普及すれば、生産者の働き方に変革をもたらしつつ、多くの消費者に新鮮な国産アスパラを提供することにつながりそうです。

用語

*1 アスパラガス   多年生植物で、根が深く張るため、根域の環境が良いほど収量が伸びる特性があり、同じ株から10~15年間収穫できます。地下の「根株」を中心に、毎年春に若芽を伸ばし、この若芽が伸びた若茎が食用になります。若茎を収穫せずに放置すると茎が伸びて擬葉(針状の茎)を広げ光合成を始めます。光合成で得られた栄養は地下の根株に蓄えられ、翌年の若芽を育てる養分となります。来年の収穫のために、茎を立たせて栄養を蓄えさせる栽培管理を「立茎」といいます。

*2 茎枯病(くきがれびょう)   糸状菌(カビの一種)による病害で、褐色の斑点から始まり、茎が黒く枯れてしまいます。病状が進むと地下茎も弱り、株が枯死します。

*3 半促成長期どり栽培   雨よけハウス(簡易なビニールハウス)を使って、早春(2~3月)から秋(10月)まで長期間収穫する栽培方法。露地春芽どり栽培の約8~10倍の収量が得られます。佐賀県、長崎県など西日本で広く採用されています。冬に燃料を使って加温する促成栽培ではなく、自然光の蓄熱を利用して若茎の生長を促し収穫します。

*4 摘心や側枝の刈り込み   摘心は主茎の先端を切ること。茎が高く伸びると先端が雨よけハウスの天井フィルムに接触し、葉焼けや蒸れによる病気が出やすくなります。側枝は主茎から横に出る枝で、多すぎると群落が蒸れて病害が発生しやすくなるため、刈り込みをします。

*5 灌水(かんすい)   農作物や植物の生育のために、自然の降雨に頼らず人工的に水を供給する「水やり」のことです。農業や園芸現場で主に使われる用語で、土壌の乾燥防止や施肥(肥料を与えること)の目的でも行われます。

*6 テンシオメーター   土壌中の水分が、どれくらい植物に吸われやすい状態かを測る計器です。圧力水頭(水をある高さまで持ち上げるのに要する力)を吸引圧やpF値で数値化し、水が植物に利用できる状態にあるかどうかが分かります。絶対値が大きいほど乾燥していることを示し、水やりの判断に活用できます。

事業名

イノベーション創出強化研究推進事業(開発研究ステージ)

事業期間

2020年度~2024年度

課題名

アスパラガス生産に働き方改革を!改植技術「枠板式高畝栽培」を基盤とした省力安定栽培システムの開発

研究実施機関

(国研)農研機構 野菜花き研究部門(代表機関)、(地独)道総研上川農業試験場、道総研花・野菜技術センター、長野県野菜花き試験場、香川県農業試験場、香川県農政水産部、広島県立総合技術研究所農業技術センター、長崎県農林技術開発センター、九州大学、日本女子大学、inaho(株)、(株)果実堂テクノロジー、農研機構西日本農業研究センター・九州沖縄農業研究センター・農村工学研究部門


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