生物系特定産業技術研究支援センター

SIP

第2期 スマートバイオ産業・農業基盤技術

研究成果

新型コロナウイルスの抗体検査試薬を開発

掲載日 :2021年2月19日(金曜日)

KAICO株式会社は2020年10月2日、ウイルス検出装置および抗体検査キットの開発を行う株式会社プロテックスと共同で新型コロナウイルス感染症抗体検出キットの開発を発表しました。また、プロテックスは同キットを使用した新型コロナウイルス抗体検査サービスを2020年10月12日より法人向けに提供を開始しています。

新型コロナウイルスの収束時期が見通せないなかで、感染防止対策と経済活動の両立のため、また今後予定されているワクチン接種における有効性確認などのためにも、新型コロナウイルス抗体検査キットとそれによる抗体検査サービスは大きな意味を持つと考えられます。

関連する研究テーマ:
  • 昆虫(カイコ等)による有用タンパク質・新高機能素材の製造技術の開発・実用化

共同開発と研究成果の概要

本検査キットの開発に当たっては、九州大学農学研究院日下部研究室の主導のもとKAICOと共同で取り組み、新型コロナウイルスのスパイクタンパク質(Sプロテイン)三量体の抗原開発に成功。複数の抗体との結合を確認しました。また、検査キットの開発に際しては、KAICOが新型コロナウイルスの抗原・抗体の開発・改良・量産化検討を担当、プロテックスがその抗原・抗体を用いて新型コロナウイルスの検出キット開発および検査サービスの組み上げを担当しました。

なお、KAICOは九州大学農学研究院の日下部教授(昆虫分子遺伝学)と工学研究院の神谷教授(生物工学・酵素工学・生体分子工学)の技術をもとにした大学発スタートアップ企業で、SIPスマートバイオ産業・農業基盤技術の「昆虫生産系ものづくり」コンソーシアムに協力機関として参画しています。また、今回の検査キット開発にあたり使用された新型コロナウイルスのスパイクタンパク質とその生産に係わる技術等は、九州大学農学研究院日下部研究室およびKAICOが、SIPスマートバイオ産業・農業基盤技術において取り組む研究開発の成果の一部です。

カイコによるバイオ創薬の実績

近年、製薬業界ではバイオやITを駆使した、タンパク質による創薬競争が活発になっています。ウイルスの表面に存在するスパイクタンパク質や、免疫機能の一部である抗体タンパク質などを解明し、それらを導入した治療や創薬を行っています。しかし、そうしたタンパク質を発見しても、産業レベルで生産できなければ製品化はできず、効果が認められたすべてのタンパク質が利用できるわけではありません。

九州大学では、目的のタンパク質を発現するようにしたDNAをバキュロウイルスに挿入し、さらにそのウイルスを九州大学の組換えタンパク質高生産性カイコ系統に投与する「カイコ・バキュロウイルス発現法」を利用しています。KAICOでは、そのカイコ・バキュロウイルス発現法を用いて、医療向けのタンパク質の大量生産が可能なプラットフォームを実用化しており、今回の新型コロナウイルス抗体検査キットの開発にあたっても、同プラットフォームが活用されています。

なお、カイコ・バキュロウイルス発現法の産業利用としては、これまでに東レによるイヌやネコのインターフェロン製剤や、日本全薬工業からイヌのアトピー治療薬、シスメックスでは血液凝固検査試薬といった複数の実用化事例があります。

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