生物系特定産業技術研究支援センター

SIP

第2期 スマートバイオ産業・農業基盤技術

研究成果

史上最高の耐熱性を持つバイオプラスチックを開発
植物由来非可食資源から高機能バイオ素材を生産するプロセスを確立

掲載日 :2021年4月2日(金曜日)

東京大学大学院農学生命科学研究科大西康夫教授が代表を務める研究グループは2020年10月13日、紙パルプを原料にして史上最高の耐熱性を持つバイオプラスチックを開発に成功したことを発表しました。このプラスチックは強度も高く軽量なため、循環型社会の鍵となるバイオマス由来プラスチックの用途を拡大し、さらには将来における脱石油化・低炭素化社会の実現に貢献することが期待されます。

関連する研究テーマ:
  • 高機能バイオマテリアル設計・生産技術開発

1300°CのバーナーによるPBIフィルムの燃焼試験

芳香族系ポリマーの微生物を用いた発酵生産を実現

本グループは、高機能な芳香族系ポリマーであるポリベンズイミダゾール(PBI)を非可食バイオマスから生産するため、一連のシステムを開発しました。

このPBI生産システムは、以下のような段階を経て開発されました。

  1. 1. 代表的な非可食バイオマスである紙パルプを効率的に酵素糖化し、高濃度のグルコースを含む糖化液を生産するシステムを開発しました。
  2. 2. 遺伝子組換えコリネ菌を用いて、紙パルプ糖化液からPBIの原料となる芳香族化合物(3-アミノ-4-ヒドロキシ安息香酸:AHBA)を発酵生産し、高純度に精製しました。
  3. 3. PBI製造のためAHBAと共重合させる化合物として4-アミノ安息香酸(ABA:アラミド繊維原料)着目。ABAを生産する遺伝子組換え大腸菌を構築し、同じく紙パルプ糖化液からABAを発酵生産し、高純度に精製しました。
  4. 4. PBIの直接の原料となる3,4-ジアミノ安息香酸(DABA)をAHBAから簡便に合成する方法を開発しました。
  5. 5. DABAを単独重合してPBIを合成し、それをフィルム化する方法を開発しました。
  6. 6. DABAとABAを共重合し、さらに耐熱性が向上したPBIフィルムを作製する方法を開発しました。

開発段階図

以上の通り、紙パルプ由来の糖化液を用いた芳香族化合物の発酵生産によってPBIフィルムを作製できることを示し、紙パルプから超高耐熱性PBIフィルムの一貫生産プロセスのプロトタイプを構築することに成功しました。

本生産システムの産業利用に当たっては、微生物によるAHBAの発酵生産量の増加、発酵させた微生物の培養上清液から目的物質を精製するプロセスの高度化、生産されたPBIプラスチックの性質等に最適な用途の開発、といった課題が残されております。本研究グループでは、引き続き超高耐熱性PBIフィルムの社会実装に向けて研究開発を継続して行きます。

超高耐熱かつ軽量な特性がさまざまな用途で期待

今回開発したDABAとABAの共重合によるPBIフィルムは、耐熱性が非常に高く、これまでに存在するプラスチックの中で最高耐熱となる740°C(10%重量減少温度)を実現しました。1300°Cのバーナーによる燃焼試験においても炎は出ず、溶け落ちることもなく、炭化こそするものの重量減少も非常に小さいという特性があります。

このPBIフィルムは、アルミニウムやマグネシウムなどの軽量金属の融点でも分解しないため、これら金属と溶融複合化したハイブリッド材料としても期待できます。安全性と軽量化が要求される自動車のボディ、建築部材などの社会インフラ、電動モーターの電線被膜、内燃機関の駆動部位周辺具材などのほか、超難燃性の求められる航空・宇宙機器の部品などへの活用も想定されます。

これまでに開発された植物由来プラスチックは、脂肪族ポリマーが中心のため耐熱性が低く用途が限られていました。一方、芳香族ポリマーは高い耐熱性が知られているものの、その原料はすべて石油由来の芳香族化合物で、石油由来ではない再生可能な資源から芳香族化合物を作り出すことは困難でした。今回、植物由来の非可食資源である紙パルプから超高耐熱性のPBIフィルムを一貫生産するプロセスを確立できたことによって、さまざまな産業でのバイオ由来芳香族ポリマー活用が広がり、循環型社会の構築へ貢献するものと期待できます。

なお、本研究グループの代表を務める東京大学大学院農学生命科学研究科大西教授のほか、北陸先端科学技術大学院大学先端科学技術研究科金子達雄教授、筑波大学生命環境系高谷直樹教授らは、SIP「スマートバイオ産業・農業基盤技術」に参画しており、バイオPBIの社会実装に向けた研究開発に取り組んでいます。

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