生物系特定産業技術研究支援センター

SIP

第2期 スマートバイオ産業・農業基盤技術

研究成果

データ駆動型育種の有効性を示す2020年度実証成果を紹介

掲載日 :2021年8月27日(金曜日)

「育種の効率化」コンソーシアムの「データ駆動型育種プラットフォーム」チームは、ゲノムの多様性情報や育種関連データをもとに、作物のゲノム情報と特性情報を関連付けるAIモデルを構築し、同モデルに基づいた新たな育種法「データ駆動型育種」を実現するプラットフォームの開発に取り組んでいます。

2020年度はデータ駆動型育種の実証として、リンゴ、タマネギ、イチゴにおいて、ゲノム情報に基づく特性予測を用いた選抜の効率化に関する検証を行いました。その結果、「褐変しにくいリンゴ」「業務加工に適した縦長性・早生性のタマネギ」「輸送性に優れ果実の大きいイチゴ」といった、優れた特性を持つ作物を従来育種に比べて効率的に開発できることを示しました。また、「シャインマスカット」の全ゲノム解析により、ブドウの新品種開発に利用可能な多数のDNA多型情報を取得しました。

上記の実証により取得したゲノム情報などは、育種事業者が利用できるように、現在整備中のデータ駆動型育種プラットフォームの一部として提供されます。以下、4つの実証成果について、概要を紹介します。

1. 「データ駆動型育種により褐変しにくいリンゴの選抜効率を向上」

概要
リンゴの24集団を用いて遺伝解析を行い、切ると茶色に変色してしまう性質(褐変性)に関連するゲノム領域を新たに複数検出しました。2集団の遺伝解析に基づいた特性予測法では、選抜集団中の低褐変性品種の割合が8%から25%に向上し、24集団に基づいた予測法では80%にまで向上しました。また、褐変性を決める遺伝子座を検出しました。これらの結果から、解析に供する集団数および個体数の拡大により予測精度を改善できることが明らかとなり、褐変しにくいリンゴをカットフルーツ市場に周年供給できる技術基盤が構築できました。

リンゴの果肉褐変性

あおり27
(図)ゲノム解析集団数の拡大によるリンゴの褐変性予測の高精度化と選抜効率の向上

育種事業者が利用可能な情報
取得したリンゴの難褐変化遺伝子座の情報・予測モデル

参考文献
Tazawa et al. (2019) Genetic characterization of flesh browning trait in apple using the non-browning cultivar 'Aori 27'. Tree Genetics & Genomes 15:49.
Kunihisa et al. (2021) Genome-wide association study for apple flesh browning: detection, validation, and physiological roles of QTLs. Tree Genetics & Genomes 17:11.

問い合わせ先
國久美由紀(農研機構、miyuky[アット]affrc.go.jp、029-838-6474)
田沢純子(青森県産業技術研究センター、junko_tazawa[アット]aomori-itc.or.jp、0172-52-2331)
寺上伸吾(農研機構、terakami[アット]affrc.go.jp、029-838-6474)
※[アット]を@に置き換えてください

2. 「シャインマスカットのゲノム解読や果皮色遺伝子の解析によるブドウのデータ駆動型育種基盤の構築」

概要
「シャインマスカット」全ゲノムの99.4%にあたる490.1Mbの配列を解読し、全ゲノム配列の特性調査から、生食用欧米雑種ブドウである「シャインマスカット」がワイン用欧州ブドウとは異なるゲノム構造を持つことを明らかにするとともに、ブドウの育種選抜に利用可能な多数のDNA多型情報を取得しました。また、ブドウの果皮色を決定する遺伝子座を解析し、育種選抜において利便性の高いDNAマーカーを作成しました。今後、「シャインマスカット」の保有する生食用ブドウとしての優れた特性に関わる遺伝子の解明と「シャインマスカット」に続く優れた品種の開発が期待されます。

育種事業者が利用可能な情報
取得した「シャインマスカット」等ブドウのゲノム情報 ブドウ果皮色の簡易DNAマーカー

参考文献
1)Shirasawa et al. (2019) De novo whole-genome assembly in interspecific hybrid table grape 'Shine Muscat'. BioRxiv (DOI: 10.1101/730762).
2)Azuma et al. (2020) Simple DNA marker system reveals genetic diversity of MYB genotypes that determine skin color in grape genetic resources. Tree Genetics & Genomes 16:29.

問い合わせ先
東暁史(農研機構、azumaa[アット]affrc.go.jp、0846-45-4740)
※[アット]を@に置き換えてください

3. 「データ駆動型育種を利用したタマネギ育種の効率化と実際の育種集団への適用」

概要
タマネギのゲノム情報を利用した育種シミュレーションにより、特性予測に基づいた選抜と世代短縮を組合せた「データ駆動型育種法」と、特性評価だけに基づいた従来の育種法の選抜効率を比較しました。データ駆動型育種では、従来育種に比べて、短期間で大幅に(3年で1.6倍程度に)特性を改良できることが明らかになりました。また、データ駆動型育種を実際の育種集団(3集団)へ適用し、業務加工に適した縦長性かつ早生性を有する育種素材の選抜を開始しました。

育種シミュレーションによるデータ駆動型育種と従来育種の選抜効率の比較(第一~第五は育種集団の世代)
(図)育種シミュレーションによるデータ駆動型育種と従来育種の選抜効率の比較(第一~第五は育種集団の世代)

一般的な形状のタマネギ(右)と加工性に優れた縦長のタマネギ
(写真)一般的な形状のタマネギ(右)と加工性に優れた縦長のタマネギ

育種事業者が利用可能な情報
取得したタマネギのゲノム情報・特性予測モデル

参考文献
1)Sekine and Yabe (2020) Simulation-based optimization of genomic selection scheme for accelerating genetic gain while preventing inbreeding depression in onion breeding. Breeding Science 70:594-604.

問い合わせ先
塚崎光(農研機構、tsuka[アット]affrc.go.jp、019-643-3513)
関根大輔(農研機構、dsekine[アット]affrc.go.jp、050-3533-4615)
※[アット]を@に置き換えてください

4. 「イチゴにおける特性予測モデルとデータ駆動型育種の実践による素材開発の加速」

概要
イチゴのデータ駆動型育種を実践するための育種集団と基盤技術を開発・整備し、取得した成果をもとに主要な果実特性に関する予測モデルの作成と選抜DNAマーカーの選定を行いました。得られたモデルとDNAマーカーを用いた選抜を最大で年2回実施し、これまで合計6回の選抜を行いました。選抜前の集団と選抜を経た集団の果実特性を比較した結果、輸送性に優れ果実の大きい系統が選抜されていることが明らかとなりました。

イチゴのデータ駆動型育種を実践するための体制を整備
(図)イチゴのデータ駆動型育種を実践するための体制を整備

選抜前と選抜後のイチゴの果実硬度と重量の比較
(図)選抜前と選抜後のイチゴの果実硬度と重量の比較

育種事業者が利用可能な情報
イチゴのゲノム情報・特性予測モデル

参考文献
1)Wada et al. (2020) Genome-wide Association Study of Strawberry Fruit Quality-related Traits Using a MAGIC Population Derived from Crosses Involving Six Strawberry Cultivars.
The Horticulture Journal 89:553-566.

問い合わせ先
磯部祥子(かずさDNA研究所、sisobe[アット]kazusa.or.jp、0438-52-3928)
和田卓也(福岡県農業総合試験場、tawada[アット]farc.pref.fukuoka.jp、092-924-2970)
※[アット]を@に置き換えてください


「データ駆動型育種プラットフォーム」についてのお問い合わせ先
石本政男(農研機構、ishimoto[アット]affrc.go.jp、029-838-7427)
※[アット]を@に置き換えてください

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