生物系特定産業技術研究支援センター

《こぼれ話45》ナノ素材を活用し、より蓄電量の高い電極素材を開発

2023年3月28日号
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近年、農林水産業の分野ではセンサーやドローンなどのスマート農業技術の導入や冷凍・冷蔵機器によるコールドチェーンの普及等に伴い電力の利用機会が増えており、深夜電力や再生可能エネルギー電力をより多く蓄え様々な場面で利用するための技術が期待されています。蓄電技術の一つに、「スーパーキャパシタ」というものがあります。スーパーキャパシタは、二次電池に比べて高速で充放電でき、充放電サイクルの寿命が長いという利点を持つ反面、一度に蓄えられる電力量が少ないという課題がありました。ナノサミット株式会社(本社:埼玉県川口市)は、この課題を解決するために独自技術のナノ素材を活用し、より蓄電量の高い電極素材をスーパーキャパシタ向けに開発しました。この技術が普及すれば、農林水産の生産現場や流通過程で消費するエネルギーの削減が期待できます。

キャパシタとは

キャパシタは電気を蓄えたり、放出したりする蓄電器の一種です。スーパーキャパシタは大容量のキャパシタのことですが、大容量とはいえ、蓄電器として馴染み深いリチウムイオン電池などの二次電池に比べて短時間で充電が行えることや充放電による劣化が少ない(充放電サイクルの寿命が長い)といった特徴をもつ反面、二次電池に比べて、蓄えられる電気の量が限られるという課題を抱えています。そこで、同社では、髪の毛の1,000分の1のナノサイズの素材(カーボンナノチューブ(写真1・用語1)、以下CNT)を利用してより蓄電量の高いスーパーキャパシタを目指す開発に取り組んでいます。


写真1:カーボンナノチューブ(ナノサミット株式会社提供)

カーボンナノチューブと分散技術

スーパーキャパシタは陽極と陰極の電極が向き合った構造になっており、電極素材の比表面積(用語2)が大きいほど電気を多く蓄えられる性質を持っています。一般に電極素材には活性炭が使われていますが、同社は、より電気を通しやすいCNTを活性炭に配合しました。CNTは炭素で構成された微小な円筒(チューブ)状の物質で、写真2のような黒い粉です。CNTは単位重量当たりの表面積が大きいため、CNTを混ぜると同じ重量でも、より多くの電気を貯めておくことができます。

また、窒素を多く含むポリアクリロニトリルという樹脂を加えて、加熱処理することで、窒素ドープ(用語3)といわれる物性の変換も行っています。これにより、炭素の中に少量の窒素を加えることで、同じ面積に蓄えられる電気の量をさらに増やすことに成功しました。

さらに、同社は、このCNTの特性を最大限に発揮させるために、CNTを均一に分散させる独自の「分散処理技術」を用いた電極素材の開発に成功しました。その結果、従来のスーパーキャパシタに比べ、約3倍も高い1kgあたり15Wh(ワットアワー)の容量(エネルギー密度)を実現しました。


写真2:蓄電量を増やす電極材料のナノ素材(ナノサミット株式会社提供)

今後の展望

今後、どのような利用が期待できるのでしょうか。コールドチェーンの普及により冷凍・冷蔵機器の使用が拡大していますが、従来の約3倍の容量をもつスーパーキャパシタが普及すれば、数時間の連続使用が可能になることが期待されます。

既にスーパーキャパシタは自動車の回生ブレーキ(減速時にモーターを発電機として活用する仕組み)で発生したエネルギーを回収して充電する装置として使われています。ナノ素材を生かした従来の3倍の容量を持つスーパーキャパシタ(写真3)なら、瞬時に大きなパワーが発揮でき、長寿命の蓄電が可能になることから、将来的には農業機械のエネルギー源として役立つことも期待されます。


写真3:ナノ素材を使った電極材料(ナノサミット株式会社提供)

【用語1】カーボンナノチューブ
6個の炭素原子でできた小さな六角形がハチの巣状に並んだシートとなり、それが丸まって管状になったものです。

【用語2】比表面積
ある物体について、単位質量(または体積)あたりの表面積のことです。

【用語3】窒素ドープ
ドープ(dope)は結晶の物性を変化させるために少量の不純物を加えることです。窒素を加えて、物性を変えることを指します。

事業名

革新的技術創造促進事業(事業化促進)

事業期間

平成27年度~平成29年度

課題名

産地及び流通過程におけるエネルギー消費を劇的に下げる冷凍・冷蔵用新型キャパシタの研究開発とその実用化

研究実施機関

ナノサミット株式会社(代表機関)、東京大学、信州大学、太陽誘電株式会社


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