生物系特定産業技術研究支援センター

SIP

第2期 スマートバイオ産業・農業基盤技術

研究成果

プラごみ混入の食品廃棄物の高性能な固形燃料に~食品廃棄物の循環資源化に貢献

掲載日 :2021年9月30日(木曜日)

SIP「スマートバイオ産業・農業基盤技術」バイオ資源循環コンソーシアムは、農業・食品産業系の未利用資源の活用による資源循環型社会の実現を目的とし、バイオ資源から化学品等を製造する仕組み(ABCs1)の開発と実装に取り組んでいます。その取り組みの一環として、コンソーシアムの協力機関である有限会社丸源油脂は、九州大学との連携によって独自のマイルドトレファクション法(亜炭化法)2を改良し、再生利用率が低い食品残渣から高発熱量の固形燃料を製造することに成功しました。

現状、食品残渣は水分やプラスチックを多く含む等から活用が難しく、焼却処理するにも追加の燃料(エネルギー)投入が必要となります。今回開発したマイルドトレファクション法により、外部からのエネルギー投入を焼却処理の場合の1/10未満に低減するとともに、食品残渣が本来持つエネルギー(低位発熱量)の70%以上を固形燃料として回収することができます。この固形燃料の低位発熱量は十分に高く(木質バイオマスの約1.2倍)、発電や熱供給のために燃焼する際に追加のエネルギー投入は必要ありません。既設の発電・熱供給システムにおける燃料としての活用が期待されます。ABCs実装の際には、生産設備に電力や熱を供給するバイオマス発電用の燃料としての利用が可能です。

年間200万トン以上廃棄物として処理される食品残渣を効率よく燃料化

外食産業や食品小売業(コンビニ、スーパー等)で発生する食品残渣は、食品循環資源のなかでも再生利用実施率が低く、年間200万トン以上の残渣が再生利用されずに廃棄物として処理されています。再生利用実施率が低いのは、容器等のプラスチックごみとの分離が困難で飼料化や堆肥化に適さず、加えて、高含水率であり、しかも水との親和性が高いので従来の乾燥技術を適用すると多量の熱エネルギー投入が必要となるためです。


写真:処理前の食品残渣

マイルドトレファクションは、食品残渣が持つ化学エネルギーの一部を使って予備乾燥した残渣に効率良く熱を与えながら処理装置内を減圧とすること、残渣中の油分と添加油分(グリストラップ廃油、廃食油)を伝熱・脱水促進剤として活用すること、さらに残渣の塩分をセルロースやタンパク質の分解・炭化促進の触媒として活用することにより、トレファクションとしては異例に低い200°C未満の温度での処理によって低位発熱量が21.2 MJ/kg3の固体燃料を製造することを可能にします。食品残渣は水分含有率が70%以上であるため低位発熱量が4.3 MJ/kg程度と低く、そのままでは燃料として使うことができません。

一般的なトレファクション(半炭化:木質バイオマスを加熱して有機物を分解し、炭素成分が多い物質にする燃料化技術)は250~350°C前後の高温で行うため、食品残渣が持つエネルギーの50~80%が失われます。これに対して、マイルドトレファクションは、そのような損失を10%未満に抑えます。

製造プロセスでプラスチックごみを分離

マイルドトレファクションは、食品残渣中の親水性が高い酸素を含む官能基4の一部を分解消去することによって製品化後の吸湿を抑え、また、トレファクション中に繊維質(セルロース)の一部が分解することによって固形燃料としての成型に必要な粉砕が自動進行することもわかっています。処理中に形状がハンドリングしやすい粒状に変化するので、食品と混在するプラスチックごみを容易に分離することができ、プラスチックごみ混じりの食品残渣も問題なく資源化できます。

マイルドトレファクション(50kg バッチ試験)後の亜炭化物(左)と、分離したプラスチックごみ(右)
写真:マイルドトレファクション(50kg バッチ試験)後の亜炭化物(左)と、分離したプラスチックごみ(右)。

亜炭化物のペレット
写真:亜炭化物のペレット

マイルドトレファクション法のプロセスフロー
図.マイルドトレファクション法のプロセスフロー

本研究の位置づけ

本コンソーシアムは、ABCsを基盤として稲わらやもみ殻などの非可食農業残渣から多様な化学品を製造することにより、化学工業の基幹物質であるC6糖を30円/kgで提供する商用プラントの2027年度の事業化に向け取り組みを行っています。ABCsにおいては化学品・素材製造のCO2原単位を可能な限り小さくすることを目指していますが、木質バイオマスと亜炭化物を主たる燃料として製造プロセスに電力と熱を供給することは、CO2原単位の最小化に貢献します。

本研究成果は、ABCsの実装に先駆けて食品残渣を原料とした亜炭化燃料製造技術を確立したものです。マイルドトレファクション法によって製造した固形燃料は、高発熱量かつ貯蔵中の自然着火や悪臭発生が起こらない安心・安全なバイオ燃料として、発電や蒸気製造のための既存設備(ボイラー等)で利用でき、CO2排出量削減に貢献します。ABCsを実装する際には、このバイオ燃料をABCsだけでなく地域への電力・熱供給に活用することができます。

今後の展開

本研究成果を踏まえ、食品残渣を原料とした固形燃料の製品化、および外食産業や食品小売業で発生する食品残渣の収集から利用に至るサプライ・バリューチェーンの開発に取り組んでいます。現在、関東地域等における実証試験計画を地域自治体、企業と協議中です。

1ABCs:アグリバイオ・スマート化学生産システム(Agri-Bio smart Chemical production systems)
関連情報:SIPスマートバイオ産業・農業基盤技術の活動状況と成果 5. 農業未利用資源の利活用.
https://www.naro.go.jp/laboratory/brain/sip/sip2/theme/theme2105.html
2 特許第5597332号、特許第6246100号
3低位発熱量. 食品残渣の亜炭化物は、乾燥した食品残渣(20 MJ/kg)、木質バイオマス(18 MJ/kg)のいずれよりも高発熱量です。
4水酸基(-OH基)、エーテル基(C-O-C基)等

本研究に関する問い合わせ先

九州大学先導物質化学研究所 林 潤一郎
E-mail: junichiro_hayashi[アット]cm.kyushu-u.ac.jp
([アット]を@に置き換えてください)
TEL: 092-583-7796

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