生物系特定産業技術研究支援センター

《こぼれ話48》ドローンで農業水利施設の老朽度を調査する手法が実現

2023年7月4日号
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国際航業株式会社を代表機関とする研究グループは、ドローンで農業水利施設の老朽度を調査する手法を開発しました。研究グループは、開発した点検手法をマニュアルとして取りまとめ、公開しています。急傾斜地に位置する施設や接道がなく人が立ち入ることが困難な施設でもドローンは簡単に近づくことが可能なため、点検作業の効率化、省力化が期待されます。

農業水利施設は老朽化が進んでいます

日本の農業が抱える課題の一つとしてダムや用水路など農業水利施設の老朽化があげられます。既存の農業水利施設(基幹的なダム、頭首工(写真1、用語1)、ポンプ場など)約7千カ所の多くは、戦後の食料増産の時代や高度経済成⻑期に整備されており、その約2割はすでに耐用年数を超過するなど老朽化が進行しています。施設は、一定程度以上に劣化が進むと、大規模な対策工事が必要となるので、劣化の程度をモニターすることで、対策の必要性を早期に判断し、計画的に対策工事を進める必要があります。しかし、農業水利施設の維持管理を担う従事者・技術者は減少しています。また、ダムや堤防などは急傾斜地や接道がなく人が立ち入ることが困難な場所に設置されていることが多く、人手による点検作業は簡単ではありません。そのため、現場では、施設の老朽化による突発事故の発生や施設機能の低下が懸念されています。


写真1 : 頭首工
(提供 : 国際航業株式会社)

0.2mmのひび割れ幅も確認可能

農業水利施設は構造物、条件等にもよりますが、施設の健全度を評価するためには、ひび割れ幅0.2mm 以上の変状を観察する必要があります。

研究グループの開発したドローンは、GNSS(衛星測位システム)によって、自分がどこをどう飛んでいるかを判断し、プログラミング通りのコースを自律飛行します。このため人が立ち入ることが困難な場所も近づくことが可能です。さらに、ドローンによる空中写真撮影と点検調査手法は高精度で、0.2mmのひび割れ幅(写真2)も撮影可能です。

従来の点検手法は人による目視が中心でしたが、ドローンによる点検作業は従来作業に比較して約2割程度の点検労力削減効果を実現しています。


写真2 : 0.2mmのひび割れ幅も撮影可能
(提供 : 国際航業株式会社)

施設の健全度を評価し、劣化を予測する技術体系を構築

また、研究グループは、水利施設の遠隔3次元計測(用語2)により、沈下やひび割れなどの外的変状を抽出・計測し、AI(機械学習)の先端技術を取り入れ、農業水利施設の健全度を評価し、劣化を予測する技術体系を構築しました。インフラの健全度をAIにより客観的に評価することで、技術と経験を有する技術者が施設全体の調査結果をもとに総合的に評価を行う従来の手法が自動化され、客観的に寿命を予測することができます。これにより補修工事が必要かどうかの判断を迅速に行うことが可能となります。

調査手法を取りまとめたマニュアルを公開

本調査手法は、農業用ダム、頭首工、用排水機場、開水路等の農業水利施設だけでなく、農地保全用の干拓堤防等の海岸保全施設でも利用できます。研究グループでは、これらの合計16箇所の施設を対象に行った老朽化判断の実証試験をケーススタディとして整理し、現場技術者が具体的かつ効率的に施設の点検が行えるよう取りまとめたマニュアルを公表しています。
マニュアル「UAV計測点検手法の手引き(案)-海岸保全施設及び農業水利施設-令和3年3月」
URL:https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/laboratory/nire/143561.html

今後の土木建設分野の新たな仕組み作りについて

建設業で生産性を低下させている要因として、2次元の紙の図面で各種作業を進めていることがあります。2次元図面から完成形状を想像するためには経験が必要です。自動車産業を始めとした製造業では3次元の電子データ(3次元モデル)を活用して生産性を向上させています。同様に建設業でも3次元モデルを利活用すれば生産性の向上が期待でき、さらに3次元モデルに部材(部品)等の情報を結びつければ生産性の向上のみならず品質の向上も可能となります。建設分野で、この3次元モデルに各種の情報を結びつけ利活用していくことは、BIM/CIM (Building/ Construction Information Modeling)と呼ばれています。IT技術を活用した業務改革(DX:デジタルトランスフォ-メ-ション)の進捗により、このような建設プロセスのデジタル化、自動化を進める新技術が開発・導入されるなど、国内でも様々取り組まれています。

研究グループの代表機関である国際航業株式会社の西岡氏は、「今後、土木建設分野においても、既存の施設等の維持管理や新たな施設の調査・設計段階での3次元点群データ(用語3)の取得が拡大し、3次元データの流通と利活用のニーズはさらに高まっていくことから、本研究で目指した3次元点群データなどを含むデジタル情報を、土木建設分野のインフラ事業の上流から下流の関係者で共有し、流通する情報に基づき各段階の仕事を円滑かつ効率的に実施するための新たな仕組み作りに貢献していきたい」と語っています。

【用語1】頭首工
頭首工とは、農業用水を河川から取水するため、河川を堰き止めて水位を上昇させ、水路へ流し込む施設(水門等)のことで、用水路の頭の部分にあたることからこのように呼ばれています。頭首工のコンクリート壁面における撮影では、「農業水利施設の機能保全の手引き「頭首工」(農林水産省農村振興局、平成28 年8 月)」に記載されるように、施設の健全度評価の観点から、ひび割れ幅0.2mm 以上の変状を観察する必要があります。

【用語2】3次元計測
3次元計測とは、対象物のXYZ軸の3次元座標を取得し、寸法・位置・輪郭などの3次元情報を測定することです。

【用語3】点群データ
点群データとは、ドローン等による 3 次元測量によって得られた 3 次元座標を持った点の集合で、「点群」と呼ばれることもあります。

事業名

「知」の集積と活用の場による革新的技術創造促進事業(うち「知」の集積と活用の場による研究開発モデル事業)

事業期間

平成28年度~令和元年度

課題名

農業水利施設ストックマネジメントの高度化に関する技術開発

研究実施機関

国際航業株式会社、農研機構農村工学研究部門、応用技術株式会社、株式会社水域ネットワーク、富士フイルム株式会社


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こぼれ話の1~18は日本語と英語で読めます。その18話を冊子『日本の「農と食」 最前線-英語で読む「研究成果こぼれ話」』にまとめましたのでご覧ください。