西日本農業研究センター

所長室だより -年頭のご挨拶-

新年明けましておめでとうございます。平成26年の年頭に当たり、ご挨拶を申し上げます。
まずは、平成25年4月の所長就任時において、私からは以下の5つの目標を掲げさせて頂きました。

  • 農業技術開発を通じて地域経済の発展に貢献します
  • 存在感があり、頼りにされる近畿中国四国農業研究センターを目指します
  • 直面する農業現場の問題解決に正面から取り組みます
  • 東日本大震災からの農業復興に貢献します
  • 公的研究機関としての適切な組織運営に努めます

こうした目標の達成に向けて、これまで当研究センター職員は総力をあげて中期計画に示された研究を着実に実施することはもとより、技術の現地実証試験の実施、研究予算の確保、関係研究機関や行政機関との連携などに意欲的に取り組んできました。生産現場に近いという地域農研センターの利点を活かしながら、地域農業が直面している様々な課題を把握し、技術的視点に立った課題解決策を提示してきました。

今年は午(うま)年。地域農業・農村の発展に貢献するため、これらの目標に向かって引き続き邁進する所存であります。特に今年は二つの視点-「攻めの農林水産業」の推進と地域を守る技術-を強く意識しながら、研究機関としての社会的責務を果たしていきたいと考えています。昨年と同様、皆様のご支援とご協力を宜しくお願いいたします。

◇「攻めの農林水産業」に対応した農業技術の開発

平成25年12月、政府において「農林水産業・地域の活力創造プラン」が決定されました。これに基づき、(1)需要フロンティアの拡大、(2)需要と供給をつなぐバリューチェーンの構築、(3)生産現場の強化及び(4)農村の多面的機能の維持・発揮を柱とした「攻めの農林水産業」の推進が今後、本格化します。ここに掲げられている具体的な政策の中で、需要拡大を支える付加価値の高い農産物・食品の開発、6次産業化の推進、生産部門における生産性の向上や農業イノベーションの創出、地域資源の活用と地域の活性化などは、いずれも技術開発部門に強い期待が寄せられています。このため、当研究センターとしても得意とする研究分野を中心に、地域に適した農産物の開発、安定生産可能な栽培技術の確立、これら技術の普及に積極的に関わっていく考えです。

その場合に、個別の技術としては優れていても、収益性の確保や経営としての持続性が担保されなければ、現場への技術の普及は進みません。そのためには、開発した革新的な技術を体系化して、現地実証試験を行いながら、収益性の高い営農モデルを構築することが重要です。

当研究センターでは、こうした期待に応え得る有望な技術をこれまでも開発しています。例えば、土地利用型農業においては、製パン性に優れ多収のパン用小麦品種「せときらら」、食物繊維が豊富で変色しにくく美味しいもち性大麦品種「キラリモチ」などの新品種があります。また、耕畜連携を進めるため、牛にとって消化が良く栄養価が高い稲発酵粗飼料用水稲品種「たちすずか」の育成から栽培、収穫調製、給与に至る技術体系を開発しています。果樹や施設園芸においては、マルドリ方式による高品質なカンキツ生産を可能とする栽培技術体系、保温性能が高く暖房燃料使用量を大幅削減できる次世代型パイプハウスなどを開発しています。

このように高品質・多収の新品種の育成、低コストで安定生産可能な栽培技術の開発を通じて、農業の生産性向上と生産者の所得確保に貢献します。さらに当研究センターは府県の試験研究機関、大学、民間企業とのコーディネート機能を発揮することによって、地域農業研究の結節点の役割を担います。

◇地域を守る農業技術の開発

二つ目の視点は、気象変動や地域資源の管理機能の低下など、地域農業をめぐる多様なリスクを軽減できる農業技術の開発に取り組みます。

昨年は、相次ぐゲリラ豪雨の襲来と気温35°Cを超える猛暑日の連続など、例年になく気象災害に悩まされ続けた年であったと言えます。特に記憶に残る大きな災害は、島根県と山口県を中心に甚大な被害をもたらした7月末と8月下旬の局地的な集中豪雨でした。被災地の皆さんには心よりお見舞いを申し上げます。

さて、地球温暖化が進行するとともに、気象変動の振れ幅が大きくなり、台風も大型化しているとも言われており、こうした気象変動が地域の農業生産や社会生活に徐々に悪影響を及ぼしつつあります。中山間地域を多く抱える近畿中国四国地域においては、豪雨・土砂崩れによる農地・農業用施設の被害、一方では水不足や高温に伴う農作物被害が指摘されています。

こうしたリスクの発生は、単に気象という外部要因だけが影響しているのではなく、社会的な要因も複雑に絡んでいます。当地域においては、過疎化と高齢化により地域資源を適切に管理する機能が著しく低下していることが背景にあります。

したがって、当研究センターでは、中山間地域に特有の問題となっている「地域資源を管理する機能」をいかに高めて、地域を守っていくかという点に技術開発の主眼を置いています。

中山間地域では生産性の高い大区画水田農業が展開できるような好条件の農地はそう多くはありません。このため、中小規模の水田農業経営を前提とした低コスト・省力的な水田輪作技術の確立を目指しています。また、水田といえども法面の多い棚田を形成している場合が多く、省力的な除草技術やシバ造成技術などの畦畔管理技術の開発も重要です。

担い手が不足している地域の水田や立地条件の悪い水田は耕作放棄されがちですが、これによって水田の貯水機能が低下したり、イノシシ・シカなど野生動物の生息の温床にもなるため、農地の管理と黒毛和牛の付加価値向上を目的とした肉用牛の放牧研究も行っています。さらには、イノシシなどの獣害被害から地域を守るため、住民主体による獣害に強い地域作りを目指した取組方法を提案しています。

温暖化への対応技術としては、高温に強く良食味で多収の水稲品種「中国201号」の育成や水不足にも対応できるような節水型の灌水技術の開発を行っています。

こうした技術の活用により、中山間地域に暮らす人々が安心して農業生産活動に従事できるようになり、この結果、集落が有する地域資源の管理機能が適切に維持され、災害などのリスクに強い地域が造られるものと考えています。

さいごに、当研究センターは地域の目線に立ち、地域に開かれた研究機関を心懸けています。私どもが取り組んでいる研究活動の意義や役割について一般の方々にも分かり易くご理解いただくため、研究所の一般公開やサイエンスカフェの開催、研究成果や研究会・イベント開催等の情報発信など、様々なアウトリーチ活動を行っています。ホームページにこれらの情報を随時ご案内していますので、是非、ご覧ください。

以上、年頭に当たりまして、私の所感を述べさせて頂きました。本年が皆様にとって幸多い年となりますように、お祈り申し上げます。

平成26年1月
近畿中国四国農業研究センター所長
尾関秀樹

マルドリ方式による高品質カンキツ生産

稲発酵粗飼料用水稲品種「たちすずか」

鳥獣害対策の辻説法(一般公開)

サイエンスカフェの模様