九州沖縄農業研究センター

沖縄における種なしスイカ作出技術の開発

北谷恵美

ア. 研究目的

沖縄のスイカ生産は栽培面積が約200haで、促成、早熟および普通の3作体系によって1月から8月まで行われている。しかし、最近のスイカ価格は低迷しており、商品の高品質化、ブランド化による高収益営農が一層求められている。本課題では野菜茶業試験場が開発した軟X線を用いた新しい種なしスイカ作出技術を沖縄に適用し、実用化に向けた技術の確立を図るため、品種と作型を明らかにするとともに、保存花粉の利用技術を開発する。

イ. 研究方法

1. 沖縄県における品種適応性試験

‘富士光’、‘縞王マックスKE’、‘富士光TR’、‘天竜2号’を供試し、沖縄県農試園芸支場において、11月定植、12月交配の促成栽培で、軟X線(800Gy)照射花粉を交配して作出した種なしスイカの果実特性を調査した。また、‘まつりばやし777’(ユウガオ台)、‘富士光’(カボチャ台、ユウガオ台)‘朝ひかり’(ユウガオ台)について軟X線種なしスイカのシイナを調査した。5mm以上で厚みのあるシイナを大シイナとし、着色程度によって黒色シイナ、褐色シイナ、白色シイナに分類した。それ以外を問題のない小シイナとした。

2. 沖縄県における作型適性試験

沖縄県国頭郡今帰仁村の農家ハウスにおいて、2000~2002年の3カ年にわたり、普通作型(5月定植、6月交配)、早熟作型(1月定植、3月交配)、促成作型(11月定植、12月交配)の3作型について軟X線種なしスイカを作出し、果実およびシイナより作型適応性を検討した。

3. 保存花粉の利用およびホルモン剤による着果促進

軟X線照射後に摂氏5度で約1週間保存した花粉および約20日保存した花粉を用いて種なしスイカの作出を行った。また、約20日保存した花粉の交配時に着果促進剤フルメット液剤10ppmを子房塗布して種なしスイカの作出を行い、ホルモン利用の可否を検討した。

4. 花粉保存法の選定

花粉の短期保存として容積100mlのシャーレ(3花)に、雄花の重さの0,5,10倍量のシリカゲルを入れて摂氏5度で保存した。花粉の長期保存の有機溶媒としてエチルエーテル(無水)、酢酸エチル(脱水)に軟X線照射花粉を入れて摂氏-20度で貯蔵した。花粉の活性には寒天培地上の花粉発芽率を調査した。

ウ. 結果

1. 沖縄県における品種適応性試験

‘富士光’、‘縞王マックスKE’、‘富士光TR’、‘天竜2号’に軟X線照射花粉を交配した着果率は平均92%で対照区と大差はなかった。いずれの品種も種子はほぼ全て白色シイナ化した。果形、果皮厚、しゃり感および多汁性について品種間差が認められたが、一果重、糖度、食味およびシイナ数は認められなかった(表1)。

‘富士光’のシイナは大部分が小シイナであった。‘朝ひかり’は大シイナが多く、全体に占める割合も高かった。‘まつりばやし777’は大シイナの全体に占める割合が高く、褐色シイナが多く観察された(表2,図1)。カボチャ台‘富士光’とユウガオ台‘富士光’ではユウガオ台‘富士光’の果実品質が優れていたが、大シイナの割合は同程度であった。

表1 軟X線照射花粉の授粉により作出した種なしスイカの果実特性

表1 軟X線照射花粉の授粉により作出した種なしスイカの果実特性

表2 軟X線照射種なしスイカの果実特性及びシイナ数

表2 軟X線照射種なしスイカの果実特性及びシイナ数

富士光(ユウガオ台)
富士光(ユウガオ台)

朝ひかり
朝ひかり

まつりばやし777
まつりばやし777

図1 品種と軟X線種なしスイカ

2. 沖縄県における作型適応性試験

全ての作型において軟X線照射花粉を用いた種なしスイカの果実品質について対照区との間で差は認められなかった。シイナは作型による違いが認められた。普通作型では着色シイナ数が果実半分あたり18個と多かった(表3)。早熟作型ではほとんどが白色シイナになっており、着色シイナはわずかしか見られなかった。促成作型ではごくわずかの着色シイナと充実種子以外はほとんど白色シイナになっていたが、比較的大きく目立つ白色シイナが観察された(図2)。

表3 作型と種なしスイカの果実特性およびシイナ

表3 作型と種なしスイカの果実特性およびシイナ

対照区
対照区

軟X線区
軟X線区

対照区
対照区

軟X線区
軟X線区

図2 早熟作型(左)と促成作型(右)の軟X線種なしスイカおよび対照区

3. 保存花粉の利用およびホルモン剤による着果促進

促成作型において約1週間保存した軟X線照射花粉による着果率は70.0%で、交配に保存花粉を用いることは可能であった。軟X線照射花粉および保存花粉を用いた果実について品質の違いは認められなかった(表3)。

早熟作型では交配が交配期の後半になったため、約20日間保存した軟X線照射花粉を用いた軟X保存区は初期生育が悪くすべて摘果された。しかし、フルメット液剤を子房に塗布した軟Xホルモン区、軟X保存ホルモン区は高い着果率が得られた(表3)。軟X保存ホルモン区の果実はやや小さくなったが、軟X区と同等の果実品質でホルモン処理による影響は認められなかった(図3)。

軟X線ホルモン区(左)軟X線保存ホルモン区(右)

図3 軟X線ホルモン区(左)と軟X線保存ホルモン区(右)の種なしスイカ

花粉保存法の選定雄花の短期保存は、乾燥剤(シリカゲル)を入れたシャーレに密封し、摂氏5度で保存すると高い発芽率を保ち、1週間の利用が可能であった。シリカゲルは保存する雄花重量の10倍以上を入れるのが適当であった(表4)。

花粉の長期保存において、エチルエーテルおよび酢酸エチルに浸漬した花粉はいずれも1ヶ月後には30%程度に発芽率が低下した。酢酸エチルでは3ヶ月後でも25%の発芽率であったが、エチルエーテルでは8.2%に低下した。このことより、花粉の長期保存には酢酸エチルに浸漬し、摂氏-20度で保存するのが有効であると考えられた(図4)。

表4 軟X線照射花粉の発芽率に及ぼす保存日数およびシリカゲル量の影響
表4 軟X線照射花粉の発芽率に及ぼす
保存日数およびシリカゲル量の影響

図4 有機溶媒の違いによる軟X線照射花粉の発芽率
図4 有機溶媒の違いによる
軟X線照射花粉の発芽率

エ. 考察

沖縄における軟X線照射花粉を利用した種なしスイカでは、交配期以降が高温であるとシイナが着色しやすく、6月交配の普通作型では着色シイナが多く見られた。着色シイナは充実種子と見分けが付かず、種なしスイカに見えないため、普通作型は種なしスイカの作出に不適と考えられる。また、果実肥大期後半が低温であるとシイナが大きく厚くなりやすく、12月交配の促成作型では食感に影響する白色シイナが多く見られた。着色シイナは少ないが食感に影響するシイナがあるため、促成作型は種なしスイカの作出にやや不適と考えられる。3月交配の早熟作型は着色シイナが少なくシイナが目立たないことから、本技術に最も適する作型と考えられる。

品種として、‘富士光’は大シイナの割合が少なく着色しにくいため早熟および促成作型に最も適する。‘朝ひかり’は、シイナは着色しにくいが大シイナの割合が高く、シイナが目立ちやすい促成作型では不適と考えられる。‘まつりばやし777’は、シイナが着色しやすく大シイナの割合が高いためすべての作型において不適であると考えられる。

保存花粉は大量に交配する場合に有効である。しかし、花粉の保存期間が長くなると果実がやや小さくなることから、出来るだけ早く用いるのがよい。実用的には交配の前日に雄花に軟X線照射を行い、乾燥剤の入った密閉可能なタッパーに入れ、冷蔵庫に保存した花粉を用いる。また、低温が続くなど天候不順な時期の交配や保存期間が1週間を超えて発芽率が下がっている花粉を用いる場合、交配時にホルモン剤による着果促進が有効である。

オ. 今後の課題

軟X線照射花粉を用いた種なしスイカではシイナが問題となる。シイナの多少、大きさには作型の影響の他に品種間差がある。シイナが少なくて小さく、果実品質に優れた品種を選定するとともに果実の発育段階におけるシイナ発生過程について明確にする必要がある。

カ. 要約

沖縄における軟X線照射花粉の授粉による種なしスイカの作出技術を開発するため、適応する品種と作型および花粉の保存法を確立した。

  • 品種としてシイナが小さく、果実品質に優れる‘富士光’が最も適した。
  • 種なしスイカは種ありスイカと同等の品質で、作型として早熟作型が最も適した。
  • 保存花粉を用いると果重がやや小さくなるが、保存しない花粉と同等の種なしスイカが得られた。交配時にホルモン処理を行うことで着果しにくい条件でも高い着果率が得られた。
  • 雄花の短期保存は乾燥剤を入れたシャーレに密封し、摂氏5度で保存すると高い発芽率を保ち、1週間の利用が可能であった。シリカゲルは保存する雄花重量の10倍以上を入れるのが適当であった。また、花粉の長期保存は酢酸エチルに浸漬し、摂氏-20度で保存するのが有効であった。