九州沖縄農業研究センター

温暖化による米の品質低下の実態と対応について

(1)「ヒノヒカリ」の品質低下について

「ヒノヒカリ」(1989年、宮崎総農試(農水省指定試験地)育成)は、九州ではじめてコシヒカリの良食味性が導入された品種で、6月に移植する普通期栽培に適する良食味品種として九州全域に急速に普及されました(2007年時点で九州の作付面積の56%を占めています)。しかし、ここ5年ほど、「ヒノヒカリ」の玄米品質が低迷して、大きな問題となっています。白未熟粒(白濁した玄米:写真1)が発生したり粒張りが低下して、いずれの県でも一等米比率が50%を下回るようになってきたのです(図1)。この傾向は、九州で栽培される米全般にあてはまりますが、特にヒノヒカリで顕著となっています。

写真1白未熟粒のいくつかのタイプ
写真1白未熟粒のいくつかのタイプ

図1ヒノヒカリの一等米比率の推移
図1ヒノヒカリの一等米比率の推移

(2)九州における米の品質低下の要因について

近年の九州における米の品質低下の要因として、まず台風害が挙げられます。2004年、2005年、2006年はいずれも米の登熟期(米が実る時期)に大きな台風が来ました(図2)。次に、登熟期の高温が挙げられます。穂が出てから20日間の日平均気温が26℃を超える年が多く、特に2003年と2007年は27℃を超えました(図2)。このとき、日射量の増加を伴わないで気温だけ上昇したことや夜温の上昇が著しかったこと(図3)が、品質低下を著しくしたと考えられます。このほか、病害虫の発生や、栽培管理上の問題(施肥・水管理)も指摘されていますが、高温の影響については、温暖化の進行で今後さらに顕著になることが想定され、迅速な対応が必要となっています。

図2登熟期の気温と一等米比率の関係
図2登熟期の気温と一等米比率の関係。一等米比率は福岡県全体、気温は九沖農研機構(筑後市)のデータ

図3出穂後20日間の日照時間と日最高・最低気温との関係
図3出穂後20日間の日照時間と日最高・最低気温との関係(九州沖縄農研機構(福岡県筑後市))。出穂期は1975~2007年では福岡県作況標本調査の出穂最盛期(8月21日~9月4日)とし、1929~1974年は8月25日として算出した。

参考:平成18年度成果情報:
「登熟期の高夜温は胚乳細胞の成長抑制を介して玄米1粒重を小さくする」

(3)玄米充実不足の測定手法の開発について

九州における一等米比率低下は、年によっては、白未熟粒を超えて玄米の粒張りの低下、すなわち玄米充実不足(玄米が扁平で縦溝が深い)によってもたらされています。玄米の充実不足を軽減する栽培法や品種を開発するためには、充実不足を数量的に評価する必要がありますが、そのような手法はありませんでした。そこで、玄米横断面の輪郭カーブに注目して充実不足の指標値を抽出しました。

両面テープで立てた玄米の撮影画像をパソコンに取り込み、その輪郭から玄米の扁平性(写真2のT値)や縦溝の深さ(同、D値)示す指標値を抽出しました。その結果、高温登熟条件で玄米が充実不足になること、当センターが開発した高温耐性品種「にこまる」は、高温条件でも「ヒノヒカリ」に比べて充実不足になりにくいことを数量的に評価できました(図4)。

写真2画像解析で玄米横断面の輪郭を角度(θ)と距離(γ)で表現する方法
写真2画像解析で玄米横断面の輪郭を角度(θ)と距離(γ)で表現する方法。白丸はT値とD値の輪郭の位置。

図4高温と寡照が充実不足の指標値に及ぼす影響の品種間差異。
図4高温と寡照が充実不足の指標値に及ぼす影響の品種間差異。2ヵ年のポット試験の結果。対照:27/19℃、寡照:日射量58%低下、高温:35/27℃、高温寡照:高温かつ寡照。*,**はそれぞれ5%、1%水準で対照区と有意差があることを、p<0.1とp<0.01はそれぞれ10%水準と1%水準で品種間に有意差があることを示す。

参考:平成18年度成果情報:
「玄米の充実不足の数量的評価手法」

(4)高温登熟障害のを軽減栽培の考え方について

水稲の高温登熟障害の軽減技術には、1)高温回避型と、2)高温耐性強化型、という二つの考え方があります。また、別の視点では1)作付け前にセットしておく予防的な技術と、2)作付け後に高温が発生してからあるいは予測されてから発動する対症療法的な技術があります。

高温回避型では、1)遅植え、2)直播栽培、3)晩生品種の利用により出穂期を遅らせることが効果的です。この方法は予防的技術と言えます。また、夜間入水やかけ流し潅漑も高温回避技術で、これは高温になってから発動する対症療法的な技術と言えます。

高温耐性強化型では、後述する「にこまる」など耐性品種の導入が効果的です(これは予防的技術)。施肥技術では、1)籾数が増えすぎて発生する乳白粒の抑制に向けて、特に1回目の穂肥を控えめにする、2)登熟後期の窒素栄養が不足して発生する背白米や基部未熟粒の抑制に向けて、特に2回目の穂肥を施用するなど、土壌・生育診断に基づく施肥が考えられます。

図5高温登熟障害を軽減する技術の考え方による分類

図5高温登熟障害を軽減する技術の考え方による分類