要約
イチゴ炭疽病菌(Glomerella cingulata )のアゾキシストロビン剤耐性は、本剤100ppmとともにサリチルヒドロキサム酸を1000ppmになるよう添加したPDA平板培地における25°C、4日間培養後の菌糸生育の有無により判別できる。
- キーワード: アゾキシストロビン、ストロビルリン系、耐性、イチゴ炭疽病菌、検定法
- 担当: 佐賀農業セ・有機環境農業部・病害虫農薬研究担当
- 代表連絡先: 電話0952-45-2141
- 区分: 九州沖縄農業・病害虫
- 分類: 技術・普及
背景・ねらい
ストロビルリン系薬剤であるアゾキシストロビン剤(商品名:アミスタ-20フロアブル、以下AZ剤)は、イチゴ炭疽病に対する主要剤として使用されている。しかし、近年、各地で本剤に対する耐性菌の発生が確認されており、効果的な薬剤防除を行うには本耐性菌の発生状況の把握が必要となっている。本病原菌のAZ剤耐性は、イチゴ苗を用いた病原菌接種による生物検定およびチトクロームb 遺伝子の変異を検出するPCR-RFLP解析により判別可能であるが、コストや時間を要するため多数の菌株の検定は容易ではない。そこで、AZ剤の効果を補うサリチルヒドロキサム酸(SHAM)の添加濃度を明らかとし、安価で簡易な寒天平板希釈法によるAZ剤耐性検定法を確立する。
成果の内容・特徴
- イチゴ炭疽病菌に対するアゾキシストロビン(AZ)剤の最小生育阻止濃度(MIC値)は、PDA平板培地に糸状菌等の代替呼吸阻害剤であるサリチルヒドロキサム酸(SHAM)を1000ppmになるよう添加することで測定できる(図1、図2)。
- SHAM1000ppm添加下におけるAZ剤のMIC値と生物検定およびPCR-RFLP解析の結果には関係が認められ、MIC>3200ppmの菌株は生物検定による防除価が低く、チトクロームb 遺伝子に変異(G143A)が認められ、耐性菌と判定できる(表1)。
- 1996~2004年に佐賀県内各地から採取したイチゴ炭疽病菌(113菌株)に対するSHAM1000ppm添加下でのAZ剤のMIC値は、0.19~3.12ppmと>3200ppmの二つのグループに分かれる(図3)。
- SHAM1000ppmとともに、AZ剤の濃度を感受性菌のMIC値よりも高い100ppmになるよう添加したPDA平板培地に検定菌株の菌そうディスクを置床し、25°C、4日間培養後の菌糸生育の有無を調べることで、より簡易にAZ剤耐性の判別が可能である。
成果の活用面・留意点
- SHAMは常温の水にやや溶けにくいため、50°C程度に温めた培地容量の1/3程度の滅菌水中に必要量を予め溶解した後、培地に加用する。
- 培養期間が長くなると、感受性菌でも菌糸がわずかに生育する場合があるため、培養日数は菌糸生育の有無を明確に判定できる4日が最適である。
- 佐賀県では本法によりAZ剤耐性菌の広範囲かつ高率な分布を確認したため、本病防除において当該薬剤の使用を中止し、他系統薬剤を中心とした防除を指導している。その後も本法による耐性菌のモニタリングを継続中である。
具体的データ
その他
- 研究課題名: イチゴ炭疽病の防除対策の確立
- 予算区分: 国庫(発生予察事業)
- 研究期間: 2007~2008年度
- 研究担当者: 稲田稔、古田明子、山口純一郎
- 発表論文等: 植物病原菌の薬剤感受性検定マニュアル II (2009)、P96~99