要約
厚層多腐植質黒ボク土畑は、淡色黒ボク土畑や腐植質黒ボク土畑に比べて、硝酸態窒素吸着能が高いことにより、施肥窒素溶脱の遅延効果がある。
- キーワード: シラス台地、陰イオン交換容量(AEC)、硝酸態窒素、黒ボク土
- 担当: 鹿児島農開セ大隅支場・環境研究室
- 代表連絡先: 電話0994-62-2001
- 区分: 九州沖縄農業・生産環境(土壌肥料)
- 分類: 研究・参考
背景・ねらい
大隅半島中央部の笠野原台地は広く厚層多腐植質黒ボク土が、鹿屋原台地は西部に淡色黒ボク土と腐植質黒ボク土、東部に厚層多腐植質黒ボク土が分布する。潜在的な窒素負荷発生量は笠野原台地が鹿屋原台地に比べて圧倒的に多いが、両台地周縁湧水のモニタリングによる硝酸態窒素濃度は約7.0mg/Lで、ほぼ同等と推察される。これは、両台地における地下水面までの土壌の硝酸イオン吸着能が関与すると考えられる。
そこで、両台地に分布する累積性火山灰土壌における施肥窒素の溶脱特性と、シラス層上位の各層における陰イオン交換容量から潜在的な硝酸態窒素吸着可能量を推定し、両台地畑における施肥窒素が地下水水質に及ぼす影響解明に資する。
成果の内容・特徴
- 土壌中では低濃度で化学形態が変化しない臭化物イオンを硝酸態窒素のトレーサとした実測値の解析から、厚層多腐植質黒ボク土は、淡色黒ボク土に比べて施肥窒素の下層土への移動が著しく遅いと推察できる(図1)。
- 厚層多腐植質黒ボク土畑における主要層位土壌の陰イオン交換容量は、淡色黒ボク土畑と腐植質黒ボク土畑に比べ全体的に多く、特にアカホヤは3.9倍、埋没腐植は4.7~19倍と顕著に高かった(表1)。
- 陰イオン交換容量、層厚、仮比重から求めた地下水面までの全層位土壌の硝酸態窒素吸着量は、10a当たり厚層多腐植質黒ボク土畑が394kg、淡色黒ボク土畑が162kg、腐植質黒ボク土畑が133kgと推定できる(図2)。
成果の活用面・留意点
- この情報は、畑地における陰イオン吸着能の評価により、当該地域に導入する環境負荷低減技術選定の基礎資料となる。また、地下水硝酸態窒素移動シミュレーションモデルの構築などにおいて、基礎データとして活用できる。
- 畑地への施肥窒素の動態は、臭素(臭化カリウム供試)を10a当たり20kg施用後、ポーラスカップによって1m深の土壌溶液を毎月1回採水した。
- 厚層多腐植質黒ボク土畑は3地点、淡色黒ボク土畑は2地点、腐植質黒ボク土畑は1地点をサンプリングした。サンプリングした厚層多腐植質黒ボク土畑と淡色黒ボク土畑における各々の土壌のpHとAECは、ほぼ同等の値を示す。
- 陰イオン交換容量の測定は、0.002MBaCl 2溶液(pH調整なし)による方法で行った
(0.05MBaCl 2飽和→0.002MBaCl 2平衡→0.005MMgSO 4浸出)。 - 土壌生産力分級図から、笠野原台地に分布する厚層多腐植質黒ボク土と腐植質黒ボク土は6,158haと117ha、鹿屋原台地に分布する厚層多腐植質黒ボク土、腐植質黒ボク土、淡色黒ボク土はそれぞれ891ha、479ha、197haの面積と試算される。
具体的データ
その他
- 研究課題名: シラス台地上の畑作地帯における畜産由来有機性資源の循環利用に伴う環境負荷物質の動態解明と環境負荷低減技術の開発
- 予算区分: 指定試験
- 研究期間: 2006~2010年度
- 研究担当者: 肥後修一、脇門英美