要約
種豚由来ガラス化保存胚を長距離輸送して胚移植により産子を生産し、さらに産子については子豚登記を取得することができる。このことから、受精卵の形でも種豚の流通は可能である。
- キーワード: 豚、ガラス化、胚移植、長距離輸送、種豚導入
- 担当: 佐賀畜試・中小家畜部・中小家畜研究担当係
- 代表連絡先: Tel:0954-45-2030
- 区分: 九州沖縄農業・畜産・草地(大家畜)
- 分類: 行政・参考
背景・ねらい
養豚経営における種豚の導入は現在生体導入で行われているが、この場合導入元が保有する疾病(病原菌)が生体を通じて侵入してしまうリスクがある。一方で、病原体に感染する危険性が最も低い胚(受精卵)のガラス化保存技術が(独)家畜改良センター(以下同センター)により開発され、この技術の利用により、農場内への疾病侵入の危険性が最も少ない形で種豚を導入することができ、安全かつ低コストでの種豚の流通が期待される。
そこで、同センターで作出されたデュロック種系統豚「ユメサクラ」の雌豚由来のガラス化保存胚を、宅配便を利用して佐賀県畜産試験場(以下当試験場)に輸送し、胚移植による産子生産の実証を行う。
成果の内容・特徴
- 移植に用いる胚は同センター飼養の「ユメサクラ」6頭から1回の採取で得られた胚盤胞期(BL)~拡張胚盤胞期(Ex)の体内生産胚とする。胚はトリプシンによる洗浄の後、同センターが開発したガラス化保存技術(Micro Volume Air Cooling:MVAC法)でガラス化保存する(図1)。
- 作出したガラス化保存胚は同センターのある福島県から宅配便を利用して約1,500km離れた当試験場へ輸送し、加温後1段階希釈により凍結保護物質の除去を行った後、外科的手法により移植する(図2)。
- 受胚豚6頭に移植したところ3頭が受胎・分娩し、それぞれ3頭、2頭、3頭の合計8頭の「ユメサクラ」産子の分娩例を得る(表1)。
- 分娩した8頭の平均生時体重は1.10±0.22kgである。また離乳頭数は合計6頭であり、哺育期間中の育成率は75%となる(表2)。
成果の活用面・留意点
- 輸送容器は消毒薬を容器表面に軽く噴霧塗布したうえで搬入している。
- 業者によっては輸送容器の配送をしないところもあり、事前に確認が必要である。
- 分娩した8頭のうち3頭については、種豚登録する目的から(社)日本養豚協会の規定に基づいて子豚登記を取得したところであり、さらに育成を経て現在種豚登録申請中である。
- 将来的に生産現場で受精卵移植技術を導入するには、平均産子数の向上や非外科的な移植技術についての検討が必要である。
具体的データ
(大曲 秀明)
その他
- 研究課題名: 豚優良遺伝資源保存技術向上および繁殖技術確立試験
- 予算区分: 県単
- 研究期間: 2009~2010年度
- 研究担当者: 大曲 秀明、稲富 太喜夫、永渕 成樹