九州沖縄農業研究センター

九州沖縄農業試験研究の成果情報

乳酸菌バクテリオシンを主成分とする乳房内注入剤の乳房炎治療効果は高い

要約

乳酸菌バクテリオシンのナイシンAを主成分とする新開発の乳房内注入剤を乳房炎牛の乳房内に注入すると、治癒症例では乳房内の細菌が死滅し、炎症反応が見られなくなる。

  • キーワード:バクテリオシン、ナイシンA、乳房内注入、乳房炎
  • 担当:福岡農総試・家畜部・乳牛チーム、久留米大学医学部、ADEKAクリンエイド、オーム乳業、熊本製粉、九州大学農学研究院
  • 代表連絡先: Tel:092-925-5232
  • 区分:九州沖縄農業・畜産・草地(家畜)
  • 分類:技術・参考

 背景・ねらい

本県における乳牛の疾病の中で乳房炎の発生割合は20%と多い。乳房炎は抗生物質の静脈内投与や乳房内注入によって治療されるが、抗生物質の多用は薬剤耐性菌の出現などによる環境や生乳の汚染が懸念されることから、代替剤の開発が望まれている。近年、乳酸菌が生産する乳酸菌バクテリオシンは、殺菌効果が強く、耐性菌ができにくいこと、ヒトや動物の胃腸内で分解されるなど安全性が高い抗菌性物質として動物衛生分野への応用が期待されている。
そこで、乳酸菌バクテリオシンの内、特に食品安全性の高いナイシンAを主成分とする乳房内注入剤を開発し、その効果を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 開発した乳房内注入剤はシリンジ状の形態で、主な成分は殺菌成分のナイシンAおよび油性軟膏からなる(図1、表1)。
  • 乳房内注入剤の治療成績は、潜在性乳房炎の20症例中12症例(60%)が治癒し、臨床型乳房炎では7症例中6症例(86%)が治癒した(表2)。
  • 乳房内注入剤を潜在性乳房炎の乳房に注入すると、治癒した症例では乳汁中の細菌が死滅し、乳汁体細胞数は一過性に増加した後、10万個/ml以下となり、炎症が消失する(図2)。
  • 乳房内注入剤を臨床型乳房炎の乳房に注入すると、治癒した症例では乳汁中の細菌が死滅し、乳汁体細胞数は、2桁以上低下して10万個/ml以下となり、炎症が消失する(図3)。

成果の活用面・留意点

  • 新奇抗菌性物質の家畜用消毒剤への応用法としての新たな科学的知見である。
  • 搾乳前に実施する乳頭消毒における食品安全性の高い乳房内注入剤として動物用医薬品の認可を受けた後、普及を図る。

具体的データ

図1

表1

表2

図2

図3

 

 その他

  • 研究課題名:乳酸菌バクテリオシンを利用した乳房炎予防・治療法
  • 予算区分:実用技術
  • 研究期間:2006~2008年度
  • 研究担当者:北崎宏平、梅田剛利、森永結子、馬場武志、古賀康弘、桑野剛一(久大医)、福田浩章(ADEKAクリーンエイド)、河田恵美(ADEKAクリーンエイド)、高巣祐介(ADEKAクリーンエイド)、竹花稔彦(ADEKAクリーンエイド)、古賀祥子(オーム乳業)、永利浩平(オーム乳業)、島田信也(オーム乳業)、農新介(オーム乳業)、林龍鶴(熊本製粉)、前田幸子(熊本製粉)、川崎貞道(熊本製粉)、善藤威史(九大院農)、中山二郎(九大院農)、園元謙二(九大院農)
  • 発表論文等:福岡県ら「乳房炎治療剤」特願2009-121318