要約
経腟採卵により回収されたウシ卵子を30%エチレングリコール+1.0M ショ糖を含む溶液で超急速ガラス化保存したところ、その後の体外胚生産において無処理区と同等な胚盤胞発生率が得られる。また得られた拡張期期胚盤胞は再ガラス化保存することが可能であり、移植後に受胎例を確認できる。
- キーワード:ウシ、経腟採卵、卵子、超急速ガラス化保存、体外胚、再ガラス化保存
- 担当:佐賀畜試・家畜育種研究担当
- 代表連絡先: Tel:0954-45-2030
- 区分:九州沖縄農業・畜産・草地(家畜)
- 分類:技術・参考
背景・ねらい
ウシの優良遺伝資源保存の手段は、精子もしくは胚の凍結保存が主流である。そのため、種雄牛造成をはじめ家畜の改良を行う場合においては、交配種雄牛を決定した後に改良目的にあう高能力の雌牛を選抜し、人工授精もしくは胚移植により素牛を生産する手法が取られている。
一方、経腟採卵技術の改良により育成牛、妊娠牛を含む高能力雌牛から数多くの卵子を採取する体系が確立しつつある。この卵子を体外受精前に保存することが出来れば雌側からの改良がより効率的に行えるが、保存後の卵子の生存性および体外受精後の胚盤胞発生率が低いため、未だに実用化には至っていない。
そこで、経腟採卵で採取したウシ卵子を体外受精前に長期間保存し、発生胚及び再ガラス化保存した胚の移植を試みる。
成果の内容・特徴
- 未成熟卵子(未成熟区)及び成熟卵子(成熟区)をMounted Cryoloop(φ0.5-0.7mm)を支持体として30%エチレングリコール+1.0M ショ糖を含む溶液で超急速ガラス化保存すれば、その後の体外胚生産において無処理区と同等な胚盤胞発生率が得られる(図1、図2、表1、図3)。
- 超急速ガラス化保存した卵子由来の体外胚は、Mounted Cryoloopを支持体として拡張期に20%エチレングリコール+20%グリセリン+0.3M ショ糖+0.3Mキシロース+3%ポリエチレングリコールを含む溶液で再ガラス化保存することが可能である(図1、図2、図4、表2)。
- 超急速ガラス化保存した卵子由来の体外胚は、新鮮胚移植及び再ガラス化保存後の胚移植ともに受胎例を確認できる(図5、表2)。
成果の活用面・留意点
- 支持体はクライオチューブに多数保管することが可能であり、個体識別も容易である。また、同一雌牛由来のガラス化保存卵子を複数回分まとめて体外受精処理すれば、効率的な胚生産が可能となる。
- 一本の支持体に保存する卵子は5個以下にする方が望ましい。そのため保存卵子数の増加に対応できる他の支持体の検討が必要である。
- 雌牛の優良遺伝資源保存の手段として活用できる。
- ガラス化保存卵子の加温希釈は、0.5M、0.25M、0.125Mの各ショ糖液で5分ずつ段階希釈し、一方ガラス化保存胚の加温希釈は0.5M、0.25Mの各ショ糖液で5分ずつ段階希釈して行った。
具体的データ
その他
- 研究課題名:牛受精卵の農家実証及び関連技術の実用化試験
- 予算区分:県単
- 研究期間:2003~2009年度
- 研究担当者:詫摩哲也