九州沖縄農業研究センター

九州沖縄農業試験研究の成果情報

チャの有機栽培が地表性捕食者の個体数と種多様性に及ぼす影響

要約

チャの有機栽培は、アリ、ゴミムシ、クモ類などの地表性捕食者の個体数や種多様性を増加させる。特にアリ類は個体数・種数ともに安定して多く、中でもオオハリアリとウロコアリは有機栽培の指標種として有望である。

  • キーワード: チャ、有機栽培、生物多様性、捕食者、指標種、アリ、ゴミムシ、クモ
  • 担当: 鹿児島農総セ茶業部・環境研究室
  • 代表連絡先: Tel:0993-83-2811
  • 区分: 九州沖縄農業・茶業
  • 分類: 研究・参考

背景・ねらい

現在、世界規模で問題となっている生物多様性の減少は、我々が生態系から受けている様々な恩恵の質や量を低下させる。この生物多様性の消失は農業生態系においても進行しており、チャ園においても生物種の保全に配慮した栽培管理技術の開発が求められている。そのような栽培管理技術として、鹿児島県に比較的多いチャの有機栽培に着目し、有機栽培が地表性捕食者の個体数や種多様性に及ぼす影響を評価する。また、チャの有機栽培の指標となる種を選抜する。

成果の内容・特徴

  • 有機栽培チャ園では、アリ類の種数や個体数が地域(平野部と山間部)や年次を問わず安定して多い(図1)。有機栽培では、慣行栽培に比べて個体数は5倍以上、種数は約1.5倍捕獲される。
  • 有機栽培がゴミムシ類に与える影響は、平野部の南薩地域と山間部の霧島地域とでは異なる。種数への影響は南薩地域では認められないが、霧島地域ではプラスの影響がみられる(図2右)。捕獲数への影響は両地域とも有意ではない(図2左)。
  • クモ類の個体数は有機栽培チャ園に多い。一方、種数は有機栽培チャ園と慣行栽培チャ園の間に差がない(図3)。
  • ウロコアリとオオハリアリは南薩(平野部)、霧島(山間部)のどちらの地域にも分布し、ほぼ有機栽培チャ園のみで捕獲される。このため、両種は有機栽培チャ園の指標種として有望である(図4)。

成果の活用面・留意点

  • 調査は平野部の南薩地域(5地点)と山間部の霧島地域(4地点)で2年間行った。各地点から有機栽培チャ園と慣行栽培チャ園を1ほ場ずつ(合計18ほ場)選定し、各ほ場の樹冠下の地表にピットフォールトラップ(直径12cm、深さ6cm)を5個ずつ設置した。トラップは10日間隔で回収し、捕獲された捕食者の種名と数を調べた。
  • ピットフォールトラップ調査は、様々な栽培管理手法が土壌動物の生物多様性に及ぼす影響の評価に利用できる。
  • 地表性捕食者は、土壌の食物連鎖ピラミッドの頂点部分に位置しているため、これらの多様性や個体数は土壌の栄養循環の評価に利用できる。
  • 有機栽培茶園の指標種候補に挙がったウロコアリはトビムシ食の特異なアリである。したがって、このアリが多いほ場は有機物分解者であるトビムシ類が多いことを示唆している。

具体的データ

図1

図2

図3

図4

(末永 博)

その他

  • 研究課題名: 農業に有用な生物多様性の指標及び評価手法の開発
  • 予算区分: 委託プロ(生物多様性)
  • 研究期間: 2008~2012年
  • 研究担当者: 末永 博