九州沖縄農業研究センター

九州沖縄農業試験研究の成果情報

笑気ガス(亜酸化窒素)処理によるユリの3倍体または4倍体種間雑種の作出

要約

シンテッポウユリを種子親、アジアティックハイブリッドユリを花粉親とした種間交雑において、交雑前の花粉または胚嚢、交雑後の受精卵に染色体倍加のための笑気ガス処理を行うことにより、2倍体に加えて3倍体または4倍体種間雑種を作出できる。

  • キーワード: ユリ、種間交雑、笑気ガス処理、3倍体、4倍体
  • 担当: 佐賀農業セ・野菜・花き部・花き育種研究担当
  • 代表連絡先: Tel:0952-45-2141
  • 区分: 九州沖縄農業・野菜・花き
  • 分類: 研究・参考

背景・ねらい

近年のユリ品種は、多様な花色や花形のものがみられるが、これらは球根養成に長期間を要するため生産コストが高い。これまでに、小球開花性に優れる多様な花色のユリ品種育成を目的として、小球開花性に優れるシンテッポウユリを種子親、多様な花色を有するアジアティックハイブリッドユリを花粉親とした種間交雑を行ったが、得られた雑種個体は全て両親の中間的な形質を示した。そこで、種間雑種の形質の多様化を図るため、種間交雑に細胞分裂を阻害する作用をもつ亜酸化窒素(以下笑気ガス)処理を組み合わせることにより、3倍体や4倍体等の倍数性の異なる種間雑種を作出する。

成果の内容・特徴

  • 花粉への笑気ガス処理では、アジアティックハイブリッドユリの花粉生育ステージが減数分裂第1中期に当たる花蕾長15~20mmの花蕾を有する植物体に笑気ガスを6気圧で48時間処理すると、1倍性花粉に混在する2倍性花粉を獲得できる(図1、図2)。
  • 笑気ガス無処理の交雑により得られた雑種個体は全て2倍体であるのに対し、2倍性花粉率が50%以上のアジアティックハイブリッドユリ花粉を無処理のシンテッポウユリに交雑すると、2倍体に加えてその他の倍数体の獲得がみられる(表1、図3)。
  • 胚嚢への笑気ガス処理では、シンテッポウユリの胚嚢母細胞増殖期に当たる花蕾長1~3mmの花蕾を有する植物体に笑気ガスを6気圧で48時間処理し、開花時にアジアティックハイブリッドユリの無処理花粉を交雑すると、2倍体に加えて3倍体および4倍体の獲得がみられる(表1、図3)。
  • 受精卵への笑気ガス処理では、受精卵細胞分裂期に当たるシンテッポウユリとアジアティックハイブリッドユリとの交雑から6~13日後の子房を有する植物体に笑気ガスを6気圧で72時間処理すると、2倍体に加えて4倍体の獲得がみられる(表1、図3)。

成果の活用面・留意点

  • 供試品種は、シンテッポウユリ「オーガスタ」、「ジュリアス」、「白鳥」、「雷山」の4品種、アジアティックハイブリッドユリ「オレンジ」、「コリーナ」、「ルノアール」、「レガタ」、「ロリポップ」の5品種とした。
  • 笑気ガス処理には、処理する植物体が入る耐圧性密閉容器が必要である。また、笑気ガス処理条件は、種内交雑において効率的に3倍体や4倍体が得られた圧力(6気圧)および時間(花粉および胚嚢処理:48時間、受精卵処理:72時間)とした。
  • 笑気ガス処理花粉との交雑では、1倍性花粉が優先的に受精するため、2倍性花粉率の高い花粉を交雑に用いる。受精卵処理では、4倍体が得られたのは交雑から13日後の子房への処理であったため、この時期の子房を中心に処理する。
  • 得られた雑種個体の内、片親のゲノムを2セット有する3倍体は片親の形質を強く発現すること、また、複2倍体である4倍体は種子繁殖性を有することが期待できる。

具体的データ

図1

図2

表1

表3

(佐賀県農業試験研究センター)

その他

  • 研究課題名: 新染色体倍加法を用いた種子繁殖および早期開花性ユリの開発
  • 予算区分: 実用技術
  • 研究期間: 2007~2009年
  • 研究担当者: 髙取 由佳、宮﨑 雄太、大藪 榮興、岡崎 桂一(新潟大農)