野菜花き研究部門

緑色

緑色花弁に含まれる色素

葉や茎が緑色に見えるのは、クロロフィルと呼ばれる緑色の色素が細胞に貯まっているからです。クロロフィルは、植物が光合成をするさいのエネルギーの元となる太陽の光を吸収する役割を果たしています。

多くの植物では、つぼみの時にわずかにクロロフィルを貯めていますが、花が発達する過程でクロロフィルは消失し、開花した時点ではほとんど蓄積していません。

黄色や赤色、青色など鮮やかな色にクロロフィルの緑色が重なると、茶色や小豆色のような濁った色になってしまいます。葉の緑色を背景に、鮮やかな色を発色して目立ち、ポリネーター(花粉媒介者)を遠くから呼ぶためには、クロロフィルを貯めないことが重要です。そのために、花にはクロロフィルを貯めない仕組みが働いています。

花きの品種の中には、花弁が緑色の品種があります。最近特に人気上昇中で、バラ(図119)やカーネーション(図117)、キク(図116)、ラン(図118)トルコギキョウなど多くの品目で緑花の品種が育種されています。これらの花き品目の原種には緑花はありません。緑花の品種は、クロロフィルを花弁に貯めるようになった変異体です。自然界でも緑花の変異体は低い確率で起こります。しかし、緑色の花は目立たないため、ポリネーターを引きつけることが出来ず、受粉が上手くいきません。そのため、緑花の変異体は子孫を残すことができず、やがて消えてしまいます。一方、育種の現場では、緑花の変異は育種家によって選抜され、品種として育てられます。

図116 緑花キク品種「フィーリンググリーン」
図117 緑花カーネーション品種「ラフランス」
図119 緑花バラ品種「スーパーグリーン」
図118 (上)セロジネ・フラグランス (下)カンラン品種「銀鈴」

<花弁にクロロフィルがたまる仕組み>

図123 葉、緑色花、白色花の生合成、分解、クロロフィル量

では、緑の花はどうしてクロロフィルを貯めるようになったのでしょうか。キクやカーネーション、トルコギキョウで調べたところ、白い花弁ではクロロフィルを分解する酵素遺伝子の発現が葉よりも高いことがわかりました(成果情報1成果情報3)。一方、クロロフィルの生合成酵素遺伝子は発現量がきわめて低いことから、生合成されるクロロフィル量は少ないと考えられます。花弁では、生合成量を上回って分解され、クロロフィルが貯まらない状態が作られているのです(図123)

次に白色花弁と緑色花弁で比較すると、分解酵素遺伝子の発現には大きな違いはありませんでした。どちらも葉より高発現し、分解活性が高い状態であると考えられました。一方、生合成酵素遺伝子は緑色花弁で高発現していたことから、緑色花弁では分解を上回る量のクロロフィルが生合成され、蓄積するようになったと考えられます(図123)。緑色花弁は、葉に比べるとクロロフィル量は少なく、約10分の1程度です。これは、緑色花弁の分解活性が葉より高いことが要因のひとつと考えられます。

<クロロフィルの生合成を調節する仕組み>
生合成や分解に働く酵素遺伝子の発現解析の結果から、白色花弁には「クロロフィルの生合成を抑制する因子が働いている可能性」または「生合成を活性化する因子が働いていない可能性」が考えられました。このような因子があるとすれば、その因子の発現量はクロロフィルの量と正(または負)の関係があると考えられます。

このような因子を求めて、キクの白色花弁(クロロフィルをほとんど含まない)、緑色花弁(クロロフィルをわずかに含む)、および葉(クロロフィルを多量に含む)で発現している遺伝子の中から、クロロフィル量と同調して発現している遺伝子を探しました(成果情報3)。その結果、CONSTANS-like 16 (COL16)と呼ばれる転写因子の遺伝子発現がクロロフィルの量と正の相関があり、葉や緑色花弁で高く、白色花弁ではほとんど発現していないことがわかりました。

COL16の働きを明らかにするために、遺伝子組換えが容易なペチュニアを用いて実験を行いました(成果情報4)。COL16遺伝子をペチュニアに導入し、過剰に発現させたところ、花弁のクロロフィル生合成酵素遺伝子の発現が上昇し、クロロフィル量が増加しました(図47)。このことから、COL16がクロロフィルの生合成を活性化し、クロロフィルの蓄積量を増加させる作用があることが確認できました。カーネーションやトルコギキョウ、ペチュニアでも、キク同様COL16遺伝子の発現量は、白色花弁では低く、緑色花弁や葉で高い傾向にありました。したがって、COL16が花弁においてクロロフィルの生合成を活性化する作用は、植物に共通の仕組みなのではないかと考えられました。白花品種ではCOL16遺伝子の発現が極めて低く、このことがクロロフィルの蓄積量が少ない要因のひとつになっていると考えられます。

図47 写真(左)非形質転換体 (右)COL16過剰発現体
図48 写真(左)非形質転換体 (右)ANAC046機能抑制体

<クロロフィルの分解を調節する仕組み>
葉にはカロテノイドとクロロフィルが一定量含まれています。どちらも光合成に必須の色素だからです。秋の紅葉は、葉の老化によりクロロフィルが分解した結果、残ったカロテノイドのために黄色く見えるのです。赤い紅葉は、カロテノイドに加えて表皮細胞に赤いアントシアニンが合成されることによります。

花の場合には葉とは異なり、成長の初期の段階でクロロフィルの分解が起こります。このときカロテノイドの分解も一緒に起こります。花弁の発達とともに、新たにアントシアニンやカロテノイドの色素が作られ、青や赤、黄色など、鮮やかな花色を発色します。新たに色素が作られない場合は、白色の花色になります。

このように、クロロフィルの分解は組織や発達段階によって異なる制御を受けていますが、どのような仕組みで制御されているのかは、あまりよくわかっていません。

農研機構では、クロロフィル分解の制御の仕組みを明らかにするため、モデル植物であるシロイヌナズナを用いて研究を行いました(成果情報2)。分解酵素遺伝子のプロモーター領域に結合し、その発現を調節する転写因子をイーストワンハイブリッドという方法で探索しました。その結果、ANAC046と呼ばれる転写因子が、複数の分解酵素プロモーター領域に結合することがわかりました。ANAC046遺伝子の発現は、花弁や老化葉でシロイヌナズナにANAC046遺伝子を導入し過剰に発現させると、クロロフィル分解酵素遺伝子の発現が活性化し、葉におけるクロロフィル分解が促進されました。また、遺伝子導入でペチュニアのANAC046の働きを抑制すると、クロロフィル分解酵素遺伝子の発現が抑制され、花弁のクロロフィル量が増加した形質転換体が得られました(図48)。このことから、ANAC046はクロロフィル分解酵素遺伝子の発現を活性化する働きがあり、花弁ではANAC046の活性が高いことがクロロフィル分解活性が高い要因のひとつになっていると考えられました。

クロロフィルの生合成や分解を調節する転写因子はCOL16やANAC046以外にもいくつか報告されています。クロロフィルは植物が生きていくうえで重要な色素なので、生合成や分解は複数の転写因子の協同作業により厳密に調節されていると考えられます。現在は、そのほんの一部が明らかになっているに過ぎません。

関連する農研機構成果情報

専門家向け参考文献

  • Ohmiya, A., Sasaki, K., Nashima, K., Oda-Yamamizo, C., Hirashima M., Sumitomo, K. (2017) Transcriptome analysis in petals and leaves of chrysanthemums with different chlorophyll levels. BMC Plant Biol. 17: 202.
  • Oda-Yamamizo, C., Mitsuda, N., Ohmiya, A. (2017) Heterologous expression of chimeric repressor of Arabidopsis ANAC046 delays chlorophyll degradation in petunia flowers Plant Mol. Biol. Rep. 35: 611-618.
  • Oda-Yamamizo, C., Mitsuda, N., Sakamoto, S., Ogawa, D., Ohme-Takagi, M., Ohmiya, A. (2016) The NAC transcription factor ANAC046 is a positive regulator of chlorophyll degradation and senescence in Arabidopsis leaves. Sci. Rep. 6: 23609.
  • Ohmiya, A., Hirashima, M., Yagi, M., Tanase, K., Yamamizo, C. (2014) Identification of genes associated with chlorophyll accumulation in flower petals. PLoS ONE 9: e113738.

一般・専門家向け参考書

  • 三室 守編集 「クロロフィル -構造・反応・機能-」 裳華房