野菜花き研究部門

カロテノイド

カロテノイドは炭素が40個繋がった脂肪族炭化水素に分類される化合物で、これまでに自然界で700種類以上のカロテノイドが見つかっています。ほとんどのカロテノイドは黄色ですが、ニンジンに含まれるβ-カロテンやトマト果実に含まれるリコペンのように橙色や赤色のカロテノイドもあります。また、黄色のカロテノイドが高濃度に蓄積することで橙色になる場合もあります(例:マリーゴールドの花、図25)

図25 マリーゴールドの花色とカロテノイド量。カロテノイド量の違いによって花の色の違いが生まれています

カロテノイドは植物が光合成をする際に必要な化合物なので、全ての植物の葉や茎に含まれています。したがって、どの植物にも葉や茎には、光合成の時に必要なカロテノイド(ルテイン、ネオキサンチン、ゼアキサンチン、アンテラキサンチン、β-カロテンなど)が共通に含まれています。一方、花に含まれるカロテノイドは量も種類も様々で、同じ植物種でも品種によって異なり、それが淡黄色~黄色~橙色の幅広い花色を作る要因となっています。

カロテノイドの蓄積形態も葉と花では異なっています。葉では、クロロプラスト(葉緑体)に蓄積していますが、花弁ではクロモプラスト(有色体)に蓄積しています。花弁のカロテノイドは脂肪酸とエステル結合した状態で蓄積していますが、葉ではエステル結合されていない遊離の状態で蓄積しています。

図107 カロテノイドの生合成経路

<カロテノイドの生合成>図107
カロテノイドの生合成はイソプレノイドという5個の炭素が繋がった化合物を出発物資として、重合を繰り返して40個の炭素が繋がった骨格(脂肪鎖)が形成されます。この脂肪鎖に不飽和化酵素の働きで二重結合が導入されると、黄色を呈するようになります。リコペンまでは直鎖状の構造をしていますが、さらに生合成が進むと両端の6個の炭素により環が形成されます。ここで生合成経路は大きく二つに分かれ、両端にβ-イオノン環が形成される場合と(β,β-カロテノイド;図107の右側のゼアキサンチンに至る経路)、β-イオノン環とα-イオノン環がひとつずつ形成される場合(β,ε-カロテノイド;図107の左側のルテインに至る経路)があります。さらに、環に水酸基(-OH)やエポキシ基(-O-)が付いたり、様々な修飾が施され、多様なカロテノイドが生まれます。水酸基が付く前の炭素と水素だけで構成されているカロテノイドを、カロテン類と呼びます。炭素と水素のほかに水酸基やケトン基などの酸素を含む官能基が付いたカロテノイドを、キサントフィル類と呼びます。

※キサントフィル(キサント:黄色い+フィル:葉)秋の黄葉から最初に取り出されたことからこのように呼ばれています。

<カロテノイドの分解>図107b
カロテノイドが分解されると、その分解産物が植物や動物にとって重要な生理作用を発揮する場合があります。β-カロテンやα-カロテン、β-クリプトキサンチンなど、一部のカロテノイドは動物の体内で分解されるとビタミンAに変換されます。植物ホルモンのアブシジン酸は、キサントフィルの1種のネオキサンチンやビオラキサンチンが分解されて生成します。また、最近ストリゴラクトンという物質が植物の枝分かれを抑制することがわかり、新しい植物ホルモンの仲間入りをしましたが、これもカロテノイドの分解産物です。また、カロテノイドの分解産物が花の香りや色の成分を構成している場合もあります。

カロテノイドを分解する酵素はカロテノイド酸化開裂酵素(CCD)とよばれ、複数の種類が存在します(図107b)。NCED(9-cis-epoxycarotenoid dioxygenase)と呼ばれるグループはアブシジン酸の生成に、CCD7とCCD8はストリゴラクトンの生成に関与しています。CCD1はβ-イオノンやシュードイオノンなどの香気成分の生成に、CCD4はβ-シトラウリンやクロセチンなどの色素の生成に関与しています。

図107b カロテノイドを分解する酵素と分解産物