九州沖縄農業研究センター
第1章 高収益集約野菜・花きを導入するための複合技術体系の確立
1. 野菜・花き作導入による高収益生産技術の確立
1.沖縄に適したイチゴ品種及び苗の特性解明
- 品種では、収量面、品質面を総合して、促成用品種‘さちのか’が最も適している。
- 冬に低温処理を行って親株の休眠を覚醒させれば、現地でのランナー発生はおう盛である。これらのランナーから8月中旬までに苗を採れば、11月初
めの定植までに、クラウン部の太さは、目標水準である直径10mm以上に生長する。現地では、定植までの間苗を植えておく仮植床で頂花房が分化する時期は
10月上・中旬で、これらの苗を11月初めに定植した後、順調な生育が見込める。従って、沖縄でも自前の苗生産が可能である。
- 効率的な苗生産には、親株を2月に定植し、5月中旬から6月上旬に親株から発生する子苗を採苗・定植する「二段採苗法」が有効である。
2.沖縄に適したイチゴの短期栽培技術の確立
- 促成用の2品種(とよのか、さちのか)ともに、第1腋花房(頂芽に続いて花芽に変わったすぐ下の側芽)まで花芽を分化した苗を11月初めに定植するのが、収量、品質ともに良好であった。また、定植前の短日夜冷処理によって花芽分化を促進することで、年内出荷が可能である。
3.沖縄における種なしスイカの生産技術の確立
- 軟X線の照射によって発芽能力を無くした花粉を用いて、沖縄での着果や果実の肥大を検討した結果、早熟作型となる12月の交配ではほぼ9割が着果し、2月には収量、品質とも良好な果実が収穫できる。また、3月交配の促成作型でも高品質の種なしスイカが生産できる。
- 花粉の短期保存の場合には乾燥剤の入ったシャーレに入れ、冷蔵庫に保存するのがよい。また、長期の保存には酢酸エチルに浸せきして、摂氏-20度での保存が有効である。
4.花きの高収益安定生産技術の確立
- カーネーションの一斉開花技術
- 現地でも4月中旬が開花の最盛期となり、需要期の一斉開花が可能である。また、電照により十分な茎長が確保できる。品種は‘アンソニー’が有望である。
- 現地で昨年7月に定植した苗は、夏越しが可能であった。
- シンテッポウユリの早期開花技術
- 抽台後の温度、日照は抽台後の花芽の分化を大きく左右する。
- 夜間の温度が摂氏20度以上では種子の発芽が抑制される。
- 春および夏に播種して育てた苗を用いて、夏季に低温処理(摂氏5度)を行っておくと、冬季の高温(摂氏25~30度)と長日(16時間日長)処理が2、3月からの開花に効果的である。
- ユーチャリスの開花制御技術
- 7月からの苗を低温処理(摂氏20度)すると開花が促進され、9月下旬からの収穫が可能になる。
- 養成株を8月から低温処理(摂氏23度)すると開花が促進され、10月下旬からの収穫が可能になる。現地での開花最盛期は1~2月である。この開花を4~5月まで遅らせるためには、前年に9月まで低温処理した株を冬季に高温処理(夜間摂氏25度)するのが有効である。
5.現地導入野菜・花きの生産安定化技術の確立
- 平年の温度条件では自然分化苗と短日夜冷処理苗を組み合わせることによって12月から4月まで収穫でき、この場合には3.0~3.5t/10aの果実収量が可能である。
6.生産安定のための病害虫防除技術の確立
- ミカンキイロアザミウマは苗を臭化メチルで薫蒸することで駆除できる。この処理による定植後の生育への悪影響はない。
- 苗に寄生したミナミキイロアザミウマに対して摂氏45~47度で5分程度の温湯しんせき処理が有効である。
- 現地でのイチゴ育苗において、ミカンキイロアザミウマの発生は認められていない。
- 花きではアザミウマ類による花への加害、また、カーネーションでハダニの発生が認められた。
- ユーチャリスを加害するオモトアザミウマにはスピノサド顆粒水和剤、有機リン系薬剤、クロロニコチル系薬剤が有効である。イチゴ栽培ではうどんこ病、たんそ病、疫病が要注意病害である。これらの病害は育苗期からの防除管理で抑制できる。
- イチゴ病害虫の年間防除体系が確立された。
2. 野菜・花き導入のための栽培環境改善技術の確立
- 有機物施用による土壌物理性改善技術
- 島尻マージ土壌では有機物(鶏糞堆肥)を3t程度施用した場合に、風乾した時に最も硬くなる。また、堆肥を施したときの硬くなり易さは、同じ種類
の土壌でも、構成する土壌粒子の大きさや分布する地域によって異なることがわかった。マージ土壌への有機物施用に際しては、対象ほ場の土性、改善目標を明
確にした上で施用する有機物の種類、量を考えることが重要である。
- 土壌破砕耕による土壌膨軟化技術
- 現地バレイショ栽培農家のほ場での土壌破砕処理は、土壌物理性の改善、バレイショの生育、収量向上に有効であった。
- 土壌及び水分の適正管理技術
- ほ場での緑肥作物栽培、不織布で土壌の表面を覆うことは、いずれも表土の流出に有効である。
- サトウキビ栽培での窒素節減技術
- サトウキビの側枝苗移植栽培、株だし栽培において100~160日タイプの肥効調節型肥料を全量、基肥に使用すると、単位面積あたりの可製糖量を減少させることなく、窒素施用量を現行の60%に節減できる。この技術は、省力化、環境保全の観点から経営的なメリットがある。
第2章 新規野菜・花き導入による高収益営農技術体系の構築
1. 高収益複合栽培技術体系の確立
- ギニアグラスに比べて、クロタラリアをすき込むことにより土壌中の可吸態窒素が増加する。また、L型刃を用いた土壌破砕により、土壌の物理性(硬さ、孔隙)は明らかに改善される。
- バレイショはデジマ、ニシユタカが適品種である。青枯れ病発生の見られるほ場では抵抗性品種メイホウが適する。
- 緑肥のすき込みと土壌破砕処理を組み合わせることでバレイショの生育、収量は向上する。
- バレイショの青枯れ病対策にサトウキビ・緑肥作物との輪作体系が有効である。
- サトウキビー緑肥-バレイショの2年3作体系化でのバレイショ上イモ収量が多い。
2. 導入技術の定着条件と高収益集約作物の流通システムの構築
- 開発技術の定着条件の解明及び支援方策の策定
- 宜野座村では、農地の所有規模が零細(1ha未満)で、村不在の農地所有者が多い。これは現地での農地の継承慣行(相続、生前贈与)が大きく関与している。このことは農地の流動性は高いが、経営規模の拡大にはつながらない可能性がある。
- 宜野座村では親戚間での農地の貸借関係が多いが、土地の賃貸借をルール化することで親戚外からの借地が増えれば、経営規模を拡大につながる。
- 農地の利用集積の推進のために、農業委員会が主導して貸し手、借り手間の意向を調整する方策が必要である。
- 松田地区では、イチゴ収穫期の1~3月はバレイショ、サトウキビ収穫と労力が競合するため、イチゴ導入に当たって雇用確保の方策を考える必要がある。
- 高収益集約作物の流通システムの策定
- 現在、沖縄県で流通しているイチゴはすべて県外からの移入品であり、生食用の市場規模は600t程度と推定された。
- イチゴは傷みやすいので、県内での生産・流通には予冷、コールドチェーン化による鮮度維持が不可欠である。
- 当面のイチゴ栽培規模は2~3aが現実的と思われ、直売所やデパートでの販売が有利である。