九州沖縄農業研究センター

研究の要約

1. 研究年次・予算区分

  • 研究年次: 平成10年度~14年度(5カ年)
  • 予算区分: 地域先導技術総合研究

2. 主任研究者

  • 主査
    九州農業試験場長
    神尾正義(平成10年4月~平成10年7月)
    三上仁志(平成10年7月~平成12年3月)
    小川奎(平成12年4月~平成13年3月)
    九州沖縄農業研究センター所長
    古川嗣彦(平成13年4月~平成15年3月)
  • 副主査
    九州農業試験場作物開発部長
    氏原和人(平成10年4月~平成11年3月)
    松井重雄(平成11年4月~平成13年3月)
    九州沖縄農業研究センター作物機能開発部長
    松井重雄(平成13年4月~平成15年3月)
  • とりまとめ責任者
    九州沖縄農業研究センター作物機能開発部長
    松井重雄

3. 研究場所

九州農業試験場(平成10年4月~平成13年3月)
独立法人農業技術研究機構九州沖縄農業研究センター(平成13年4月~平成15年3月)

4. 研究目的

亜熱帯に属する沖縄県及び鹿児島県の南西諸島地域は、これまでサトウキビを基幹作目とした農業が営まれてきた。しかし、サトウキビ作では、機械化・低コスト化が徐々に進行しているものの依然として労働生産性は低い。また、近年の生産者価格の低迷、相次ぐ台風・干ばつによる収量や品質の低下、農業者の高齢化等によって栽培面積は大幅に減少し、製糖業等の関連産業への打撃も含め、地域経済に多大な影響をもたらしている。このため、近年ではサトウキビ作にさやいんげん等の野菜、キク等の花き類、マンゴー等の熱帯果樹等、高収益集約作物を導入への取り組みが進められつつある。

しかし、これら亜熱帯地域の農業を取り巻く自然環境は、台風や干ばつ等による被害、高温多雨による地力の消耗の激しさ等、他の地域には類をみない過酷な条件にあり、作物生産の大きな阻害要因となっている。このため、高収益営農を成立させるための新規野菜・花きの安定生産技術、持続的な農業生産に不可欠な地力の維持・改善等の作物栽培環境改善技術、これらの新技術を効率的に取り込んだ高収益経営体の展開に向けた支援方策等、亜熱帯地域に向けた総合的な技術開発が求められている。

そこで、本研究では野菜・花き作技術を中心に農林水産省試験研究機関の持つ革新的素材技術を組み合わせ、営農現場に即した体系的栽培技術を確立し、21世紀を担う農業者の安定的営農に資する。

5. 研究方法

6. 研究結果

7. 今後の課題

本研究で取り上げたすべての作目について、沖縄本島での安定生産技術を確立でき、高い評価を得た。得られた成果は、沖縄県及び鹿児島県が実施する地域基幹研究「亜熱帯畑作地域における輪間作等高収益複合化技術」と密接に連携させ、成果発表会、各種農家懇談会、栽培技術マニュアルの刊行と当センターウェブサイトへの掲載などを通じて普及・定着を図ってきた。特に、イチゴ、カーネーション、シンテッポウユリ等の作目は、これまで現地での生産実績のない新規作目であるため、プロジェクト終了後も沖縄県農試、JAおきなわとの協力の下で技術研修機会や直接指導等を実施して農業現場への円滑な普及・定着を図る必要がある。

8. 研究発表

9. 広報関係

  • 宜野座イチゴ収穫 2001年2月8日:琉球新報
  • 種なしスイカ開発 2000年2月19日:沖縄タイムス
  • 県内でもイチゴ栽培 2002年9月24日:沖縄タイムス
  • イチゴ県内栽培本格化へ 2002年10月19日:琉球新報
  • 実った沖縄のイチゴ栽培 2003年2月22日:日本農業新聞
  • 宜野座村でイチゴ栽培を実証 2003.5:九州沖縄農業研究センターの研究事例報告「島を興すー農の新技術」、沖縄農林水産統計情報協会編、アグリおきなわ177:9-10.

10. 研究担当者

11. 研究協力(現地農家、県農試等)

12. とりまとめ責任者あとがき

沖縄県、鹿児島県にまたがる南西諸島でもっとも重要な作物はサトウキビである。サトウキビ生産拡大のため、圃場の集積、機械化、法人化などを通して大規模・低コスト生産システムの確立が急務とされている。しかし、サトウキビの大規模化を進めるには、一方で、さとうきびに圃場を提供しながら、サトウキビ生産に見合う収益をあげる農家群がなければこのシステムは成り立たない。このようなシステムを妨げる問題点の一つは気象的制約で、野菜などを作るのに適しているのは冬期を中心とした僅かな期間である。もう一つの問題は土地の利用についての慣行が他県とはかなり異なっており、容易には貸借関係が成立しないことである。

このような中で新たなシステムへの接近を図るには南西諸島で可能な高収益作目の生産技術を確立することが第一に必要である。亜熱帯という我々にとって余り経験のない気候条件の下で本プロジェクトを基本技術の開発から着手せざるを得なかった。それも5カ年という短期間に農家が自ら実施し、収益をあげることができる営農技術として確立することを目標とした。

対象とした主な作目は野菜と花きである。畜産や果樹は短期間での成果は難しく、さらに、成果が農家に普及するには相当の長期間を必要とする。もっとも注目したのはイチゴである。イチゴは現在、他県産が沖縄の店頭に並ぶ。鮮度は落ちているし価格は高い。従って、イチゴが島内で生産できれば相当のインパクトがある。加えて温度管理などは他の作目生産にも適用可能な技術となりうる。種なしスイカは他で試みたことのない新技術として、国内初の産地形成を目指した。施設利用作目ばかりでなく、サトウキビとの輪作を考慮してバレイショの新作付け体系の開発も目標とした。

花ではカーネーションに挑戦した。母の日需要はかつてほどではないが、春先の生花として根強い人気がある。これも温度管理の難しいことが予想された。他に、市場性などを考慮してユーチャリス、シンテッポウユリを加えた。高収益を目標に厳密な生産管理をしようとすると、植物としての特性が次々、問題となって立ち現れ、基礎的な生理学・生態学的研究がいかに重要かということを思い知らされた。

いずれもの作目も沖縄に適した土壌管理、病害虫防除等の共通的な基盤技術を必要としており、また、背景にある農地貸借など沖縄独特の慣行も調査する必要があった。これらは我々にとってははじめての経験であったが、多くの場面で沖縄県農試との協力が功を奏し、当初の目標を超える成果を上げることができた。本プロジェクトで確立された新たな高収益作物がこれからの沖縄農業の活性化に少しでも貢献することを期待している。

この地域先導技術総合研究の推進にあたって、現地営農試験地の設定にご協力頂いた宜野座村役場をはじめ、実証ほ場を提供して頂いた現地生産者の皆様、また、沖縄県試験研究関係者、JAおきなわ関係者、沖縄県庁関係者、琉球大学関係者、長崎県総合農林試験場愛野馬鈴薯支場関係者からは密接な連携を通じて有益なご意見、多大なご協力を頂いた。記して感謝申し上げる次第である。

地域先導技術総合研究の推進において、中核的な役割を果たした南西諸島農業研究チームは、現地との連携、参加研究室との調整、研究予算の運用、成果のとりまとめ等膨大な業務量をこなしてきた。本地域総合研究の実施にあたっては、営農現場が遠隔地であることや我々にとって不慣れな亜熱帯気候条件、十分とはいえない予算など厳しい研究環境の中で関連研究室の絶大な支援があった。これらの涙ぐましい努力に敬意を表する次第である。

松井重雄