九州沖縄農業研究センター

窒素付加堆肥の利用

1. ニンジン、レタス、キャベツへの利用-慣行栽培との比較、利用上の注意など-

窒素付加堆肥は無機態窒素が多いので18.7 mS/cmと通常の良質堆肥に比べて極めて高い電気伝導度(EC)を示します。しかし、コマツナのポット栽培試験により、本堆肥を施用してもコマツナの発芽や生育に悪い影響がないことを確認しました。さらに窒素付加堆肥の全窒素成分の6~7割が有効に利用されていることがわかりました。

コマツナのポット栽培試験での肥効率を参考に、窒素付加堆肥を化学肥料の代替としてハクサイ、スイートコーン、レタスなどの露地作物に施肥して栽培試験を行いました。堆肥の窒素成分含量(表1―1)から窒素付加堆肥の施用量を計算し、乾物に換算して457~622 kg /10aを施用しました。

表1―1栽培試験に供試した窒素付加堆肥の成分(乾物あたり)

試験の結果、いずれの作物においても化学肥料施肥と同等の収量、品質の収穫物を得ることができました(図1―1)。窒素付加堆肥は有機質肥料としての利用が期待できますが、窒素成分の溶出は従来の堆肥に比べると極めて速いようです(図1-2)。そのため、露地栽培では窒素付加堆肥を施用した後、すぐに播種や植付けをした方が良いと考えられました。

図1―1窒素付加堆肥を施用して栽培した野菜の収穫物収量 図1―2ハクサイ栽培期間中の窒素付加堆肥からの窒素溶出率と期間中の降水量

図1―1窒素付加堆肥を施用して栽培した野菜の収穫物収量 図1―2ハクサイ栽培期間中の窒素付加堆肥からの窒素溶出率と期間中の降水量

2. バレイショへの利用

長崎県はバレイショの全国第2位の産地です。長崎県では、平成20年から諫早干拓地で営農がはじまっています。諫早干拓地の土壌はカリやリン酸の肥沃度が高い一方、重粘で有機物が乏しく、緑肥の栽培や堆肥の施用による有機物の供給(土作り)が求められています。そこで、窒素付加堆肥と牛ふんおがくず堆肥をブレンドし、全窒素が3~3.5%になるように成分調整成型堆肥(表2―1)をつくりました。

表2-1窒素付加堆肥と牛ふんおがくず堆肥をブレンドした成分調整成型堆肥の養分含量(乾物%)

写真2―1写真2―1成分調整成型堆肥の散布その成分調整整形型堆肥により有機物供給と施肥が一度の作業で済み、更に長崎県の慣行の春作バレイショの施肥量を57%(チッソ施肥量6kg/10a)減らすことも可能ではないかと考え、試験を行いました。諫早干拓地の農地区画は大規模(中央干拓地6ha、小江干拓地3ha)ですので、堆肥の散布作業や施肥作業を効率的に行うことも求められています。その結果、成分調整成型堆肥の散布に要する時間は1ヘクタール当たり1.2時間で、実際に効率よく散布することが可能でした(写真2―1)。

諫早地域における春ばれいしょの目標収量は3200kg/10aですが、試験栽培では2ヵ年を通じてこの目標を大きく上回る収量が得られました(図2―1)。また、堆肥中の窒素の約4割が開花期までに溶出し(図2―2)、バレイショに肥料として使われ、残りの6割は土壌の肥よく度の向上に寄与しているものと考えられました。つまり、図2―3に示すように跡地土壌の作土の全窒素含量は堆肥施用とともに増加し、可給態窒素についても地力増進法による改善目標値(5 mg/100g)をほぼ達成することができました。現在、秋作バレイショについても同じように技術を導入できないか検討しているところです。

図2―1成分調整成型堆肥を用いた諫早干拓地における春作バレイショ収量

図2―2成分調整成型堆肥(2007年)からの窒素溶出パターン

減肥区は成分調整成型堆肥を乾物1トン/10aと窒素6kg/10aを、標準施肥区は牛ふんおがくず堆肥乾物1トン/10aと窒素11kg/10aを施用した春作の堆肥乾物1トン/10施用のほか、秋作に堆肥を乾物0.75トン/10a施用した。

3. 他の農作物への利用

九州沖縄農業研究センターでは、熊本県菊池地域振興局および菊池地域農業協同組合と協力して窒素付加堆肥の普及に向けて実証試験を行っています。ここでは冬ニンジンと春ニンジンの実証栽培試験の結果を紹介しますた。冬ニンジンでは収量は慣行栽培とほぼ同等で、やや秀品率が高くなる結果を得ています(写真3―1、表3―1)。また品質成分については、糖(ブドウ糖、果糖、ショ糖)が窒素付加堆肥施用で高くなる傾向がありました(表3―2)。同様に春ニンジンにおいても窒素付加堆肥の施用で遜色のない収量を得ることが出来ました。窒素付加堆肥は全窒素含量が高くなっているので全窒素とカリの成分比は1よりも大きくなっており、両成分のバランスが通常の牛糞堆肥に比べて改善されています。これは特筆すべき長所にもなります。通常、牛ふん堆肥の施用では土壌へのカリの集積が問題になることが多くありますが、窒素付加堆肥を利用することで土壌へのカリ集積を回避できることをこれまでの試験で確認しています(図3―1)。また、窒素付加堆肥は硝酸態窒素を多く含んでいますので、窒素溶脱の少ない施設栽培や硝化の進みにくい低温期の追肥等にも有効に利用できるものと期待しています。今後、このような栽培についても試験を行い、効果を確認する必要があります。

写真3―1冬ニンジンの収穫物の写真(左窒素付加堆肥区右慣行区)

写真3―1冬ニンジンの収穫物の写真(左;窒素付加堆肥区右;慣行区)

表3―1冬ニンジンの収量調査結果(アール当たり) 表3―2チッソ付加堆肥区の冬ニンジンの内部品質

表3-3春ニンジンの収量調査結果(アール当たり) 図3―1冬ニンジン栽培前後の土壌交換性カリウム含量