九州沖縄農業研究センター

作期移動による水田の温度環境と水資源の変化について

(1)九州における稲作の作期について

温暖化による品質低下の対応策として、稲作の時期をずらすことで高温下での登熟を回避することが検討されています。九州における稲作の時期は、登熟初期における台風遭遇の回避、あるいは晩生品種から中生品種への品種の変化により、これまで徐々に早期化がすすんできました。九州での平均的な田植えの時期(田植期)は、1950年代には6月下旬の後半(26~30日)であったのが2000年現在では6月中旬の前半(11~15日)と、2週間ほど早期化しています。(図3-1)

田植期と同時に、穂が出て登熟を開始する時期(出穂期)も早まってきました。九州での平均的な出穂期は、1950年代には9月10日頃であったのが2000年現在では8月25日頃と、同じく2週間ほど早期化しています。北海道あるいは関東、北陸などの地域では、九州よりも稲作の時期が早いのが特徴ですが、やはり同様に出穂期の早期化がすすんでいます。そのため、昔よりも暑い時期に登熟を迎えていることも、最近の高温障害の発生要因となっています。(図3-2)

図3-1近年における田植期(最盛期)の推移
図3-1近年における田植期(最盛期)の推移

図3-2近年における出穂期(最盛期)の推移
図3-2近年における出穂期(最盛期)の推移

(2)登熟期の気温の変化ついて

稲作の時期をずらすことで、稲の登熟期の温度環境は大きく変化します。例えば、佐賀における平年の気候条件の場合では、出穂期が現在の8月25日よりも10日遅れることで、登熟期間中の平均気温は24℃から22℃に低下します。また、高温障害の著しくなる目安の気温25℃を超える期間も短くなります。(図3-3)

ただし、登熟期がずれることで気温以外の湿度や日射等の気象条件も変化します。また、葉の茂り具合や水管理の違いによっても、水田の温度環境は大きく変化します。これまでの研究から、稲の高温障害の発生は、稲体そのものの温度(植物体温)、特に穂の温度に大きく左右されることが分かってきました。現在、登熟期の気象条件や水管理方法の違いによって、稲の植物体温と品質がどのように変化するのか研究に取り組んでいます。(写真1)

図3-3登熟期の移動による気温の変化(佐賀平均値)
図3-3登熟期の移動による気温の変化(佐賀平均値)

写真1水田におけるかけ流し試験と温度観測の様子
写真1水田におけるかけ流し試験と温度観測の様子

(3)夏季の水資源量の変化ついて

温暖化は玄米の品質だけでなく、水田での水の消費量にも影響を与えます。一般的には気温が高いほど蒸発散量が増えるため、高温条件下では水の消費量が多くなります。将来の気温上昇による稲の生育の変化、熱輸送の変化を考慮してモデル計算した結果、降水量が現在と変わらない場合には気温が2℃上昇することで、九州の水田地域における夏季(8月)の潜在的な水資源量(降水量から蒸発散量を差し引いた値:水資源賦存量)が全体的に減少し、マイナスとなる地域の出現することが予測されました。(図3-4左半分)

稲作の時期をずらすことで水田での水の消費量も変化します。先のモデル計算から、仮に田植期を現在よりも30日遅らせた場合、九州で潜在的な水資源量がマイナスとなる地域は減ることが予測されました。逆に田植期を30日早めた場合、マイナスとなる地域は現行作期の場合とそれほど変わらないことが予測されました。現在、さらに精度の高い予測のために、作期移動による稲の生理的な変化と水消費量の関係について研究を進めています。(図3-4右半分)

図3-4将来の温暖化および昨期移動による稲作地域の水資源賦存量の変化予測(1)

図3-4将来の温暖化および昨期移動による稲作地域の水資源賦存量の変化予測(2)

図3-4将来の温暖化および昨期移動による稲作地域の水資源賦存量の変化予測

リンク先:研究成果情報(17年):温暖化による水田域の水資源賦存量の変化予測