生物機能利用研究部門

遺伝子組換え農作物・食品ハンドブック

QVIII- 19 遺伝子組換え微生物を利用して生産されたトリプトファンを摂取した人の中に健康被害が発生したことがあったと聞きますが、その事実関係を教えてください。

Answer1

1989年、激しい筋肉痛を伴う好酸球増加症例が米国ニューメキシコ州で報告されました。疫学調査*の結果、L-トリプトファン摂取との因果関係が明らかになりました。

Answer2

その後、日本のメーカーの昭和電工社が遺伝子組換え微生物で製造したL-トリプトファンで被害が出ており、このL-トリプトファンの製造工程で除去されなかった不純物が原因との指摘がなされました。

Answer3

しかしながらその後の研究で、動物実験では含まれている不純物の8000倍の量でようやく症状が出ること、昭和電工以外の製品でも大量投与で同じ症状が出ること、また疫学調査の方法論に致命的な誤り があったことなどから、昭和電工の不純物が原因であるという説はほぼ完全に否定されています。健康被害の原因はL-トリプトファンの過剰摂取によるものであったと推測されています。

Answer4

昭和電工社は賠償金支払いで患者と和解しましたが、その責任は不純物混入による過失に対してではなく、製造物責任法(PL法)によっています。

* 疫学調査 : 病気の原因と考えられる要因と病気の発生の関連性について、統計的に調査すること。