野菜花き研究部門

黄色

黄色花色は様々な色素で発現している

黄色は自然界に最も多く存在する花の色です。一口に黄色といっても黄色花弁に含まれる色素組成は様々で、カロテノイド、ベタレイン、フラボノイドの3種類の色素のどれかによって作られています。最も多いのはキク(図7)バラ(図8)ユリ(図27)スイセン(図9)パンジー(図10)ラン(図11)など、カロテノイドによる黄花です。カーネーション(図12)ダリア(図13)コスモス(図14)、デルフィニウム、ボタン、キンギョソウ(図14b)ヒュウガミズキ(図14e)などの花は、フラボノイドのなかでも特に黄色味が濃いカルコンやオーロンにより発色しています。ベタレインによる黄色は、ハナスベリヒユ(図14c)オシロイバナ(図15)などのナデシコ目に属する植物(ナデシコ科、イソマツ科、ザクロソウ科を除く)に限られています(図110)

図7(左)黄花のキク品種「フロリダマーブル」(右)「ステイツマン」
図8 黄花のバラ品種「ゴールドバニー」
図27 橙花ユリ品種「サイジャ」と黄花ユリ品種「コネチカットキング」
図14b キンギョソウ
図14c ハナスベリヒユ
図14d オクラ
図14d ヒュウガミズキ
図15 黄花のオシロイバナ

花弁に含まれるカロテノイド キク、ユリ、バラの例

日本で生産される花きの中で生産額が多いのはキク、バラ、カーネーション、ユリで、これらの花きは4大花きと呼ばれています。この中で、カーネーションの黄色はカルコン(図24104)と呼ばれるフラボノイドによるものですが、それ以外はカロテノイドにより黄色を発色しています。多くの場合、花弁には多種類のカロテノイドが含まれています。また、植物の種類によってカロテノイドの組成が異なります。ここではキク、バラ、ユリの花弁に含まれるカロテノイドについて紹介します。

図24b ルテインはβ,ε-カロテノイドに分類されるカロテノイドで、両端にβ環とε環が一つずつ付いた構造をしています

<キク>
キクに含まれるカロテノイドはルテインやルテイン誘導体(ルテインの立体異性体やエポキシルテイン)が大半を占めます(成果情報1)。ルテインはβ, ε-カロテノイドに分類されるカロテノイドで、両端にβ環とε環が一つずつ付いた構造をしています(図107図24b)。
キク科に属する植物の花弁のカロテノイド組成を比較してみると、マリーゴールドやヒマワリも、キクと同じようにルテインやルテイン誘導体が主要なカロテノイドでした。ガザニアやキンセンカ、オステオスペルマムでは、ルテイン誘導体以外にβ, β-カロテノイド(両端にβ環が付いているカロテノイド)も含まれていました。一方、ガーベラやジニアはゼアキサンチンやビオラキサンチンなどのβ, β-カロテノイドが主要なカロテノイドでした。このように同じキク科に属する植物でも、花弁のカロテノイド組成は植物種により大きく異なります。

<ユリ>
ユリ(黄花)に含まれるカロテノイドは、アンテラキサンチンやビオラキサンチンなどのβ, β-カロテノイドが主です。また、ユリの橙色の花弁には、カプサンチンと呼ばれる黄色花弁には含まれていない赤色のカロテノイドが含まれています(図27)。

<バラ>
オールドローズと呼ばれるバラの古典品種には、黄花の品種がありませんでした。1980年代に、ロサ・フェティーダ (Rosa foetida)と呼ばれる黄花の野生種が交配に用いられるようになり、バラの花色の幅が広がりました。アントワーヌ・デュシェと呼ばれるピンク色の花色のバラ品種にロサ・フェティーダをかけあわせて、1900年に黄花品種第1号ソレイユ・ドールが誕生しました。以後、ソレイユ・ドールを交配親に用いて様々な黄花品種が誕生しました。
バラの場合は、カロテノイド組成が品種によって異なっています。また、β,β-カロテノイドを多く貯める傾向があります。例えば'ゴールドサム'や'イエローメイアンディナ'はビオラキサンチンやゼアキサンチン、β-カロテンが主要なカロテノイドですが、'セレーネ'や'シューティングスター'はビオラキサンチンやルテオキサンチンが主要なカロテノイドです。

関連する農研機構成果情報(一般向け)

専門家向け参考文献

全般
  • Ohmiya, A. (2011) Diversity of carotenoid composition in flower petals. JARQ 45: 163-171.
  • Ohmiya, A. (2013) Qualitative and quantitative control of carotenoid accumulation in flower petals. Sci. Hort. 163: 10-19.
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バラ
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