野菜花き研究部門

青色

デルフィニジンによる青色花色

青色は多くの場合、青色アントシアニンであるデルフィニジンが蓄積して発色しますデルフィニウム(図28)ロベリア(図29)サイネリア(図30)リンドウ(図31)の花の青色はデルフィニジンによるものです。

図28 青花のデルフィニウム品種「フォルカフリーデン」
図29 青花のロベリア品種「リビエラミッドナイトブルー」
図30 青花のサイネリア品種「桂華」
図31 青色のリンドウ品種「八甲田」

デルフィニジンはアントシアニジンのB環に水酸基(-OH)が3つ結合した構造をしています(図103)。植物がデルフィニジンを作るためにはB環の3'と5'の位置に水酸基を付ける酵素(フラボノイド-3', 5'-水酸化酵素:F3'5'H, 図102103)が必要です。バラやカーネーションはこの酵素の遺伝子を持っていないため、青い花を目指して交雑を繰り返してもデルフィニジンを作る青花品種を作ることが出来ません。遺伝子組換えで作られた青いバラやカーネーションは、他の植物のフラボノイド-3', 5'-水酸化酵素遺伝子を遺伝子組換えで導入して作られました。

キクもフラボノイド-3', 5'-水酸化酵素遺伝子を持たない仲間の一つです。農研機構では、キクにフラボノイド-3', 5'-水酸化酵素遺伝子を導入して、花弁に含まれる赤色アントシアニン(シアニジン)をデルフィニジンに変換することに成功しました(プレスリリース1成果情報2)図32

図102 アントシアニジンの基本構造
図32 ピンク花キク品種「大平」と遺伝子組み換えでできた青いキクの写真

青色発現に必要な条件

アントシアニンのなかで、デルフィニジンは最も青に近い色をしていますが、真っ青というよりは紫色に近い色をしています。遺伝子組換えでできた青いバラやカーネーションの花弁に含まれるアントシアニンはデルフィニジンがほぼ100%ですが、花弁は青紫色をしています。アントシアニンによる発色には、その構造以外にも(1)液胞のpH(図40)、(2)金属錯体の形成、(3)フラボンなどの共存する色素(コピグメント)との分子会合、(4)アントシアニン同士の分子会合で色調が変化します。したがって、デルフィニジンが蓄積しても青い色にならない場合は、さらに糖や有機酸をデルフィニジンに付けて分子会合を促進したり、液胞のpHを上げたり、といった「もうひと工夫」が必要になります。植物は、それぞれ独自の「もうひと工夫」をして青い花を咲かせています。以下に、その代表的な例をいくつか紹介します。

デルフィニジン-共存色素-金属による青色複合体による青色

サルビア(Salvia patens)やアジサイ、ツユクサの青い花は、デルフィニジンがフラボンなどのコピグメントや金属イオンと複合体を形成することで青色を発色しています。なぜ、複合体を形成することで青味が増すのかはわかっていませんが、化合物同士が接近することで、発色に関わる共役二重結合(図122)の電子状態が変わり、青色になると推測されています。

図33 ツユクサ

<ツユクサ、サルビア>
ツユクサ(図33)に含まれる青色アントシアニンは「コンメリニン」と呼ばれています。コンメリニンは、マロニルアオバニン(デルフィニジン型アントシアニン)とフラボコンメリン(フラボン)とマグネシウム(Mg)により複合体を形成して青色を発色しています。サルビアの仲間で、真っ青な花を咲かせるサルビア・パテンス(Salvia patens)の花弁に含まれる青色アントシアニンも、コンメリニンと非常によく似た構造をしています。コンメリニンと同じマロニルアオバニンとフラボン(アピゲニン)、Mgにより構成されています。

※マロニルアオバニン:デルフィニジン 3-p-クマロイルグルコシド-5-マロニルグルコシド

図34 赤花と青花のアジサイ

<アジサイ>
アジサイの青花や赤花(図34)は、デルフィニジン 3-グルコシドで発色していて、アントシアニンの組成や量に違いは見られません。青花と赤花の違いは、アルミニウムの量と共存物質の組成の違いです。青花にはキナ酸の3位に有機酸がエステル結合した3-エステル化合物(3-カフェロイルキナ酸、3-クマロイルキナ酸)が多く含まれていますが、赤花には5位に結合した5-エステル化合物が多く含まれています。デルフィニジンと共存する化合物のわずかな構造の違いが、色調に大きく影響しているのです。また、青花のほうがアルミニウムを多く含んでいます。一般にアジサイを育てるときには酸性の土のほうが青色に発色しやすいのは、酸性の土壌ではアルミニウムが吸収されやすい形で存在するためです。アジサイの青花では、デルフィニジンと3-エステル化合物がアルミニウムを介して結合し、青色複合体を形成して青い色を発色しています。

※アジサイは装飾花で、花弁に見えるのは植物学的にはがく(萼)に相当します。

ポリアシル化アントシアニンによる青色

一般にアントシアニジンは不安定な化合物で、糖や有機酸が結合することで、安定化し、水に溶けやすくなります。(アントシアニンはアントシアニジンに糖や有機酸が結合した化合物の総称です)。多くの場合、「アントシアニジン-糖-有機酸」というように、有機酸は1分子結合していますが、まれに「アントシアニジン-糖-有機酸-糖-有機酸」というように、有機酸が2分子以上結合したものがあります。このような化合物は「ポリアシル化アントシアニン」と呼ばれています。キキョウ(図35)、シネラリア、リンドウ(図31)、チョウマメ、ロベリア(図29)デルフィニウム(図28)の青い花は、ポリアシル化アントシアニンにより青色を発色しています。

※アシル化:有機酸の中にあるアシル基(R-C=O)を介してアントシアニンと有機酸が結合すること

図35 キキョウ

<キキョウ>
キキョウ(図35)の青色の花弁に含まれる「プラチコニン」と呼ばれるアントシアニンは、デルフィニジンに糖3分子とコーヒー酸2分子が結合したポリアシル化アントシアニンです。この2分子のコーヒー酸によってアントシアニジン分子がサンドイッチ状にはさまれ、安定した構造をとっています。このようにアントシアニン分子内の有機酸が共存色素として働き、アントシアニン分子同士が会合して色素複合体を形成することを、「分子内コピグメンテーション」(図36)と呼びます。ポリアシル化アントシアニンは分子内コピグメンテーション構造を形成することで、中性から弱アルカリ性の水溶液中でも安定で、青味を増した色を発色します。

図36 アントシアニンの分子内コピグメンテーション
図32b 青いキク

<遺伝子組換えの青いキク>
農研機構では、キクにフラボノイド-3', 5'-水酸化酵素遺伝子 (F3'5'H) を導入して、花弁に含まれるシアニジン(赤色アントシアニン)をほぼ100%デルフィニジン(青色アントシアニン)に変換することに成功しました(プレスリリース1成果情報2) 図32。しかしながら、花の色は目指していた青色ではなく紫色でした。そこで、F3'5'H遺伝子の他に、チョウマメ由来のアントシアニン3',5'-グルコシル基転移酵素遺伝子を導入し、青い花を咲かせるキクを作ることに成功しました。花の色素を調べた結果、デルフィニジンの3'位と5'位に糖が結合し、さらにキクがもともと持っているフラボンと相互作用することにより、青色を発色していることがわかりました。(図32b) (プレスリリース3成果情報3)

デルフィニジン以外のアントシアニジンによる青色発色の例

赤色アントシアニジンであるシアニジンやペオニジンにより、青色が発色する場合があります。そのしくみは植物の種類により異なります。ここではヤグルマギク、ソライロアサガオ、ヒスイカズラの例について解説します。この3例は、アントシアニンによる発色には、アントシアニジンの構造だけでなく、色素の存在形態や色素を取り巻く環境がいかに重要かを示しています。

<ヤグルマギク>
金属が重要
ヤグルマギク(図37)の花弁には、赤色アントシアニンであるシアニジンが含まれているのに、なぜ青い色をしているのかは長い間謎でした。東京学芸大学の武田らによって、ヤグルマギクの青色色素(プロトアントシアニンと呼ばれている)の結晶が単離され、スプリングエイト(兵庫県播磨にある大型放射光施設)によってその構造解析が行われました。その結果、シアニジン(6分子)とフラボン(6分子)に鉄(1分子)、マグネシウム(1分子)、カルシウム(2分子)の3種類の金属イオンが結合した非常に複雑な構造をした色素複合体により青色を発色していることがわかりました。ヤグルマギクの他に、シアニジンが金属錯体を作って青色を発色する例として、ヒマラヤの青いケシ(メコノプシス、図38)が、ペオニジンが金属錯体を作って青色を発色する例としてネモフィラがあげられます。

図37 ヤグルマギク
図38 青いケシ
図39 ソライロアサガオ

<ソライロアサガオ>
pHが重要
ソライロアサガオ(品種名「ヘブンリーブルー」図39)の花弁に含まれるアントシアニンはペオニジン骨格にコーヒー酸が3分子結合した構造をしたポリアシル化アントシアニンで、「ヘブンリーブルーアントシアニン(HBA)」と呼ばれています。ソライロアサガオはつぼみの時には赤紫色をしていますが、花が開くに従って青い色に変化します。
このときの花弁細胞の液胞内(HBAが蓄積している場所)のpHはつぼみの時が約6.6(弱酸性)で、花が開くにつれてpHが上昇し、完全に開花した状態では7.7(アルカリ性)になります。このとき色素組成に変化はないので、液胞の中のpHの変化により色の変化がもたらされているものと考えられています。一般にアントシアニンはアルカリ性溶液の中では不安定で、赤や青の色が消えてしまいますが(図40)、ソライロアサガオのHBAはポリアシル化アントシアニンで、分子内コピグメンテーション (図36)の形態をとることによりアルカリ溶液中でも安定しています。

図40 pHによるアントシアニンの発色の違い
図41 ヒスイカズラ

<ヒスイカズラ>
ヒスイカズラ(英名:ジェイドバイン) (図41)と呼ばれるマメ科のつる植物は、その名の通りヒスイ色(やや緑がかった青色)の花を咲かせます。この花に含まれるアントシアニンは「マルビン」と呼ばれるマルビジン型アントシアニン(図103)です。マルビンの色は赤紫ですが、共存するサポナリン(フラボンの一種)の効果によって紫味の強い色になり、さらに花弁細胞の液胞のpHがアルカリ性になっているためヒスイ色を呈しています。一般にpHがアルカリ性に傾くとアントシアニンは不安定で分解されてしまいますが、共存するサポナリンによって安定していると考えられています。

関連する農研機構成果情報・プレスリリース

専門家向け参考文献

遺伝子組換えでできた青いバラ
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一般向け参考書

  • 岩科 司 (2008) 花はふしぎ 講談社ブルーバックス
  • 武田幸作 (1996) アジサイはなぜ七色に変わるのか? PHP研究所