キクに青い花を咲かせる技術
要約
これまで青い花色のキクは作出されていない。遺伝子組換え技術を用い、フラボノイド3′,5′-水酸化酵素とアントシアニン3′,5′-グルコシル基転移酵素の遺伝子2つをキクに導入して花弁で働かせることで、青いキクの花を咲かせることができる。
- キーワード:キク、青い花色、遺伝子組換え技術、アントシアニン、フラボン
- 担当:野菜花き研究部門・花き遺伝育種研究領域・遺伝子制御ユニット
- 代表連絡先:電話029-838-6805
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
キクは日本の切り花出荷量の40%を占める重要な花きである。キクには白・黄・赤など様々な花色があるが、紫や青といった花色はない。これは青い花をもつ近縁の植物種が存在しないためであり、交配など従来の品種改良法では青いキクの作出は不可能である。従ってキクに青い花を咲かせるためには、遺伝子組換え技術等の新たな手法の確立が不可欠である。
遺伝子組換え技術を用いて、キクの舌状花弁でカンパニュラのフラボノイド3′,5′-水酸化酵素(F3′5′H)の遺伝子をキクのフラバノン3-水酸化酵素(F3H)遺伝子のプロモーターを用いて発現させると、青色発色の基となるデルフィニジン型のアントシアニンをほぼ100%の割合で蓄積させることができる。しかし、この方法で得られるキクの花色は紫や青紫である。そこでキクを、よりあざやかな青い花色に改変する方法を開発する。
成果の内容・特徴
- カンパニュラのF3′5′H遺伝子と、チョウマメのUDP-グルコース:アントシアニン3′,5′-グルコシル基転移酵素(A3′5′GT)の遺伝子を、それぞれキクのF3H遺伝子のプロモーターを用い、キクの花弁で発現させることにより、キクに青い花を咲かせることができる(図1、図2)。
- キクの花弁で青の発色を担うアントシアニンは、F3′5′H遺伝子の働きによりシアニジン型からデルフィニジン型となり、A3′5′GT遺伝子の働きにより、3′位と5′位の水酸基に糖(グルコース)が結合する(図2)。
- 青いキクの花弁に含まれるアントシアニンは、花弁の搾汁液と同等の酸性条件下(pH5.6)では青紫色を呈する。青いキクの花弁に含まれるフラボンをアントシアニンの5~10当量を加えると、青いキクの花弁と類似した吸光スペクトルを示す青色を呈する(図3)。このようにキクは、遺伝子の導入によって新たに合成されたアントシアニンとフラボンの共存によって青を発色する(図2、図3)。
- 本技術は、デコラ咲き、ポンポン咲き、アネモネ咲き、デージー咲きなど様々な花型のキクの青色化に適用できる(図4)。
成果の活用面・留意点
- 本技術を適用するためには、遺伝子を導入するための葉切片からの再分化系や形質転換系を確立したキクの品種や系統を用いる必要がある。
- 本技術により作出した青いキクの日本国内での栽培・販売は、カルタヘナ法に基づく第一種使用等に係る承認を受ける必要があり、野生種との交雑による生物多様性への影響を低減する技術開発が必要である。
- 本技術は、様々な花きの青色化にも応用できる可能性があるが、植物種により最適な導入遺伝子の検討や方法の改良が必要である。
具体的データ

その他
- 予算区分:交付金、競争的資金(科研費)
- 研究期間:2011~2017年度
- 研究担当者:野田尚信、間竜太郎、能岡智、中山真義、道園美弦、岸本早苗、田中良和(サントリー)、勝元幸久(サントリー)
- 発表論文等:
1) Noda N. et al. (2017) Sci. Adv. 3(7):e1602785
2) Noda N. et al. (2013) Plant Cell Physiol. 54(10):1684-1695
3) Noda N. et al.「青系花色を有するキクの作出方法」国際公開番号WO2017/002945(2017年1月5日)
4) Noda N. et al.「青系花色を有する植物及びその作出方法」国際公開番号WO2017/169699(2017年10月5日)