動物衛生研究部門

口蹄疫

2.あざ笑う「口蹄疫」 - 口蹄疫2010 えびの サーベイランス -

国際重要伝染病研究領域 領域長 坂本 研一

2010年4月27日、口蹄疫の発生が続く川南町から約70km離れたえびの市の1農家で口蹄疫の発生が確認されました。疫学的にも発生原因が究明されており、比較的早期に殺処分や埋却などの対応がなされたので、清浄化に向けた動きが一気に持ち上がりました。移動制限の解除は、最終発生の処分終了21日後に実施されます。このため、清浄性の確認には半径10kmの臨床検査の他、半径3km以内の感受性家畜を統計的手法で抽出して採血と血清分離を行い、21日までに血清学的検査を終了しなくてはなりません。早い時期での採血は、口蹄疫の再発の懸念があることから不可能であり、あまり期日が迫ってからでは、検査結果を期限内に出すことができなくなります。このため、清浄性確認にはサーベイランスの計画を立ててから検査実施までにはさほど時間的な猶予は与えられておらず、この血清検査は非常にタイトなスケジュールで実施しなくてはなりません。

口蹄疫では発生が多極にわたるとその防疫は極めて困難となります。このため我々としても一刻も早くこのえびの地域での口蹄疫を撲滅しておきたい思いでした。皆の願いが通じたのか最初の発生から6日たってもこの地域における続発は確認されませんでした。このため、この地域の清浄化に向けたサーベイランスをどのようにすればよいか話し合いが関係者の間で持たれました。その矢先、同地域で2件目の発生が起こりました。それも、感染すると牛の1000倍以上のウイルスを排泄するという豚での発生であり、関係者一同腰が砕けた思いでした。このため、清浄化に向けた計画は頓挫しました。しかし、この豚での発生も不思議なことにその後の発生が認められず、これもこの地域における殺処分と埋却、消毒などの防疫活動が迅速であったためだと考えられました。そして、豚の発生からさらに6日が過ぎました。続発が確認されず、再び清浄化に向けたプログラムの検討が始まりました。しかし、またもや検討を始めた途端に、今度は牛で口蹄疫が発生し、さらに、その2日後にも牛で口蹄疫が発生して、清浄化のための血清サーベイランスのプログラムを論議する気力がみんなから失せていきました。何とかえびのの火を消したいという一同の思いは無残にも打ち砕かれ、「口蹄疫」にせせら笑われているような気さえしました。また新たな発生があるのではないかと暗く臆病な気持ちになっていきました。清浄化のサーベイランスのことを口に出す者はいなくなり、口蹄疫がまたぽつりぽつりと発生するのではないかと疑心暗鬼になっていました。

そうこうしているうちに時が経ち、サーベイランスの時期に突入して慌てて対応を迫られました。この地域ではこれ以上口蹄疫は発生しませんでした。このため、直ちに清浄化の血清サーベイランスのためのこの地域の感受性家畜1500頭以上から血液が採材され、その血清が現地から送られてきました。検査が実施され、異常な個体は一頭もいませんでした。えびの地域の清浄性が確認され、6月4日にこの地域の移動制限は解除されました。後に、分離ウイルスを用いて海外病研究施設で実施された動物感染試験によると、牛における潜伏期間は5~6日、豚では2日程度でした。これは、野外における発生の知見とほぼ一致していました。えびの地域は早期発見と迅速な殺処分と埋却ができれば口蹄疫を封じ込めることができるという一つの事例(モデル)であり、口蹄疫の防疫に一筋の明るい光を照らしました。

動物衛生研究所ニュースNo.52 支所の便り (2014. 1.31)