プレスリリース
環境に優しいわい化栽培果樹用スピードスプレヤーを開発
- 送風調整機構と新型ノズルにより農薬飛散を大幅軽減 -
ポイント
- 風量・風向を調節できる遮風板とドリフト低減ノズルの組合せにより、防除効果を落とすことなくドリフトを低減
- 速度連動装置により、高精度な薬剤散布が可能
- 平成23年度市販化予定
概要
(独)農研機構【理事長 堀江 武】生研センターでは、第4次農業機械等緊急開発事業において、株式会社丸山製作所、ヤマホ工業株式会社と共同で、風量・風向を自在に調整できる遮風板と新型のドリフト低減ノズル、さらには、速度に連動したポンプ圧力制御装置の搭載により、農薬飛散を最小限に抑え、散布量を高精度に制御できるわい化栽培果樹用スピードスプレヤー(以下、「開発機」)を開発しました。開発機は、平成23年度に市販化予定です。
開発機は、わい化りんご園を主な対象としており、機体左右の風向や風量を調節できる遮風板回動装置と噴霧粒径が通常の3~4倍大きいドリフト低減型ノズルを装備し、十分な付着性能を維持したままドリフトを大幅に低減できる防除機です。また、速度連動装置で設定した散布量を正確に自動制御することができます。
予算:運営費交付金
特許:特願2010―77736(出願中)
詳細情報
開発の背景と経緯
果樹園における薬剤散布は主にスピードスプレヤー(以下、「慣行SS」)により行われており、送風を伴って機体側方や上方に薬液を散布しています。慣行SSでは園端付近でも園内中央部分でも同じ風量・風向の送風で散布するため、園端付近でドリフトが発生しやすくなっていました。しかし、平成18年よりポジティブリスト制が施行され、より一層ドリフトに配慮する必要が高まり、平成18年からドリフトを低減できる果樹用防除機の開発に取り組んできました。
立木果樹用ドリフト低減型防除機の概要
- 開発機は、送風機吹出口に開閉可能な遮風板4枚を左右対称に取り付けてあり、園端からの距離、繁茂程度に合わせ、機体左右の風向や風量を適正に調節して散布ができます(図1、表1)。
- 噴霧粒子径が慣行のノズルより通常の3~4倍大きく、自然風や送風機による風によってドリフトしにくいノズルが装着されています(図2)。
- 作業速度が変化しても常に設定した単位面積当たり散布量を維持できるように走行速度、散布圧を検出して、調圧弁を電動モータで自動制御し、吐出量を調節する速度連動装置を備えています。速度連動装置については防除シーズン前に、散布圧1.0MPaと1.5MPaでの1分間のノズルの噴霧量を速度連動装置の流量計で測定し、樹列間距離(散布幅)、10a当り設定散布量とともに1分間のノズル噴霧量を入力します。散布毎に入力する必要なく、散布圧が自動調節され毎回誤差5%以下の精度で、設定散布量の薬液を散布できます。
開発機を利用したドリフト低減のための作業方法
- 最外列の散布時には、園外側の遮風板を最大に傾斜させ、送風の抵抗として園外方向への風量を抑え、機体上方へ巻き上がった噴霧粒子が送風によって流れる園外方向へのドリフトを少なくします。
- 次に、2列目から最外樹列と第2樹列を散布するときには遮風板を適度に閉じて風向を制御することによって、園内側から園外側へ最外樹列を通して抜ける薬液のドリフトを少なくします(図3)
ドリフト低減効果・散布性能等
- わい化りんご園で開発機および慣行SSを供試して、薬液(ダーズバン)を散布量450L/10aで散布し、園外へのドリフト薬液量を測定した結果、開発機は全ての地点で検出限界値の0.01ppm未満でしたが、慣行SSでは園端から5mで2.7ppm、25m地点で0.02ppmとなり、開発機の高いドリフト低減効果が認められました(表2)。
- 上記ドリフト試験と同一条件で清水を散布し、最外樹列1樹冠内に80枚の感水紙を設置し、地上高0.5~3.0 mの付着度指数を調べた結果、付着性能は開発機では全ての高さで付着度指数7.5以上となり、慣行SSと同等の付着性能でした(表3)。
- 速度連動装置について、6.8aのほ場に450L/10aの設定散布量で速度を変化させて散布した結果、設定散布量と実散布量の差は4%で、高精度に設定散布量の薬液を散布できました。
- わい化りんご園で2年間の通年の防除効果試験を行い、病虫害への防除効果は慣行SSと同等であることを確認しました。
今後の予定・期待
平成22年10月28日に埼玉県農林総合研究センター園芸研究所で現地検討会を実施しました。今後も開発したわい化栽培果樹用スピードスプレヤーを積極的に紹介する等、普及促進のための活動を続けていきます。また本開発機は、平成23年度市販化予定で、安心・安全な果実生産に貢献していきます。

